ドローンの安全装置はジオフェンスや緊急停止、自動帰還機能などデジタルによるものがほとんどだが、日本化薬は物理的な安全装置としてドローン用緊急パラシュートシステム「PARASAFE」を開発し、JapanDrone2021で展示した。

ドローンの落下衝撃を緩和するパラシュートシステム

日本化薬のブースにはパラシュートを展開したACSL製のGT500が展示された。
機体重量25kg用のPARASAFEを展示。さらに10~15kg用の試作品(写真左から2番目)も展示された。

 PARASAFEは、日本化薬が開発している自動車用エアバッグシステムのガス発生装置技術を応用したドローン用の安全装置だ。日本化薬は2017年から開発に取り組み、ドローンのサイズに対応した3種類のPARASAFEを発表。ラインナップは一般的にもっとも多く使われている機体重量15kg用(PS-CA04-00)から、物流用ドローンなどで使用される25kg用(PS-CA12-01)。さらには、100kg用(PS-CA25-00)をラインナップ。15kg用と100kg用のPARASAFEは9月に試作品をリリース予定で、25kg用は12月に製品化を予定している。

パラシュートのサイズは15kg用が4㎡、25kg用が12㎡、100kg用が25㎡となる。エアバッグ同様に複数回の使用はできず、使い切り製品だ。

 PARASAFEのケース内には、パラシュートとガス発生装置を応用した技術が収納されている。パラシュートシステムはパラシュートが展開するまでの速さが問われ、独自の技術を投入した。これにより、0.3秒でパラシュートラインを張ることに成功。高度でいうと降下20mの間に開ききる速さで、高度30m以上から使用可能となる。

 そして、パラシュートにも工夫が必要だという。大きなドローンに対応するためには、パラシュートの面積を大きくしなければならないが、重くてかさばるため、ペイロードが犠牲になってしまう。そこで、パラシュートには薄く軽量な素材を採用し、独自に小スペースで収納できる方法を取り入れた。

ACSLのGT500に取り付けられたPARASAFE。GT500は5kgのペイロードを備えた機体重量25kg以上のドローンで、物流の実証実験などに使われている。
取り付けはケース下部に設けられた、ネジ式のアタッチメントで固定される。

 ブースでは25kg用のPARASAFEをACSLのGT500に取り付けて展示していた。取り付け位置はドローンの中心にあたる部分で、これについて担当者は「もっともパラシュートを効率的に展開できるのはドローンの中心部だ。しかし、ドローンの中心部は撮影機材やセンサーなどを取り付ける場合が多く、安全装置の搭載スペースが確保できないこともある。理想は中心に搭載するべきだが、ドローンとのバランスを見ながら横や下部への搭載も検討していきたい」と話した。

PARASAFEの展開試験を実施した結果。

 25kg用のPARASAFEを展開した場合の降下速度は6m/s。落下の衝撃エネルギーは450J(ジュール)まで緩和することができるという。450Jはドローンの表面に傷が付いたり、スキッドやアームが折れたりする程度だ。また、50回連続でパラシュートの展開を試験した結果、そのすべてにおいて安全な展開が確認された。現時点ではPARASAFEの展開はマニュアル操作となっているが、機体の姿勢や加速度、気圧を検知するセンサーを使って、自動でプロペラを停止したうえでパラシュートを開く自動トリガーシステム(ATS)の開発を進めている。

 2022年から第三者上空の目視外飛行が始まり、それに向けた機体認証制度の整備が進められている。安全を担保する装置は必要不可欠であり、PARASAFEは安全装置の最後の砦として開発された。日本化薬は製品化を進めるうえで、さらに高い目標を掲げており、担当者は今後の開発について「現在発表している15kg用の製品重量は1kg。有用なペイロードを確保することを考えれば、最低でも500g以下が望ましい。最終目標は300gとしている。また、衝撃緩和の観点ではドローンの破損を抑えることはできるが、450Jでは人に接触した場合に安全とは言い難く、人身事故を想定すると80~90Jまで衝撃を緩和することが理想といえる。今後も製品化や量産化を目指しながら、目標値に向けて開発を進めていく」と話した。