生育促進効果のあるホウ素に注目!

 2019年は、花粉濃度を0.3%に戻して花粉に砂糖を加え、蒸留水、寒天で溶いた溶液と受粉を促進するホウ素を1ℓあたり130ppm加えた2つの溶液を準備。ホウ素は、果実生育促進効果があり、液体培地での花粉の発芽実験でも効果が認められ採用。結実率はホウ素なしの花粉濃度0.3%では37.8%、ホウ素ありでは61.2%と確かな効果が数値に表れた。

ドローンでの散布の効果を最大限にするため、重なり合う枝を少なくするよう剪定した。

 2020年には、前回で効果があったホウ素を130ppmから65ppmに変更。これは、結実増加で作業が追いつかなくなり、品質が低下してしまうことを防ぐために結実率を50%前後に調整するためだ。さらに、重なり合う枝を減らすことで下部の結実を増やすというドローン目線でのリンゴ樹木の剪定を行った。また、名久井農業高校とは別の圃場でも実証実験を実施。結実率は、名久井農業高校圃場で58.2%、ほかの圃場で46.7%、NPO法人圃場で46.1%だった。

 この結果について鳥潟氏は「4年間の実証実験で、ドローンを使ったリンゴの受粉手法を開発できた。省力・効率化は66本の樹木に対して、ドローンの場合は15分/2人、人手の作業では180分/3人とあきらか。溶液はホウ素を加えることで目標値となる約50%の結実率がクリアできた」と言う。

受粉ビジネスの実用化・商品化は2023年春以降にスタートか

2021年に行われた溶液授粉用落下分散試験実施の様子。

 東光鉄工では同研究をもとに受粉ビジネスにつなげる実証実験を続けている。2021年には食品メーカーからの提案で、多糖類のエコーガム(キサンタンガム)を砂糖の代わりにした溶液で溶液授粉用落下分散試験を行っている。エコーガムは、食品のドレッシングやソースのとろみ付けに使われる増粘剤の1つだ。粘度が高いのが特徴だが、力を加えると粘度が低くなる擬塑性流動という性質を持ち、ドローンから吐出される際にはサラサラで、花についた瞬間に粘度が高くなるため、散布に適している。

エコーガムの溶液散布中のドローン。

 今年の4月には再び共同研究を実施し、砂糖溶液による結実率とエコーガム溶液による結実率の比較を行っている。また、花粉濃度は以前の0.3%から0.15%に減らした調査となる。もし、花粉濃度を減らしながらもエコーガム溶液の結果が良ければ、さらなるコストダウンにつなげられる。

 これに加え、受粉以外にもドローンの活用が見込まれる摘花への可能性も探っている。樹木の結実用の花に対し、結実に不要な花は数十倍も多く咲くため、不要な花を早く落として樹体の負担を削減したい。この摘花の作業は、摘み取りや薬剤による方法が一般的だが、2019年には薬剤をドローンで散布する共同研究を秋田県と実施しており、引き続きドローン適用の可能性を探っている。

溶液授粉用に改良されたTSV-AQ2の散布幅可変用ノズル装置。

 気になるドローン受粉のビジネス化だが、鳥潟所長は「受粉作業だけを目的としたドローン導入は非現実的だ。また、樹木の上部1mを飛行するには、繊細な操縦技術とナビゲートが必要であり、農家が自ら扱うのは厳しいだろう」と話す。

 東光鉄工は、2023年春以降にドローンの散布飛行方法のマニュアル化、ドローン受粉に適した剪定方法、花粉収集法、受粉溶液の作成方法や提供方法といった技術指導のビジネスモデル化を進める方針だ。