今年のJapanDroneはNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3大キャリアがそろって出展。各社独自のソリューションサービスを展開するなか、KDDIでは2022年から開始するレベル4の目視外飛行に向けたソリューションを発表。これに加え、空のドローンと水中ドローンを組み合わせた”水空合体ドローン”が注目を集めた。

 KDDIが打ち出すスマートドローンビジョンは、モバイル通信対応ドローンによる新たな価値創出がコンセプトとなる。すでにモバイル通信を活用する実証実験は、警備監視や災害対応、物流配送などで実施されている。モバイル回線の利用はドローンの通信距離を制限せずに、遠隔地からリアルタイムに運航管理を行うといったものだ。KDDIはモバイル回線の活用や、自動化を目的にした5つのソリューションを展開した。

モバイル回線の接続で実現する5つのソリューション

「買い物したい」

伊那市の配送サービスに使用されている「PD6B-Type3C」は、最大30kgの荷物を搭載可能。

 モバイル回線を利用した物流配送サービスをビジョンに掲げ、KDDIはすでに商用提供を開始している。長野県伊那市では2020年8月から地元住民に向けた配送サービスを始め、現在(2021年6月)も継続して提供している。サービスはケーブルテレビへの加入を条件に月額1000円で利用でき、地元団体の運航管理によって生活必需品等を効率的に届ける。今後は都市部での医療品配送やフードデリバリー、離島間物流、災害時の物資輸送などにドローンの活用を拡大していく。

「早く助けたい、復旧したい」

消防署や自治体に据え置き型のドローンボックスを設置することで、緊急時の飛行に備える。

 ドローンを使って災害時における復旧作業を迅速に行う。KDDIは2018年に発生した大阪北部地震で、線路の被害調査に時間がかかり、電車の運行復旧が大幅に遅れたことを例にあげた。そのうえで、ドローンポートやモバイル回線による遠隔監視技術があれば、迅速に被害把握が行えるという。大阪北部地震の事例は、道路が被害を受けたことで点検事業者の身動きが取れず、現場へのアクセスが大幅に遅れてしまったことが要因とされる。そこで、遠隔地からドローンが駆け付けることで、効率的な被害把握が実現できる。

「危険作業を安全に」

ブレードを認識し、点検ルートを自動生成。
鮮明な写真で点検を行い、高度情報によって撮影位置も明確に参照できる。

 KDDIは自動点検サービスを発表。第一弾として風力発電設備の点検ソリューションを展示した。風力発電設備の点検は、地上高100m以上の高所な現場がほとんどで、人による点検は危険が伴う。そこで、KDDIは自動点検ソリューションを開発した。風力発電設備のブレードを認識することで、ブレードを4方向から撮影するための飛行ルートを自動で生成。取得した数百枚の写真データから損傷個所を自動でスクリーニングし、マッピングを生成する。そして、最後に報告書を作成するといった一貫したサービスを提供。KDDIは5月に電源開発(J-POWER)から風力発電設備67基の自動点検を受託している。今後は鉄塔、送電線、プラントにも技術を応用していく予定だ。

「作業をもっと効率的に」

 測量業務における撮影からデータ解析までのワンストップサービスを提供。公共測量に対応した基準点を持つジェノバや、愛三工業のソフトウェアを使用することで高精度な測量業務を実現した。一般的な測量業務のほか、森林資源調査、橋梁の3Dデータ管理、地形データ管理に役立てていく。

「田畑を守る」

 生産者の高齢化や担い手の確保などが課題となる農業分野において、ドローンを使った農作を提供していく。KDDIはオプティムと共同で、ドローンセンシングを使った減農薬のスマート米の農作を行っている。付加価値の高いスマート米の提供を通じて、農業分野の課題解決を図っていく。

KDDIが打ち出すスマートドローンプラットフォームとスマートドローンのビジョン。

 これらのソリューションは、レベル4の目視外飛行に欠かすことのできないスマートドローンプラットフォームによって実現される。これは着地先と上空の気象情報や進路上の障害物情報、ドローン監視などの情報を集約し、遠隔からドローンを安全に飛行させるためのものだ。

管制システムを使った複数機の同時飛行に成功している。

 その1つとして、NEDOのプロジェクトを通じて開発している運行管理システムがある。2021年3月には全国3カ所から9機のドローンを同時に管制する実証に成功した。

水中へのアクセスを柔軟にした世界初の水空合体ドローン

水中ドローンを搭載した水空合体ドローン。水中ドローンはケーブルでつながっており、ウインチによる自動巻取りも備える。

  KDDIはスマートドローン対応機種のひとつとして、空飛ぶドローンに水中ドローン(QYSEA FIFISH V6)を搭載したプロドローン製の水空合体ドローンを展示した。この機体は水産養殖や水域インフラの点検を目的に開発された。

プロペラの下部には着水用のフロートが採用された。

 水中ドローンの活用は船を出して点検箇所までアクセスしていたが、モバイル回線による遠隔操縦で空中から水中ドローンを運ぶことが可能になる。空のドローンが水面に着水することで、その場から水中ドローンを運用できるといった具合だ。

 モバイル通信によって両機の遠隔操縦のほか、空のドローンを介した遠隔への映像伝送も可能にした。さらには音響計測技術を備え、GNSSを受信しにくい水中であっても、空のドローンと水中ドローン間で位置測定を行い、自己位置を正確に測定することが可能になった。その誤差は1%程度で、20m潜水しても2cm程度の誤差にとどめることができるという。