三菱重工は、ペイロード200kgの中型ドローンの実機を初めて展示し、連日多くの来場者への説明に追われていた。また、高所作業用途を見据えて開発中のダクテッドファンドローン、大型風動設備を用いたドローン機体の性能評価サービスも紹介した。Japan Drone & AAM Awardsでは、審査員特別賞に選ばれた。
三菱重工がこのマルチローター型無操縦者航空機の開発を始めたのは約2年前。もともとの「航空機品質のものづくり」を強みとして、有人機だけでなく無人機も開発し、将来的には同社の商品ラインナップに加えることを目指す。
固定翼機では滑走路が必要になるが、マルチローターなら平地があればどこから離着陸できる。またVTOL型も、ある程度の重量を長距離運ぶことを考えると1つの解ではあるものの、「とにかく重たい荷物を運ぶ」ことを主眼に置くと、マルチローター型が最適だと判断した。同社調べによると、ペイロード200kgという中型ドローンは「世界でもまれ」だという。商用化後は機体販売、レンタル、サービス提供、メンテナンス事業を検討している。
主な用途は、災害時の孤立集落への物資輸送や、平常時の離島や山間部など既存の交通システムでは非効率なエリアへの輸送だ。防衛向けと民間向けのデュアルケースを想定していることも特徴で、このためプロペラやモーターなどのパーツに至るまで、国産化を極力進めているという。「三菱重工の航空機設計の知見」と「メイドイン・ジャパン」、それから「ペイロード200kg」という掛け合わせが国内外でどのように効いてくるのか、今から期待が高まる。
現在は、バッテリータイプでの飛行試験を終了したところで、最大航続時間は30分未満。今後は、エンジンにより発電するハイブリッドタイプの設計作業を進め、最大航続時間の最終ターゲットである2時間を目指して、段階的に開発を進める予定だ。もちろん自動離着陸、自動航行が可能。展示会場では移動体への自動離着陸テスト飛行に成功した映像も紹介されていた。
もうひとつ、中型ドローンの隣で注目を集めていたのが、「ダクテッドファンドローン」だ。三菱重工として正式に発表するのは今回が初めてで、「高所作業用ドローン」としての打ち出しが非常にユニークだった。展示はコンセプト機ながら、約10分間の飛行テストを完了。用途に応じてペイロード5kg以下の小型機(仮)と30kgの大型機をラインナップしたいという構想で、現在は30kgの大型機の試作・飛行テストを実施中。
特徴は大きくは2つ。1つは、ダクテッドファンを採用したこと。プロペラを覆うダクトがあるため、回転部分が露出しておらず、対人事故やプロペラ破損の恐れを低減できる分、安全性が高まる。
もう1つは、推力偏向システムを搭載したこと。プロペラの下に可動式の風向きをコントロールする装置を取り付けた。「エアコンの吹き出し口のような」との説明が分かりやすい。このため一般的なドローンのように、進行方向に向かって機体を傾けて移動するのではなく、姿勢を水平に維持したままで移動が可能になるという。
従来のドローンとは一線を画し、「人の近くで寄り添って働ける」ことを利点としており、主な用途として見据えるのは「高所作業用」だ。例えば山奥の通信鉄塔や電線の付近に伸びてきた枝を切るなど、担い手不足の課題解決の一助となることを目指す。
基本的には、地上と高所の上下稼働をメインとし、有線ケーブルで給電しながらの長時間作業を想定しており、「電力やインフラの分野でニーズがありそう」と手応えも感じているそうだ。今年度中にはロボットアームなどの作業機構や、点検作業用のセンサー類を搭載して、現地での実証実験実施を目指している。ドローン社会実装のフェーズに入った点検分野において、ドローンによる作業という新たな可能性が開こうとしている。共同実証に興味がある企業は問い合わせてみてはいかがだろうか。