2025年1月28日、埼玉県八潮市で発生した大規模な道路陥没事故。行方不明となっていたトラックのキャビンらしきものを、ドローンが発見したことが大きな話題となった。実際に発見に至ったのは初めに下水道管に入ったリベラウェアの小型ドローン「IBIS2」による捜索であったが、同時に出動したブルーイノベーションが運用する、スイスのFlyability社製の屋内点検用ドローン「ELIOS 3」も、「IBIS2」に続いて下水道管内を飛行し、新たに3Dデータなどを取得。現場状況の把握に大きく貢献した。今回は、当時の様子や事故後の展望についてブルーイノベーションに伺った。

JUIDAが出動要請 現場対応は迅速に展開

写真:マンホール付近で「ELIOS 3」の投入準備をする人々
埼玉県八潮市で「ELIOS 3」の投入準備をするブルーイノベーションの様子。

 行政との窓口を務めた日本UAS産業振興協議会(JUIDA)から、ブルーイノベーションに出動の打診があったのは2月3日。現場状況の確認後、翌2月4日に出動体制を整え、2月5日に現地へ出動した。

 JUIDAは同時にリベラウェアにも出動を要請。狭小空間の飛行を強みとするIBIS2(全長・全幅約20cm)に対し、ELIOS 3は屋内点検用ドローンとして縦38cm・横48cmとやや大きいが、高性能LiDARの搭載が可能で、点群データの取得をはじめとした詳細な下水道管内部の把握が期待された。両社ともに能登半島地震での活動実績を持つことも、出動判断の大きな要因となった。

写真:ライトを点けて飛行するELIOS 3
ELIOS 3は16,000lmの高輝度なLEDライトを搭載。飛行時間はペイロードなしで約12分、LiDAR搭載時は約9分。4Kカメラや赤外線カメラを使って点検を行う。

 ブルーイノベーションは、パイロットや安全管理者を含む計5名で現場に出動。関係行政機関からは、陥没地点とつながる下水道下流約600m地点のマンホールから内部に進入するよう指示があった。操縦は地下約10mにある作業空間で行われたが、硫化水素発生のリスクなど安全上の懸念があるため、電波が届きにくい環境下での操縦となった。これに対し、最大20mまでアンテナを延伸できるELIOS 3用の「レンジエクステンダー」を使用し、下水道管の本管まで電波を確保している。

ELIOS 3を投入、LiDAR搭載による詳細な状況把握に期待

 狭小な作業空間での操縦が必要だったことから、リベラウェアのIBIS2との交代で、人力とロープを用いてELIOS 3を下水道内へ搬送し、飛行を開始。球形の保護ガードを備えたELIOS 3は、壁面へ接触しても墜落しない設計となっているが、慎重な操縦が求められた。飛行は3回にわたって実施され、徐々に飛行距離を伸ばしながら、カメラとLiDARにより下水道内部のコンクリート状況を点群データとして取得した。この取得した点群データを基にリアルタイムで簡易的な3Dマップを生成することができる。これを使ってより正確に点検箇所などの位置や、トンネル上部に硫化水素が付着し、コンクリートが劣化して表面が剥離・陥没している構造の詳細や変化を3次元的に把握することが可能だ。現場には関係行政機関の職員も立ち会い、リアルタイムで情報を共有したという。

写真:飛行するELIOS 3
ELIOS 3は下水道内の点検のほか、プラント施設の内部、トンネルの内部といった非GPS環境下で活躍している。

全国で老朽化が進行中、ドローン活用の重要性が浮き彫りに

写真:「管路施設の年度別管理延長」グラフ
下水道管の各年度別管理延長図。下水道管が建設された年度と距離が棒グラフで示されているが平成10年代(2000年代)にピークがあり、今後、時間の経過とともに老朽化した下水道管は増加していくことを示している。(出典:国土交通省)

 国土交通省の統計によると、2022年度末時点で全国の下水道管の総延長は約49万km。そのうち、標準的な耐用年数である50年を超えた下水道管は約3万km(全体の約7%)に上るが、2032年度には約9万km(約19%)、2042年度には約20万km(約40%)にまで増加する見込みだ。

 さらに、全国に約2200カ所存在する下水処理場においては、2021年度末時点で、機械・電気設備が標準耐用年数の15年を超えた施設が全体の90%に達しており、インフラの老朽化が深刻な課題となっている。

小型ドローンに対する問い合わせが増加

 ブルーイノベーションによれば、今回の事故以降、下水管を管理する自治体や業者からの問い合わせが増加しているという。これは、下水道の老朽化に対する現場の危機感の高まりを示すものであり、ドローンの有効性が広く認識されつつあることを物語っている。

 ブルーイノベーションの熊田社長は、「ドローンが下水道の老朽化対策に活用できることを、今回の事例で多くの人に認識してもらえました。一方、弊社もドローンの周知に力を入れていますが、思っていた以上にドローンの周知が進んでいないことが分かりました」と語った上で、「下水道管には大小さまざまな径があり、条件に応じて使用できるドローンも異なります。今後は、下水道関係者や自治体、ドローン業界が連携して、どのようにドローンを活用していくかを議論していくことが重要です」と強調した。さらに、「現在、下水管点検は人による目視点検が義務付けられており、法定点検においてドローンの使用が認められていません。このような最先端の技術が認められるように働きかけていくことも業界として必要です」と話した。