写真:海の上を飛行するドローン

 2025年3月7日、世界45カ国で展開するドローンサービスのリーディングカンパニーエアロダインジャパン(Aerodyne Japan)は、物流ドローン事業を本格始動し、その第一弾の実証フィールドとして日本を戦略的市場に選定した。

 今回の実証では、エアロダインが提携するドイツのドローンメーカー フェニックスウィングス社(Phoenix-Wings GmbH)のVTOL型物流ドローン「PW.ORCA」を用い、長崎県佐世保市でレベル3目視外飛行による物流輸送に挑んだ。本実証は、長崎県が推進する「先端ドローンソリューション社会実装支援補助金事業」の一環として実施され、離島地域の物流課題解決や特産品の付加価値向上を目的としている。

動画提供:Aerodyne Group

エアロダインが日本を選んだ理由

 エアロダインはこれまで、点検・測量を中心にドローンサービスを展開し、業界をリードしてきたが、近年は物流分野への本格進出を進めている。物流ドローンの導入が進む中、エアロダインが初の商用化を目指す市場として日本を選んだ背景には、日本の高度な規制環境や、物流課題を抱える離島・山間部が多いことが挙げられる。また、日本市場での実績を足がかりに、アジア市場へと展開していく構想を持つ。

 日本での事業展開を進めるため、エアロダインジャパンは2025年1月にPW.ORCAを輸入し、日本の法規制に適応した改造を施した。飛行許可を取得したことで、日本国内での物流ドローン運用の第一歩を踏み出した。

 この背景には、日本市場が持つ技術適応力と規制環境の整備があり、さらにエアロダインのグローバル戦略の中で、日本がアジア市場のゲートウェイとして重要な役割を果たすと見なされている。日本での成功は、今後のアジア市場展開の鍵となるため、エアロダインは物流ドローン事業の商用化に向けた取り組みを加速させる。

マレーシアでの実証実験とPW.ORCAの実力

 エアロダインは2024年より、マレーシアで「Argentavis」ブランドのもと物流ドローン配送事業を正式に開始し、PW.ORCAの実証実験を重ねてきた。マレーシアの熱帯地域では、頻繁なスコールや強風といった過酷な気象条件が課題となるが、PW.ORCAはその高い防水性能と安定した飛行性能を発揮し、実際の物流運用に耐えうる信頼性を証明している。

写真:スコールの中を飛行するドローン
マレーシアのエアロダイン本社での実験の様子。1日のうちに何度かスコールに見舞われる亜熱帯地域の気候でも、安定したパフォーマンスを見せるフェニックスウィングス社のPW. ORCAの様子。
写真:ノーズ部分が上に開き、機体内部に荷物を積んだドローン
PW. ORCAは機体ノーズ部分が開閉し、そこからボディー部分へ物資を格納することが可能な作りとなっている。(マレーシアのエアロダイン社の実験より)

 特に、都市部と遠隔地を結ぶ輸送では、従来の陸路輸送よりも短時間での配送が可能であることが確認された。現地での運用の様子を捉えた写真では、PW.ORCAが豪雨の中でも確実に離陸し、目的地へと正確に荷物を運ぶ様子が見られる。これらの実験結果を踏まえ、日本市場においても同様の物流課題を解決できると判断し、今回の長崎での実証へとつながった。

物流ドローン市場の未来を見据えたエアロダインの戦略

 2025年、エアロダインとフェニックスウィングスは、ドイツ・デュッセルドルフで開催された無人航空機の国際展示会「エクスポネンシャル・ヨーロッパ」にて、グローバル物流ドローン事業の共同推進に関する業務提携を締結した。

 エアロダインのリアルタイムデータ解析、ルート最適化、予知保全技術と、フェニックスウィングス社の最大ペイロード15kg・航続距離100kmのVTOL型ドローンを融合し、商用化に向けたオペレーションを強化していく。

 今後、エアロダインジャパンは日本国内におけるドローン物流の商用化を加速させる考えだ。特に、離島や山間部のラストワンマイル配送、災害時の緊急輸送、高付加価値商品の迅速輸送といった用途への応用が期待される。また、ドローンの運航管理システムや、上空LTE通信の最適化といった「空のインフラ整備」にも注力し、商用化に向けた環境整備を進める。

写真:サムズアップをする2人
フェニックスウィングス社CEOのジャン・ワン博士(左)とエアロダインでドローン物流部門を統括するアリフ・アズハル氏(右)

関係者コメント

 エアロダイン ドローン物流部門統括 アリフ・アズハル氏は、「エアロダインが日本を物流ドローン事業の重要な拠点と位置付けたのは、日本の技術力と市場環境の高さにあります。ここでの成功が、世界市場におけるドローン物流のスタンダードを築く鍵になると確信しています」。

 フェニックスウィング社CEO ジャン・ワン博士も、「エアロダインとの協業により、我々のドローン物流技術をグローバルに展開できることを非常に楽しみにしています。日本市場での実績は、アジア全体のドローン物流の発展に寄与するでしょう」。

エアロダインが描く未来

 世界的に物流業界は、労働力不足や環境負荷軽減といった課題に直面しており、ドローンによる輸送の商用化が求められている。エアロダインの物流ドローン事業の本格始動は、単なる実証実験の枠を超え、日本市場を起点にしたグローバル展開の重要なマイルストーンとなる。

 ドローン物流の社会実装が進めば、遠隔地への迅速な輸送や、災害時の物資供給、都市部の混雑回避といった、多くの課題解決につながることが期待される。エアロダインの次の一手に注目したい。