ドローンスクール東京グループなどを運営するドローンサービス企業であるハミングバードは2025年3月15日、東京都港区と協力し、区内の高層マンションを活用したドローンによる垂直飛行型の緊急支援物資搬送の実証実験を実施した。

港区の「みなと新技術チャレンジ提案制度」に基づく実験

 この実験は、港区が2024年に公募した行政課題解決のための新技術導入制度「みなと新技術チャレンジ提案制度」の一環である。港区の人口は約26万人で、その9割が共同住宅に居住しており、いわゆるタワーマンションと呼ばれる高層マンションの住民も多い。首都直下地震などの大規模災害時には、エレベーターの停止による「高層難民」の発生が懸念されているほか、交通の遮断による台場地区の孤立も予測されている。

 こうした課題を受け、ハミングバードは「震災等被災時における台場地域や高層建物屋上へのドローンによる緊急物資輸送」を提案し、2024年11月に採択された。今年2月14日には、提案に基づき、東京湾にかかるレインボーブリッジ周辺の海上でレベル3.5飛行によるドローン物資輸送実証実験が実施された。

高層マンション屋上へのドローン着陸実験

 今回の実験では、高層マンションの上層階に取り残された住民への支援物資輸送を想定。地上からほぼ垂直に飛行し、ドローンを屋上に着陸させる手法の検証を行った。

写真:飛行するドローン
高層マンションに沿って垂直飛行で屋上に向かうドローン。

 実験が行われた高層マンションは36階建て、地上137mの高さ。ドローンは「DJI Matrice 350 RTK」を使用した。操縦電波は直進性が高いため、地上の操縦者はマンション壁面に沿って飛行するドローンを操作できるが、地上から目視できない屋上では電波が届かず着陸操作ができない。そこで、屋上に別の操縦者を配置し、地上の操縦者が高度146mまでドローンを上昇させた後、屋上の操縦者へコントロールを移す「2オペ体制」での運用を試みた。

写真:飛行するドローン
高層マンションの壁面に沿って上昇するドローン。
写真:飛行するドローン、屋上のスタッフ
高層マンションの屋上を水平飛行するドローン。
(画像提供:株式会社ハミングバード)

 居住者の安全を最優先し、離着陸地点には補助者を配置。壁面から3m離れた経路を飛行させ、計6回のテスト飛行を経て、本番の垂直飛行に臨んだ。テスト飛行ではリードを使用した係留飛行による上昇下降や自動航行も行われた。当日は無風の環境であったが、GPS電波の弱体化など周辺ビルの影響とみられる事象が確認されたため、離陸位置の変更や斜めに上昇する経路への調整が行われた。

本番飛行での成果と今後の課題

写真:機体の上にオレンジ色のボックスを装着した「DJI Matrice 350 RTK」
ダミーの救援物資を搭載したドローン「DJI Matrice 350 RTK」。

 本番の物資輸送では、港区の関係者が見守る中、2名のパイロットが操作し、約3分で地上から屋上へ物資を搬送。生理食塩水200mlと点滴パックを含む約500gのダミー物資を安全に届け、成功を収めた。

 実験を統括したハミングバードの佐和田俊彦 担当部長は「周辺の建物によるGNSSへの影響に加え、携帯電話局のアンテナ配置を要因とするLTE通信の電波不通現象も発生しました。都市部特有の課題かもしれませんが、今回の実験結果を検証し今後に生かしたいと思います」と述べた。

写真:話をする鈴木氏
「ドローンによる輸送が普及するように努力していきたい」と話すハミングバードの鈴木伸彦代表。

 また、同社の鈴木伸彦代表は「港区の協力により実験が実現できました。さまざまな課題が明らかになったため、それを解決しながらドローン輸送の普及を目指していきます」と意欲を示した。