ドローン活用の1つとして農業や漁業における鳥獣害対策での利用が注目されている。今回は、近年、生息数の増加により漁業被害や生活環境被害・景観悪化が問題となっているカワウへの対策について、ドローンの機体開発などを手掛けるTEADの取り組みを紹介する。

周辺住民への生活環境被害も発生、カワウの漁業被害は年間94億円

日本全国に生息するカワウ。一時は減少傾向が見られたが、近年個体数が再び増加し、漁業被害や植生被害、景観悪化をもたらしている。

 カワウは世界に広く分布するペリカン目ウ科の鳥類の一種で、体長約80cm、体重は1.5~2.5kgの水鳥。沿岸部の海水域から内陸部の淡水域まで幅広い水辺に生息し、捕食のために水深30cm~5mほど潜ることができ、水深数cm~30cm付近に生息するさまざまな種類の魚を1日に300~500g、繁殖期になると1~2kgも食べるという。1970年代に環境汚染や干潟の埋め立てなどで絶滅のおそれもあったが、環境改善や保護活動、河川改修で魚が隠れる場所が少なくなったこともあり、1990年代から急激に増加し、全国各地で漁業被害や植生被害、景観悪化といった問題が発生している。

カワウの糞が付着したことにより松の木が一部白く変色してしまった様子。

 カワウは河川や湖沼等や養殖場においてアユやボラ、コノシロなどの魚を大量に捕食するため、漁業に深刻な影響をおよぼしている。全国内水面漁業協同組合連合会の調べによると、2020年の漁業被害は推定で年間94億円にものぼるという。また、繁殖地では糞の葉への付着、糞の飛散による土壌の変性による樹木の枯死、糞による悪臭や鳴き声による騒音といった周辺住民への生活環境被害・景観悪化も問題となっている。このような現状を踏まえ、各自治体や漁業組合が対策を講じており、ドローンを用いた対策もその1つに含まれる。

※国は2014(平成26)年4月に「カワウ被害対策強化の考え方」(平成26年4月環境省・農林水産省公表)において、「被害を与えるカワウの個体数」を10年後(2023年度)までに半減させる目標を設定。
▼https://www.jfa.maff.go.jp/j/enoki/pdf/kawau.pdf

群馬県と協力し2020年からドローンによるカワウ被害対策の実証実験をスタート

 今回の実証実験は群馬県で実施された。群馬県には利根川をはじめ多くの河川があり、アユは群馬県の魚として指定されるほど県民に親しまれている。しかし、群馬県のアユ漁獲量は1994年以降(150トン)減少し、2003年には32トンまで減ってしまった。アユの不漁原因は河川環境の悪化もあるが、主にカワウによる食害、冷水病が減少要因として考えられるという。そこで群馬県の鳥獣被害対策支援センターが、群馬県高崎市に本社をおくTEADに相談したことをきっかけに2020年からドローンを活用したカワウの被害対策に取り組むこととなった。
 カワウ対策におけるドローン活用の取り組みは日本各地で行われており、営巣地である高所での繁殖抑制と水辺での追い払いの場面で主に活用されている。具体的には、小型ドローンを利用し営巣地にビニール紐を張ってカワウの接近を防ぐ、巣にドライアイスを投入し卵を冷却して孵化を止める、ドローンに搭載したスピーカーを使い水辺のカワウを追い払う、といった取り組みだ(水産庁 内水面に関する情報 https://www.jfa.maff.go.jp/j/enoki/naisuimeninfo.html)。また、ドローン映像によるカワウのコロニー(巣の集合体)・群れの状況等のモニタリングにも使用されている。

カワウのコロニー。卵のある巣が多数ある。樹上に巣を作るため人による作業は危険が伴う。

 カワウの個体数の増加を抑える手法として、人が木に登ってドライアイスで卵を冷却して凍死させ孵化させないようにする、疑似卵に交換するといった対策方法がある。カワウは卵を取り除いても再び産み足してしまうためこのような方法をとっているそうだ。しかし、カワウは高所に巣を作るため、人間が作業するには危険が伴う。そこで、大型ドローンを保有し、機体開発を手がけるTEADの技術協力で、ドローンによるドライアイス投入の実証実験が始まった。ドローンを使うことで高所であっても作業効率と安全性を確保しつつ、繁殖を抑制できる。2020年10月の実証実験では、TEADで開発した農薬散布機(TA408)にカワウ対策用に改良した散布装置を搭載し、ドライアイスの投下に成功している。

ダクトを利用し、巣にピンポイントでドライアイスを投入

 「2020年の実証実験では、ドライアイスを前方に投下することに成功したが、狙った巣にピンポイントで投下することは難易度が高く、課題が残った」とTEADの担当者はいう。
 そこで、ドライアイスの投入方法、作業効率、効果について検証を行い、ダクトを使った投入方法が検討された。ダクトの長さやドライアイスの量など、さまざまなパターンを検証した結果、長さ2m、直径16cmのダクトをドローンの下部に装着し、1つの巣に対して3~5秒間ペレット状のドライアイスを投入するという方法で実証実験が行われた。

今回の実証実験で使用されたTEAD製のTA408-Fは、カワウ対策用に改良されている。2mのダクトを装着するためにランディングギアを延長。粒状散布装置は、ドライアイスで装置内が固まらないよう常に攪拌する機構とするなど、凍結防止対策が施されている。

 今年3月末の実証実験で使用されたドローンは2月に発売を開始した農薬散布機TA408-F。自動飛行モードを搭載し、専用アプリによる各種サポート機能により、操縦者の負担を軽減するとともに均一散布を実現する散布アシスタント農業用ドローンだ。ドライアイスはマイナス80度前後と極めて温度が低いため、凍結により散布機能、モーターといった電子部品などに影響を与えないように、前回の実証実験と同様に散布装置に凍結防止策を講じている。今回は新たに、タンク内はペレット状のドライアイスが固まらないよう常に攪拌する機構とし、2mのダクトを装着するため本体のランディングギア(脚)を延長するといった改良を施した。

2mのダクトが枝などに引っ掛からないように繊細な操縦が必要となる。映像確認者とオペレータの連携がカギ。巣の近くまで飛行する。

 飛行は目視監視員が1人、ドローンのオペレータ(映像確認と操縦)が2人、監視員1人の4人体制で行われた。TA408-Fのペイロードは8kgあるが、ダクトを装着したことやランディングギアの長さを伸ばしたことにより、最大ペイロードは7kgとなっている。飛行時間が10~15分間なうえに、ドローンの移動と散布は手動操縦で行うため、確実に巣を狙う時間を長めに確保するように諸条件を考慮して今回の実験では3kgのドライアイスを搭載した。散布に関しては、30秒間で3kgの散布能力があるという。

巣の近辺までドローンが近づいたらペレット状のドライアイスを散布。ダクトによってドライアイスが拡散せず狙った場所に投入できた。
上空からカワウの巣に向けてドライアイスを投入する様子。松の枝が糞で白くなっているのがよくわかる。
赤外線カメラでドライアイス投入を映した様子。ドライアイス投入前は巣の中の卵は熱を持ち赤く色づいているが、動画スタートから5秒後のドライアイスを投入時すぐに温度が低下したことがわかる。

 実証実験を実施して担当者は、「ダクトを付けることによってドライアイスが拡散せず、ある程度狙ったところへの投入に成功した。卵にドライアイスが適切に付着すれば対策できるので、複数の巣が近くにあれば効率良く繁殖抑制ができると思う。運用に関しては、ダクトが細かな枝に引っ掛からないように飛行することや、風の影響などによってドライアイスが流されてしまうことを考慮して操縦するため、映像確認者とオペレータの連携は必須だと感じている。前回は前方に投下するスタイルだったためドライアイスのロスが多いのと、どの巣に投下できたか曖昧な状態だった。今回のようにピンポイントで投下できたことは、今後の対策の参考となるデータ取りにつなげることができた」と話す。

ドローンでより広いエリアを対策のターゲットにできる

 カワウの生息場所は、1990年以降、北海道から沖縄まで全国に広がっている。カワウは高い移動能力があり、日常的な行動範囲は直径で数10~50kmもあり、広範囲での対策が必要だ。今までの人での対策では、範囲が限定されてしまい結果として効果的な対策とならなかったが、ドローンを活用すれば、これまで人が直接見に行くことが困難であった場所での生息状況調査や繁殖抑制、孵化抑制など、より広いエリアでカワウ対策を講じることが可能となる。
 TEADでは今回の実証実験で「理想とする方向性はわかったので、あとは改良していくのみ」としており、今後さらに精度をあげていく予定だ。
 「ドローンの移動と散布は手動操縦での運用となるので、一定の操縦スキルが必要であり、さらに高低差や風などのロケーションに対する安全確保に判断や経験も求められる。現段階では、被害者自身で対策するには難しいと感じている」と話す。現在は群馬県と対策の取り組みを行っているが、「目指すところはもっと高いレベルで未だ途中の段階ではあるが、狙ったポイントに対して散布でき、効果は出ているので、悩みのある地域で我々のできる対策を提案し、お役にたちたい」とし、請負散布のビジネスモデルを構築していきたいと抱負を語ってくれた。