三菱重工業はペイロード(最大積載量)200kgのドローンを開発中。災害発生時に本機がどのように力を発揮できるのか、開発陣に聞いた。
大きな発電機や大量の水などの災害支援物資を一括輸送可能
三菱重工業が開発を行っているのは全長約6m、ペイロード200kgという、国内では他に類を見ない大きなドローンだ。だが、同社内では世界におけるドローンのカテゴリーに当てはめ、本機を「中型ドローン」と呼称する。間畠主席チーム統括は「もともと航空機の開発製造を行ってきたので、その知見を生かし他社との差別化を図るため、中型ドローンの開発を行っています」と開発に取り組む意義を語る。
三菱重工業は2023年まで国産初のジェット旅客機「三菱スペースジェット」の開発を行っていた。また、ボーイングやエアバス、ボンバルディアといった世界の航空機メーカーに、主翼や胴体などの重要パーツを供給。航空機製造で培ってきた安全性や品質保証に関するノウハウが、中型ドローンの開発に注ぎ込まれている。
間畠主席チーム統括は中型ドローンの主な用途が災害時における救援物資の輸送だと明言する。「現在手に入るドローンでは数十kgの物資しか運べませんが、中型ドローンなら200kgを一度に運べます」。大量の水や大きな発電機などを運ぶこともでき、幅広い支援が期待できる。
自治体も関心を示している。6月に開催された展示会でのお披露目後には「自治体から具体的な用途を例示され相談を受けたこともありました。防災や非常時の物資輸送についてのニーズが多く寄せられています」と林田上席主任は話す。
2024年1月に発生した能登半島地震では道路の寸断が相次ぎ、災害支援物資の輸送に困難をきたし、ドローンを投入して生活物資や処方薬の輸送を行ったケースがあった。台風や地震など、いつ大きな災害が発生してもおかしくない時代。中型ドローンのような、緊急時に大量の物資輸送が可能となる機体の開発は急務だ。
中型ドローンは平時にも活用できる。現在、山間部の建設現場などへ、ヘリコプターや仮設モノレールなどを使用し物資を輸送しているが、中型ドローンがその一部を代替可能にするという。また、離島への物資輸送に投入することも想定。天候の影響を受け、離島の物流を担う船が動けない場合に、中型ドローンで輸送するといったユースケースを考える。
航続時間2時間のハイブリッドタイプも研究
中型ドローンはプロペラを12枚持つマルチローター型だ。間畠主席チーム統括はこれについて「重量物を運ぶのに適しているためです。また固定翼を持ったVTOL型やヘリコプター型より構造がシンプルになり整備性も良いです。プロペラが1つ故障しても飛行が続けられるといった、故障に対する冗長性も確保できます」と解説する。また林田上席主任も「本機はマルチローター型のドローンと操縦の仕方が一緒です」と指摘。飛行時はジオフェンス(ソフトウェア上の仮想的な壁)を設定して飛行空域を限定し、基本的に自動操縦だ。しかし、もし操作介入が必要な場合、マルチローター型なら対応できる操縦者が多いのは大きな利点だ。
中型ドローンは被災地の近くまでトラックなどで運搬し、そこから離着陸する運用方法を想定している。中型ドローンがバッテリーのみで駆動する場合、飛行時間は20~30分程度だという。離着陸地点周辺で使用する場合はこれでも問題ないが、やや距離がある場所からしか離着陸できないケースも考えられる。そこで航続距離を伸ばすため、エンジンで発電してモーターを駆動させるハイブリッドタイプの開発も進めており、今年度中の初飛行を予定している。これにより航続時間は2時間程度まで伸長する見込みだ。なお、三菱重工業で開発するドローンは民間と防衛の両面で利用する「デュアルユース」が検討されており、防衛省と実証試験が行われている。
中型ドローンや小型ドローンについて、量産化の時期はまだ決まっていないという。三菱重工業では今後も試験飛行を続けて成果を機体開発にフィードバックしつつ、市場調査を進めて需要を見極め、売り出したい考えだ。