KDDI、KDDI総合研究所、プロドローンは2021年12月14日、「水空合体ドローン」のお披露目会を横浜・八景島シーパラダイスで実施した。水空合体ドローンとは、遠隔で飛行を制御できる空中ドローンが水中ドローンを沖合まで運んで着水し、陸から水中ドローンを遠隔操作することで水中の映像をリアルタイムで確認できるという機体だ。作業終了後は、空中ドローンが水中ドローンを回収したのち離水して帰還する。陸から手軽に水中点検を実施できるという点で、船やダイバーの手配に悩む事業者からの注目度は高い。今後は多様なシーンでの実証を重ねて、現場の要望を吸い上げつつ商用機の開発を進め、2022年度中の商用化を目指すという。

 お披露目会には、KDDI事業創造本部ビジネス開発部ドローン事業推進Gマネージャーの松木友明氏、プロドローン取締役副社長の菅木紀代一氏、KDDI総合研究所イノベーションセンター イノベーション協創G研究マネージャーの川田亮一氏が、順々に登壇した。松木氏は、水空合体ドローンのベースとなるスマートドローンの概要や今後の可能性について話した。菅木氏は、機体のスペックや構造について詳細を説明。川田氏は、水中ドローンの位置把握のために開発した音響測位の仕組みについて解説した。

 その後、実際に空中ドローンが離陸、飛行、着水、離水、再び飛行して着陸するシーンが公開された。着水後の水中ドローン潜航や水中映像については、直前の機材トラブルのためお披露目することが叶わなかったが、同日リリースされた北九州市での実証の動画によると、空中ドローン着水後に水中ドローンが潜航して取得した映像を、リアルタイムに遠隔で確認できることがしっかりと示されていた。

水空合体ドローンが着水したのち離水するところ

KDDI「スマートドローン」、水中にも活動領域を広げる

 KDDIでは、ドローンにモバイル通信を組み合わせたものを「スマートドローン」と定義して、6年前からそのプラットフォームを開発してきたという。モバイル通信によって遠隔での操縦や監視を行い、目視外でドローンを飛行させる将来を見据えた取り組みだ。このモバイル通信対応運航管理システムは、長野県伊那市の物流サービスにおいて使用されるなど、すでに商用提供されている。

 今回お披露目となった水空合体ドローンも、空中ドローンの飛行制御においては同システムを使用した。1つの運航管理アプリケーションで、フライト開始や一時停止といった飛行指示を遠隔送信でき、飛行ルートの表示や、見たい場所を拡大するといったカメラの制御もできて、ドローンで取得した映像はどこからでもリアルタイムに見ることが可能だという。

 松木氏は、スマートドローンが風力発電機の点検で活用されている事例を挙げて、「人がドローンを操縦して点検を行うというのはよく聞くと思うが、ドローンがブレードの周りを自動で巡回して撮影する、さらに損傷箇所をAIで解析して、レポートも自動で作成する、こういう世界をすでに実現している」と説明した。

 その上で、洋上風力発電施設は沖合に建設されるため、点検のコストや負荷が高いことに言及。松木氏は、水空合体ドローンがスマートドローン対応機種のラインナップに加わることで、どのような可能性が開けるのかについてこう説明した。

「従来、水中を点検するためには、沖合に船を出して、そこからダイバーによる潜水や、あるいは水中ドローンを操縦して、点検作業を行っていた。しかし、この方法では船の操縦者の確保や、ダイバーの確保に時間やコストがかかり、船の運航が天候に大きく左右されるという課題もあった。水空合体ドローンを活用することで、陸から遠隔で空中ドローンを飛行、遠隔地に着水させて、そこから全て遠隔の操作で水中の撮影ができる。これまで非常にハードルの高かった水中撮影が、より簡単にできるようになると考えている」(松木氏)

KDDI事業創造本部ビジネス開発部ドローン事業推進Gマネージャーの松木友明氏

 すでに各所からは、「水空合体ドローンを利用したい」という要望が上がっているという。たとえば、「定置網漁や養殖業の現場では、魚の生育状況などを点検するために、定期的に船を出しているが、それを自動化できないか」。あるいは、「洋上風力、ダム、橋脚といった、水中のインフラを遠隔で簡単に点検したい」「船底の点検も、船やボートを出さずに行いたい」など。昨今では、カーボンニュートラルに向けて、沿岸のブルーカーボンを測定するというニーズが非常に高まっており、水空合体型ドローンでできないかという相談も受けているそうだ。

水中ドローンは遠隔操作ウィンチで制御

 こちらが水空合体ドローンの全体像だ。まず、空中ドローンの寸法は1640mm × 1640mm × 760mm、飛行重量は21kg、搭載量は5kg、耐風性能は10m/s、耐水性能はIP55相当、飛行時間は15分、飛行速度は40km/h、航続距離は8km、アームが折り畳み式で一般的なワゴン車で運搬可能だという。

水空合体ドローンの全体像

 水空合体の基本構成は、まず空中ドローンの中央下部に水中ドローンの格納ゲージが設けられている。両機体はテザーケーブルでつながっているが、安全性への配慮からゲージは開閉する仕様になっており、水中ドローン格納時は蓋が閉められている。ウィンチを遠隔操作してケーブルの送り出しや巻き取りなどを行うことで、水中ドローンの潜航や回収ができるという構成だ。

 テザーケーブルの役割は、水中ドローンへの操作命令や取得した映像の伝送だ。無線ではなく有線で通信することで、データ伝送の遅延を回避できるが、一方で水中ドローンが深く潜航するほど、ケーブルが潮の流れに引っ張られて、機体を制御しづらくなるという側面もある。このため、ケーブルは1.2mmの細さを実現した。この中に3本の電線を通しており、耐荷重は約50kgだという。

 また、水中ドローンは、水中で自己位置の把握ができないため、せっかく水中を遠隔で点検できても、どこの映像であるか特定することができない。この対策として、音響測位装置を装備したという。水中ドローンから発せられた音響信号を空中ドローンが受信して、空中ドローンはGPSで自己位置測定できるので、両機体の相対位置から水中ドローンの位置を測定するという仕組みだ。

水中ドローンの上部に筒状の音響信号を発する装置が備え付けられている

 水空合体ドローンの機体の設計や制作などを担当したという菅木氏は、「海上には波、風、海流もある」と話して、たとえば、空中ドローンがGPSを活用して着水ポイントでホバリングしているかのように止まれるようにしたことや、アーム先端部にフロートを設けることで、荒れた海でも安定した離発水できる構造を目指したことなどを紹介して、海という過酷な運用環境に対する開発における配慮や工夫をにじませた。

プロドローン取締役副社長の菅木紀代一氏

世界最小クラスの音響測位装置を開発

 水空合体ドローンにおいては、独自開発された音響測位装置も注目だ。開発の背景には、もともとKDDI総合研究所が、太平洋を横断している光通信ケーブルなどのメンテナンス用に、大型の水中ロボットを開発してきたという実績がある。海底での取り組みの中で蓄積された音響信号処理技術を活用して、世界最小クラスの小型で、かつ高精度な音響測位デバイスを実現したという。水中ドローンに音響信号を発する装置を取り付けておいて音波を発生させ、空中ドローンに設置したハイドロフォンで音波を受信し、水中ドローンの位置を把握するという仕組みだ。

 川田氏は、「水中は、濁っていたりするとすぐに機体を目視できなくなる」と、水中におけるドローンの運用環境についても補足しつつ、音響測位装置を使うことで空中ドローンと水中ドローンそれぞれの位置を管理画面で確認しながら、オペレーターが操作できると説明した。

KDDI総合研究所イノベーションセンター イノベーション協創G研究マネージャーの川田亮一氏

2022年度の商用化に向けて

 お披露目会での運用は、空中ドローンと水中ドローン、別々にオペレーターが配置されており、空中ドローンはスマートドローンの管理画面、水中ドローンは機体専用(FIFISH V6 PLUS)の管理画面を見ながら、操作が行われていた。両オペレーターが、全く同じ画面を見る必要はないかもしれないが、管理画面統合は商用化に向けての大きなテーマの1つとなりそうだ。

 また、ケーブルの扱いについても注目だ。一般的に水中ドローンの運用では、機体の操縦を行うメインオペレーターと、ケーブル捌きを担う補助者、最低でも2名体制が推奨されている。このため、機体の操縦を遠隔で行ったとしても、機体を水中に投入したり引き揚げたりする、またケーブルが絡まないように捌くために、結局は船と人を手配しなければならないのが現状だ。

 水空合体ドローンが、この点においても省人化を図っている点はユニークである。空中ドローンと水中ドローン、それぞれのオペレーターは陸にいるので、船は出さない。水中ドローンはゲージに格納された状態で着水ポイントまで運搬され、着水ポイントに到着すると、空中ドローンのオペレーターがゲージを開け、ウィンチを操作して、水中ドローンを切り離す。同時に、水中ドローンのオペレーターがスラスター(機体を推進させるためのプロペラ)を回転させて、潜航を開始する。

 ウィンチには、着水後にケーブルを緩めて送り出すモード、一定のテンションをかけて引っ張られてもケーブルが伸びないようにするモード、自動でケーブルを巻き取るモードの3つがあり、状況に応じて適したモードを切り替えて使用する。空中ドローンは海上に浮いており、着水した後も飛び上がらない程度の出力で移動できるため、人間の手を介さなくとも、ケーブルのテンションを適度に保つことができるという。

 3者の目下の目標は、2022年度の商用化だ。洋上では約3kmが一般的だという通信エリアの拡大、水中ドローンからケーブルをなくす水中通信の無線化、位置情報把握の精度向上など、まだまだ多くの技術開発を検討中だというが、“2つの全く異なるロボットが合体して現場へ急行する”という、夢のあるアイディアが具現化されたことは特筆すべきだ。今後の動きに注目したい。

 同日リリースされた動画によると、2021年11月17日に北九州市の電源開発若松総合事業所でのモバイル通信を活用した遠隔水中撮影実証では、洋上風力発電の浮体施設において漁礁となる藻場が育っているかどうかを、遠隔で撮影できることを確認したという。