2022年の開始を予定しているレベル4目視外飛行の実装に伴い、長距離飛行を得意とするVTOL機の活用が広がりそうだ。ドローン物流や広域の警備監視、測量などで有用性を発揮する一方で、日本鯨類研究所では新たな鯨類調査手法の研究開発にVTOL機を活用し、広範囲におよぶ鯨類調査に取り組んでいる。JapanDrone2021に初出展した日本鯨類研究所は、独自に開発したVTOL機「飛鳥」(試製)を展示した。

空から海氷域の鯨を発見!船より視野が広いドローンの活用

 日本鯨類研究所は水産庁のプロジェクトに参画し、新たな鯨類調査手法の研究開発を業務委託している。これまでの鯨類の調査は、船上から熟練した目視観察員が双眼鏡を覗き込み、鯨種や頭数を確認するという手法がとられてきた。しかし、観察員の不足や目視による鯨類の見逃しが課題となり、これらを補完する新たな手法にドローンが起用された。また、ドローンは目視調査の課題だけでなく、調査船でのアクセスが難しいポリニアと呼ばれる定着氷内に形成された池状の開氷域に生息する鯨類の調査も可能になる。鯨類調査は広範囲にわたり、少なくとも50~100kmの飛行が問われる。それに加え、船上から離着陸する必要があるため、日本鯨類研究所は垂直離着陸型であるVTOL機を開発した。

ボディの材質にはカーボンファイバーをメインで採用。機体重量は12.44kgで最高速度は160km。
機体下部にはカメラなどを搭載可能で、FPV操縦にも対応する。ペイロードは5kgを確保。

 試作機となる飛鳥は、東京都内のハイテク系中小企業が中心となって開発された。機体設計から基盤開発、ボディ、電装、ソフトウェアなど、それぞれの得意技術を有する企業が集まることで形となった、言ってみれば下町ドローンだ。

 技術を持ち寄って開発された飛鳥は手作り感や試作らしさが無く、外観から高い品質がうかがえた。それは飛行性能にも反映されており、例えば船上では電波干渉や磁気擾乱が多く発生する。これを防止するために、磁気の影響を受ける各センサーにはシールドを施している。また、運用場所は風が強い海上とあって高い耐風性能が欠かせず、風速15m/sに耐え得る構造にするなど、細かな工夫が見受けられる。テスト飛行では風速20m/sの突風に直面したこともあったが、姿勢を崩すことなく飛行することができたという。

想定する運用方法と飛鳥で発見したシロナガスクジラの例。

 飛鳥を使った実証実験は数回にわたって実施されている。2021年3月には、レベル3の目視外飛行による実験を北太平洋上で行い、51kmの飛行に成功。三河湾内の調査船上で離発着し、小型のイルカに分類されるスナメリの3郡4頭を識別発見した。担当者は「ドローンによる飛行距離51kmの実施は3月時点で日本初記録となる。今回は余裕を持たせて飛行させたが、計算上では100kmの飛行も可能。鯨類調査で活用するには約100kmの飛行が理想だ」とコメントした。

AIとドローンの組み合わせで変わる鯨類調査

 調査は主に鯨の発見、生態数、種判定に区分され、生態数をもとに鯨類の増加率を把握し、資源に影響を与えない捕獲枠の算出を行う。そのほか、人間が利用しない種類においても、鯨類の相対関係の把握などに役立てられている。ドローンを使った種判定では、映像伝送を通じて種類を判別しているが、誤判定の削減や効率化を目指したAI判定を開発中だ。ディープラーニングでAIに鯨類の画像を学習させることで正答率は高まり、ドローンで取得した動画データから鯨種を判定することが可能になる。鯨の種類は70種類以上存在するが、主要な数種類を学習させることで十分に活用できるという。今後の機体課題は着陸の自動化で、現在は船上まで自動航行で移動するが、手動で着陸させている。そこで、船上でも安全に自動で着陸する機能や、航行する船上に自動で追従する機能などを考えているという。

 水産庁のプロジェクトは2019年から開始し、本年度でプロジェクト期間を終える。日本では回転翼機が主流であり、ここまで完成度の高い国産のVTOL機は数少ない。日本鯨類研究所は非営利団体なので機体は販売できないが、飛鳥は国からも高評価を得ており、プロジェクト後に企業から製品化されることに期待したい。