荷物を備え飛行する3機のドローン

 近年、無人航空機(以下、「ドローン」)の活用が急速に進んでいる。農業、物流、測量、インフラ点検など、多くの分野でドローンが導入される中、業務効率の向上を目的として多数機同時運航(1人の操縦者が複数のドローンを操作する運航方法)の重要性が高まっている。しかし、これまでは多数機運航に特化した明確なルールが存在していなかった。

 こうした状況を受け、国土交通省航空局は2025年3月28日、「無人航空機の多数機同時運航を安全に行うためのガイドライン(第一版)」(以下、「本ガイドライン」)を公表した。本記事では、この本ガイドラインの背景や重要ポイントについて詳しく解説する。

▼無人航空機の多数機同時運航を安全に行うためのガイドライン(第一版)
https://www.mlit.go.jp/koku/content/001880139.pdf

ガイドライン策定の背景

 近年、ドローンは農薬散布、空撮、測量、インフラの点検など、幅広い分野で活用されており、人手不足の解消や少子高齢化といった社会課題の解決、さらには付加価値の創造を実現する産業ツールとして期待されている。

 日本では2015年以降、航空法の改正によりドローンの運航ルールが整備され、2022年にはレベル4飛行(有人地帯での目視外飛行)が解禁された。さらに2023年12月にはレベル3.5飛行(無人地帯での補助者なし目視外飛行)も導入されるなど、規制の段階的な緩和が進んでいる。

 このような中、ドローンの事業化や社会実装をより一層進めるためには、少人数で多数の無人航空機を運航できる複数機の同時運航(多数機同時運航)の普及拡大が必要との意見が挙がっていた。多数機同時運航の方法として、1:N運航(1人の操縦者が複数の機体を運航)やM:N運航(複数の操縦者が多くの機体を運航)が挙げられる。しかし、多数機同時運航に特化した安全要件等は特段定められておらず、現行の規制下で各事業者が先進的な実証実験を行っている状況であった。今回の本ガイドライン策定により多数機同時運航に係る安全基準が明確化されたことで、多数機運航の実現に向けた大きな一歩となる。

ガイドラインのポイント

(1)運航の対象範囲

 本ガイドラインでは、以下の条件での多数機同時運航を対象としている。

  • レベル3または3.5飛行(無人地帯での目視外飛行)
  • 1:5運航(操縦者1人につき最大5機のドローンを操作)

 一方で、レベル1またはレベル2飛行に該当するケース(ドローンショーなど)は本ガイドラインの対象外としている。また、1:5を超える運航やレベル4飛行における多数機同時運航を本ガイドラインは制限するものではく、これまで通り個別審査での飛行許可・承認取得後に飛行が可能となることに留意が必要としている。

 本ガイドラインはカテゴリーII飛行のうち、下図①の個別の飛行許可・承認とする運航を対象としている。機体認証と無人航空機操縦者技能証明により個別の許可・承認申請が不要となる場合の多数機同時運航の取り扱いは、令和7(2025)年度以降の検討対象としている。また、下図の②および③に関するガイドラインは、「多数機同時運航の普及拡大に向けたスタディグループ」での検討後、決定するとしている。

1人あたりの機体数に対する飛行レベルごとの対応(5機まで(レベル3・3.5、4):対応①カメラ監視を前提とした多数機運航、対応②運航の型別にカメラ監視によらない別手法を活用した多数機運航、5機以上:対応③)
出典:国土交通省

(2)飛行許可・承認申請の流れ

 レベル3飛行で多数機同時運航を行う場合、従来通りの「無人航空機の飛行に関する許可・承認の審査要領(カテゴリーⅡ飛行)」(以下、「審査要領」)に基づく申請が必要となる。また、飛行許可・承認申請が得られた場合、以降同様の運航を申請する際に過去の申請文書番号を引用することで許可・承認の1日化を目指すとしている。

レベル3飛行で多数機同時運航を行う場合の許可・承認申請の流れ
出典:国土交通省

 レベル3.5飛行で多数機同時運航を行う場合、審査要領に基づく申請に加え、本ガイドラインに記載の個別の措置を運航概要宣言書に記載する対応が必要となる。なお、運航概要宣言書は航空局との事前合意が必要となる。申請は不備等がなければ、1日程度で許可・承認されるとしている。

レベル3.5飛行で多数機同時運航を行う場合の許可・承認申請の流れ
出典:国土交通省

多数機同時運航に係る要件の留意事項

 前述の通り、本ガイドラインの対象となる運航は審査要領をベースとした申請となるため、審査要領に基づく要件を満たすにあたって留意すべき事項として以下が記載されている。

(1)機体の要件

 審査要領の4-1-1(5)および5-4(1)に適合していること。

(2)操縦者の要件

 多数機同時運航を行うにあたり、審査要領で定められた要件に加えて以下の知識・能力、実施すべき訓練に関する記載をすることとしている。

【知識の要件】

  • 多数機同時運航固有のリスク(1:1による遠隔自動運航と比較して、異なるリスク)
  • 多数機同時運航に伴い増加するリスク(1:1による遠隔自動運航と比較して、増加するリスク)

【能力の要件】

  • 異常が発生した機体への対応と、他の機体の運航監視を両立させること
  • 複数機で異常が発生しても当該不具合に同時に対応できること

【訓練の要件】

  • 同時運航の機体数を段階的に増加させて、判断と操作に十分に慣熟すること
  • 正常な運航時の操作に加えて、緊急時の判断と操作に十分に慣熟すること

(3)運航管理の要件

 遠隔自動運航が前提となる多数機同時運航においては操縦者の負荷が増加するため、操縦者を支援する運航管理のうち、以下の組織、運航システムに関する記載をすることとしている。

【組織の要件】

  • 異常発生時の対応可能性を予め検証できること
  • 組織体制、無人航空機の飛行に直接的に関与している者の役割分担を予め明確化しておくこと
  • ヒヤリハット等も含めた情報を運航者が内外に共有する体制を有すること

【運航システムの要件】

  • 運航状況の把握や運航判断を容易とする操作画面や監視画面の配置とすること

運航リスクの検証と対策例

 運航者は、本ガイドラインで示されている対策例を参考に、ユースケース等に応じたリスクの検証を行い、リスク対応策である不具合等の発生を防止する予防策と、発生時の影響を回避・低減する回復策の両方を行うことが求められるとしている。

 また本ガイドラインでは、運航リスクの検証と対策手法の検討にあたり、学会で提唱されているボウタイ(蝶ネクタイ)分析を参考としている。

 対策例については本ガイドライン第3章(4)に記載があるため、詳細はこちらを参照いただきたい。

まとめ

 無人航空機の多数機同時運航は、業務の効率化や新たなビジネス創出に貢献すると期待されている。今回策定された本ガイドラインにより、安全性を確保しながら1:5運航が可能になり、今後の技術発展に応じて対象範囲も拡大されるだろう。

 そのため、事業者は最新のガイドラインを理解し、安全な運航を目指すことが求められる。