開演挨拶を行うNEXAIRS DRONE SOLUTION(ネクセアズドローンソリューション)大原大 代表。

 12月10~11日の2日間、株式会社Five Star Groupが展開するNEXAIRS DRONE SOLUTIONは、航空法等の一部を改正する法律(以降、改正航空法)の施行による操縦ライセンス制度の創設を受け、「一等無人航空機操縦士の学科試験科目の要点を解説する国家資格取得に向けた集中講座」を開催した。航空機やドローンに携わる専門家6名が講師として登壇し、国土交通省が公表した「無人航空機の飛行の安全に関わる教則」に基づいて一等無人航空機操縦士に必要な専門知識ついて解説した。

 12月5日に改正航空法が施行され、ドローンの操縦技能を証明する操縦ライセンス制度が創設された。それに伴い、国土交通省は11月2日に「無人航空機の飛行の安全に関する教則(第2版)」を公表。これは、一等無人航空機操縦士および二等無人航空機操縦士を取り扱う登録講習機関が学科講習を行う際にベースとなるもので、この教則をもとに登録講習機関が独自の講習を実施していく。

 教則には、従来のドローンスクールで実施してきた講習内容に加え、第三者上空を目視外で飛行させるための内容が新たに加わり、登録講習機関の講師となるインストラクターはこれを習得しなければならない。集中講座を主催した株式会社Five Star Groupが展開するNEXAIRS DRONE SOLUTIONは、現役の航空機パイロットが設立した無人航空機の安全運航支援事業であり、教則の理解を深めるとともに、レベル4飛行を実現するための安全について有人航空機の知識を交えた講座を行った。

CRM、気象、法規制、航空工学、保安・運航体制、電波の専門知識をまとめて学ぶ

元国土交通省航空局 首席航空従事者試験官の石原 孝治氏。

 無人航空機の操縦者が新たに習得すべき内容として教則に含まれた安全管理スキル「クルー・リソース・マネジメント(CRM)」については、元国土交通省航空局首席航空従事者試験官の石原孝治氏が「航空機運航における安全管理:CRMの必要性」と題して解説した。

 講義では、航空機の特性とライセンス制度が何故必要なのか、国際民間航空機関(ICAO)と航空業界の関係性などについての背景情報を踏まえた上で、航空業界におけるCRMとの関わりや歴史、ドローンを取り扱う上でヒューマンエラーを無くすためのCRMの必要性について解説。ドローンで馴染みのないCRMの理解を深めるため、航空機パイロットがヒューマンエラーを無くすためにどのような工夫を凝らしているか、事例を交えながら紹介した。

 石原氏は今後のドローンの役割について、「航空機のひとつであるという意識が重要。今後は有人航空機が担ってきた業務の多くをドローンが担っていくことが予想される。2030年には有人航空機のパイロットの人口減少が想定されているが、ドローンが有人航空機の一翼を担うことができればこれも払拭できるだろう。パイロットを引退した人の受け皿にもなりうる」と指摘する。
 その上で、操縦ライセンス制度については、「一等資格と二等資格のレベルにもう少しめりはりを持たせるべきだと思うが、安全に対しては一等、二等問わず同じレベル感で取り組んでいただきたい」とコメントした。

ウェザーニューズ 航空気象事業部 高森 美枝氏。

 「無人航空機と航空気象」については、エアラインやドローンを対象とした航空気象サービスを提供するウェザーニューズ航空気象事業部の高森美枝氏が担当。教則に記されている運航上のリスク管理「気象の基礎知識及び気象情報を基にしたリスク評価及び運航の計画の立案」を含めて解説した。

 教則には天気図や気象現象の種類が記されているが、それらの現象の発生要因や、天候変化の予測方法、雲の種類の見方など、ドローン運航に影響する気象条件の注意点を説明。加えて、地形による気象の変化や航空機の安全運航のためのアラートシステムなど、実用的な専門知識を紹介した。

 高森氏は「日本は気象観測に長けたソリューションがいくつかあり、これをレベル4飛行の安全運航に役立てていただきたい。有人航空機では動態管理システムを用いたヘリコプターの動きやライブ映像、運航のタイムスケジュール、雨雲の動きなどを一元管理するツールを使っており、こういった技術を活用しながら有人航空機とドローンが空域共存する世界を目指している」と話す。
 国家資格の教則に記された気象の項目については、「従来のドローンスクールで学ぶべき知識相当となっている。レベル4飛行を前提に考えるのであれば、同じ空域を飛行する有人航空機のパイロットと同じワードで会話できるレベルを目指したい」とした。

academic works行政書士事務所 代表行政書士 黒沢 怜央氏。

 ドローンに関する法制度については、ドローン飛行の許認可申請や実証実験の支援などを手がけるacademic works行政書士事務所 代表行政書士 黒沢怜央氏が、「無人航空機領域における法規と運用」と題して講演した。

 航空法の改正(2022年施行)によって、操縦ライセンス制度のほか、機体認証制度、型式認証制度が創設され、6月には機体の登録制度が開始されるなど、新たな法規制が整備された。黒沢氏は、改正航空法の全体像を踏まえて規制の要点を解説したほか、登録講習機関の申請や刷新されたDIPS2.0などの最新情報、航空法以外の規制、事故時の対応に関する事例など、幅広く情報提供を行った。

 黒沢氏は新制度下での実務について、「今回の航空法の改正に伴い、新しい制度に関わる条文が数多く追加された。教則に記されているものは航空法及び航空法以外の法令等の一部となっているため、講師を目指す方や運用者は、教則だけでなく法規制に関わる国の資料も目を通すと良い」とアドバイスした。

静岡理工科大学理工学部 機械工学科 非常勤講師 田村 博氏。

 無人航空機の航空工学(飛行原理と飛行性能)については、静岡理工科大学理工学部機械工学科 非常勤講師 田村博氏が担当。
 国家資格の試験機関である日本海事協会より、一等無人航空機操縦士試験のサンプル問題として、ドローンの旋回半径を求める計算問題などが公表されていることを受け、ドローンの飛行原理や飛行性能の理論に基づいた計算方法などを教授。また、固定翼と回転翼の違いや、フライトコントロールシステム、衛星による測位についての知見も提供した。

 田村氏は今回の講義内容について、「航空工学は、機体の設計開発や運用に役立てられる。理屈を熟知して開発に取り組むことで、例えば機体に強度を持たせたい時に過度に強度を持たせてしまい重量がオーバーしてしまうといったことを避けることができる。今回、一等無人航空機操縦士試験には計算問題が含まれるが、計算式に当てはめるだけでなく、原理原則を理解することで運航時の正確な判断につながる」と話す。
 また、法改正については「航空法の改正によって各制度が整備されたことは、ユーザーからしてみれば厳しいと感じるかもしれないが、これによってドローンの産業利用がより一層進むことが見込まれ、業界にとって良い方向に進んでいると考えられる」と期待感を示した。

静岡理工科大学理工学部 機械工学科⻑ 佐藤 彰氏。

 「無人航空機の機体の特徴・保安・運航体制」については、静岡理工科大学理工学部 機械工学科⻑ 佐藤彰氏が解説。機体の認証制度の必要性と概要を説明したのち、航空法による機体の区分をもとに、機体の構造と種類などの特徴を整理。また、運航体制について、飛行計画の立案方法やリスク管理のための確認事項を教授した。

 佐藤氏は新制度について「レベル4飛行を実現するための仕組みとして、操縦ライセンス制度、機体の認証制度、運航ルールの3つを組み合わせて整備したのは世界でも初であり、画期的な仕組みだ。国家資格にはマルチコプターのほか、シングルヘリや固定翼機といった機体ごとの内容も含まれており、知識の底上げになる。各制度でこれからアップデートしていかなければならない部分も多々あるが、より安全なドローン運用につながる制度だ」とコメントした。

日本ドローン無線協会 会⻑の戸澤 洋二氏。

 無人航空機の電波と無線については、日本ドローン無線協会 会⻑の戸澤洋二氏が解説。目に見えず、イメージしにくい電波の重要な性質や、ドローンにおける運用方法、周波数帯などに関する日本独自の規制などについて講義を行った。また、一等無人航空機操縦士試験で出題が予想される電波の見通し距離やフレネルゾーンの計算方法なども紹介。ドローンと無線については、管制システムの構築など、利活用の拡大に伴う今後の展開についても知見を共有した。
 戸澤氏は無人航空機の教則について「専門家から見ると教則の電波無線の項目は、重要な部分がやや不足している。具体的にはドローンの電波の脆弱性や障害について学び、安全運航の教育をしていかなければならない。一等無人航空機操縦士であれば、教則内容だけでなく、専門性の高い知識まで理解しておいてほしい」と助言した。

未だ内容が見えない一等無人航空機操縦士の試験に役立つ集中講座

 筆者は2日に渡り、今回の集中講座を受講させていただいた。現在(12月19日時点)、二等無人航空機操縦士については、従来のドローンスクールと同様の難易度であったと受験者から情報が入ってきているが、一等無人航空機操縦士の試験は未だ実施されていないため、難易度や試験問題は予測不能だ。国からはサンプル問題として3問の例題が公表され、計算問題も出題されている。これを受けて業界では、一等無人航空機操縦士の難易度は想定よりも高いのではないか、と見る人も多い。無人航空機操縦士はこれまでの民間資格とは異なり、国家資格であり、一定以上の難易度を設けるのが一般的だ。また、一等に関しては第三者上空を飛行させるための資格となっているため、大事故や人命に関わる事態につながる恐れもあることから、少なからず同じ空域を共有する有人航空機に一歩近づいた内容になりそうだ。

▼一等無人航空機操縦士の学科試験のサンプル問題(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/koku/content/001520518.pdf

 今回の集中講座は、前述したように一等無人航空機操縦士の試験内容が公表されていない状況で開催された。そのため、講演内容はどれも一等無人航空機操縦士の枠を超えたレベルに設定しており、その資料は6講演で約400頁にのぼる。ドローンスクールに通った経験も筆者にはあるが、予備知識を含めた専門性の高い内容を知るきっかけとなった。仮に試験に出題されない範囲であっても、安全運航に役立つ欠かせない知識がふんだんに盛り込まれていた。講師の戸澤氏が「今回の講演内容と資料は、一等無人航空機操縦士の問題集や教本がないなかで非常に価値のある内容だったと思う。今回用意した電波と無線の講演内容と資料を理解すれば、電波と無線においては間違いなくクリアできる」と自信を持って言うほどに、価値のある講座であった。

 NEXAIRS DRONE SOLUTIONは集中講座を定期的に開催することを発表しており、第2回は2月6~7日を予定している。