2023年11月30日、ケーエスケー、和歌山県立医科大学(以下、和医大)、和歌山県、日高川町およびNTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)は、和歌山県日高郡日高川町において、ドローンと配送ロボットによる医薬品の長距離配送の実証実験を2023年10月24日に実施したことを発表した。

 この実証実験は、大規模災害の発生により陸路での医薬品の長距離配送ができない場合を想定したもので、ドローンを活用して医薬品を遠隔地に運び、ドローンの着陸地点から患者宅へ配送ロボットが運搬する運用の実用化に向けて実施したものとなる。

 なお今回の実証実験は、国土交通省の「無人航空機等を活用したラストワンマイル配送実証事業」に採択されている。

飛行中のドローン
着陸態勢のドローン

 総面積の約9割が森林の日高川町では、住民の高齢化が進んでいる。人口密集地域はあるものの総体的には集落が点在し、大規模な災害等により陸路が利用できない事象が発生した場合、医薬品を必要とする医療機関や患者等に遅滞なく医薬品を供給する手段の検討・構築が求められている。

 ケーエスケー、和医大およびNTT Comは、将来的なドローンによる医薬品配送の実現を見据えて以前より協議を重ね、2023年3月には和歌山市内で最初の実証実験を実施し、実用化に向けた次の段階の検討を進めてきた。

 ドローンの利用については、2022年12月に施行された「航空法等の一部を改正する法律」により、「機体認証」「無人航空機操縦者技能証明」「運航ルール」の基準を厳格に設けることによって、2023年以降をめどにレベル4飛行(有人地帯における目視外飛行)の段階的な飛行実現を可能とするロードマップが示されている。

実証実験の概要

 医薬品卸売業者のケーエスケーが、日高川町の国保川上診療所から医薬品の発注を受けたことを想定し、入野集落センターから日高川町美山公民館までドローンを活用して偽薬を配送した。ドローン到着後、医療従事者が顔認証を用いて本人確認を行い、配送ロボットに偽薬を積み替えた。配送ロボットは患者役のもとまで偽薬を運搬し、患者役が偽薬を受け取る際にも音声通話およびQRコードによる本人確認を行った。

<配送ルート>
ドローン

配送ロボット

<使用機体と配送ロボット>
ドローン:エアロセンス製
配送ロボット:ZMP製

<各者役割>

ケーエスケー・実証実験の企画
・配送医薬品の選定・提供
和医大・地域医療における課題抽出の観点からのアドバイザー
和歌山県・県内におけるドローン運用にかかる課題抽出
・医薬品配送に関するガイドラインに基づく配送プランに対する助言
日高川町・飛行場所の提供
・ドローン発着離陸場所周辺における地権者調整支援
・住民周知の支援
NTT Com・プロジェクトに係る全体設計・マネジメント
・LTE上空利用プラン、電波シミュレーション、関連サービス(温度・加速度・位置情報測定、顔認証ソフト)の提供
・ドローン、UGV(配送ロボット)の調達

検証結果

1. 輸送品質・時間
 保冷ボックスの内部には温度センサーと加速度センサーを搭載し、内部が適切な状態で輸送できているかを確認しながら、日高川の上空を通過するレベル3相当(無人地帯における目視外飛行)にて、18分59秒で約21km離れた日高川町美山公民館まで配送した。一方、同時に出発した自動車は約42分34秒で到着した。

2. 顔認証による受領者確認
 到着したドローンから病院関係者が偽薬を受領する直前に、AI顔認証ソフトウェア「SAFR」を用いて顔認証による受領者認証を行い、医療従事者が適切に受領していることを確認した。

3. 配送ロボットの活用
 ドローンで運ばれた偽薬を配送ロボットに積み替え、約150m離れた患者役のもとに運搬し、音声通話およびQRコードによる本人確認を経て届けることができた。

4. ドローンと配送ロボットの位置情報把握
 NTT Comが提供する自動走行ロボット管制サービス「RobiCo」の一部機能をカスタマイズし、ドローンとロボットの位置を常時把握することにより、到着地点においてドローンから配送ロボットへ迅速な積み替えを実現した。

ドローンと配送ロボットの現在地表示画面

5. IoTプラットフォームを活用した温度・加速度のデータ測定
 輸送中のコンテナ内温度や加えられた衝撃などのデータをIoTプラットフォーム「Things Cloud」を用いてリアルタイムに可視化し、偽薬がトラブルなく患者役のもとへ届けられた事を確認した。

 この実証実験により、配送時間や温度管理・振動対策といった面では、ドローンの長距離飛行による配送は十分に実運用が可能であることが確認できた。今後は、天候などの外的要因による飛行条件や、一度に運搬できる積載量の制限など、残された課題への対応を進めるとともに、レベル4での飛行検証や和歌山県内に複数あるへき地診療所およびその周辺に在住する患者への医薬品提供を想定した実証実験を行うとしている。