ヤマハ発動機のドローン用シリーズハイブリッドコア コンセプト SHEV。

 ヤマハ発動機のブースでは、産業用無人ヘリコプターFAZER R G2を使った森林計測サービスの事例や農薬散布用ドローンYMR-08APとともに、コンセプトモデルとして「ドローン用シリーズハイブリッドコア コンセプト SHEV」を展示していた。このSHEVについて、ヤマハ発動機ソリューション本部UMS事業推進部事業開発部アビエーショングループ主事の矢路川大成氏に聞いた。

25Lの燃料を積んで大型ドローンを最大4時間飛行させることができる

 ヤマハでは1987年に農薬散布を目的とした産業用無人ヘリコプターを開発し、30年以上にわたって無人ヘリを販売している。最新型のFAZER Rでは32Lの農薬を搭載して飛行できるほか、そのペイロードを生かして物流や測量、観測といった用途にも利用されている。このFAZER Rに搭載されているエンジンを、電動マルチコプターの電源を供給する発電機として使うというコンセプトを示したのが「ドローン用シリーズハイブリッドコア コンセプト SHEV」だ。

 SHEVのベースとなっているのは、2013年にデビューしたFAZERシリーズに搭載している、無人ヘリコプター専用の排気量390cc、水冷4サイクルOHV水平対向2気筒エンジンだ。2つのシリンダーを左右対称に配置した水平対向エンジンは、比較的振動が少なく重量物を中心に集めることができるなど、航空機向きのエンジンとして定評がある。FAZERシリーズではこのエンジンの軸出力をローターの駆動力として使っているが、SHEVはこのエンジンに発電機とインバーターを組み合わせて電気を取り出し、その電力を使って電動マルチコプターのモーターを駆動するという、まさに“空飛ぶ発電機”である。

SHEVのベースエンジンは農薬散布用途などで定評のある産業用無人ヘリコプターFAZER Rのもの。

「世の中のドローンのほとんどがリチウムイオンバッテリーの電力で飛んでいる。しかしバッテリーは重量あたりのエネルギー密度が低く、機体の大小にかかわらず15〜30分程度しか飛ぶことができない。それに対してガソリンのエネルギー密度は圧倒的に高く、例えばFAZER Rであれば、燃料タンクに最大となる12Lのガソリンを入れると、約100分飛ぶことができる」(矢路川氏)という。

 このSHEVの燃料タンク容量は公開されていないが、矢路川氏によると「SHEVを使ったドローンを作るとして、ペイロードは最大約25kgを想定している。例えばこのペイロードすべてを燃料に使うと、25L強のガソリンを積めることになり、最大4時間の飛行ができる。小型のカメラ程度の重さであれば、ほぼ25L積めるため、海の上を4時間飛び続ける形で監視をするといったことができる」という。また、燃料であればいわゆる満タンにするのに時間がかからず、着陸後すぐに離陸して同じミッションを繰り返すことができるというのも、エンジンの大きなメリットだ。

ヤマハのマリン事業のスタイルをドローンのビジネスでも

 SHEVのユニット重量は補助動力用バッテリーやインバーター、配線類も含めて約70kg。そのため、SHEVを搭載するドローンは非常に大型のものになるといい、ベースとなったエンジンを搭載するFAZER Rよりも大きく、「六畳一間に入るくらいのサイズの電動マルチコプターを想定している」(矢路川氏)。ただし、ドローンの最大離陸重量が150kgを超えると、パワーユニットにも有人機レベルの耐空証明が求められるため、それ以下が現実的なところだという。

曲線を使った有機的なフォルムをまとったSHEV。上部の黒いカーボンの部分は燃料タンクで、タンクキャップはオートバイに使われるエアプレーンタイプ。白い部分の中央にあるのは冷却系統のラジエターキャップ。

 ヤマハ発動機ではFAZERシリーズと同時に、YMR-08シリーズのような電動マルチコプターも製品として展開している。そのため、SHEVを積んだドローンをヤマハ発動機は出さないのか、と期待が膨らむところだ。しかし、現時点でヤマハ発動機はこのユニットを世界中のドローンメーカーに供給して、それぞれの国や地域に適したドローンやサービスで使ってもらうことを前提としている。事実、「技術開発と同時に事業開発を進めており、“こういったドローンを作りませんか?”と、ヨーロッパ、北南米、アフリカなど世界のドローンメーカー40〜50社に提案をしている」(矢路川氏)という。

 同社は社名にもある通り、オートバイを中心に船舶用エンジンや自動車用エンジンなど原動機メーカーとしての長い歴史がある。もちろんオートバイは完成車メーカーとして知られ、さらには小型ボートなどの製品も展開しているが、その一方でトヨタ・レクサスのエンジン開発から製造まで手掛けるなど、その礎はエンジン製造にある。

 この、エンジンを他のメーカーの製品のために供給するというビジネスを、矢路川氏はこう説明する。「例えば船舶は世界各地で求められる船の形や素材も異なり、エンジンもそれに合わせたものが求められる。それだけに、エンジンから船体まですべてをヤマハ発動機で手掛けるというのはなかなか難しく、ヤマハ発動機のマリン事業の中心は、エンジンを作って各地の船体メーカーと協業しながらボートを作り上げていくというビジネスになっている。ドローンのビジネスも同じで、使う場所や仕事の内容で求められる形状や機能、法規対応などがすべて異なってくる。ヤマハ発動機はそのキーコンポーネントとして得意なエンジンがあるので、エンジンという分野でドローンの世界に貢献できればと考えている」(矢路川氏)。

FAZER Rから転用した390cc水冷4ストローク水平対向OHV2気筒エンジン。ブルーのアルマイトが美しいヘッドカバーや、磨かれたエキゾーストパイプは専用品。
クランク軸上に配置された発電機も、ブルーアルマイトのカバーが美しい。ここで作られた電力が両側のインバーターを介してモーターに供給されるイメージとされている。

 今回出展されたSHEVはあくまでもドローン用ハイブリッドパワーユニットのひとつのスタイルだとしている。ただコンセプトとしながらも、四隅に付いた水冷式インバーターはモーターに電力を供給すると同時に、ここに直接ローターのアームを取り付けるといったイメージでデザインされているなど、ドローンへの搭載については具体的なアイデアも示されている。また、コンセプトだけでなくパワーユニットとしての開発も進められていて、現在はコンセプトモデルとして机上検討を終え、公表スペックが出るか機能検証のための一次試作品を製作中だという。

 今回の出展でヤマハ発動機としてはSHEVに対して幅広い意見を求めている。「もっとパワーが欲しいとなれば、ヤマハ発動機にはレーシングバイク用エンジンやモトクロスバイク用エンジンをはじめ、高出力なものを作る技術がある。とにもかくにもまずは世の中に提案して、どういった評価をいただくか、空を飛ぶエンジンとして実績のあるFAZERのエンジンで世に問うてみたい」(矢路川氏)としている。

シリーズハイブリッドシステム実証試験の様子(ヤマハ発動機のYouTubeから)