国土交通省「令和3年度 海の次世代モビリティの利活用に関する実証事業」に採択された6件のうちの1つ、「ローカルシェアモデルによるROVを用いた港湾施設点検の実用化実験」の関係者キックオフが2021年9月27日、静岡商工会議所 清水事務所で開催された。ROVとは、水中に潜航させた機体をケーブル経由で船上や陸上から遠隔操縦して撮影やデータ取得できる水中ロボットの一種で、水中ドローンとも呼ばれる。

 日本全国の港湾施設は老朽化が進み、多くが建設後50年経過するなど更新時期が訪れているが、水中部の点検を担う潜水士の高齢化と担い手不足は深刻で、ロボットによる代替と作業の効率化は喫緊の課題となっている。このような中、本実証は静岡商工会議所が代表者となり、アイディアを持ち込んだ筑波大発の水中ドローンメーカーFullDepthや、地元事業者や団体のキーマンらを取りまとめ、課題解決に取り組む。使用する機体は、FullDepthの産業用水中ドローン「DiveUnit300」。

FullDepthの産業用水中ドローン「DiveUnit300」(プレスリリースより引用)

 取り組みのポイントは2つだ。1つは、「ROVを用いた施設点検の実用化」。潜水士の負荷軽減や点検現場における潜水士不足への対応として、まずは目視検査と写真撮影作業をDiveUnit300で代替して、潜水士と同等レベルを達成できるかを検証する。そのうえで、ROV(水中ドローン)による港湾施設点検作業の標準化やマニュアル策定を目指す。

 もう1つは、「ローカルシェアモデルによるROVの運用」。製造元であるFullDepthの熟練オペレーターが点検作業を担うのではなく、その経験値と技能を水中ドローンは未経験だという複数の地元事業者に教育訓練して、地元事業者が自らオペレーターとして稼働することを目指す。FullDepthは、数年前からローカルシェアモデルを構想、今回は本実証のために新たな教育カリキュラムを作成したという。

 実証実施水域は、静岡県の清水港。3か所、3タイプの水中構造物の点検と撮影に挑む。具体的には、袖師岸壁におけるケーソン式の構造物、江尻岸壁の矢板構造式の構造物、富士見岸壁における桟橋だ。一般的な港湾施設の構造型と想定される場所を選んだという。

 実施概要を説明した静岡県商工会議所 新産業開発振興機構の技術アドバイザー佐藤次郎氏は、「ケーソン式はコンクリートの大きな箱を埋めてあるもの。壁面は平らなコンクリート壁で、中に土砂などがビッシリ詰まっている。矢板は、細長い断面がコの字型をした鉄板が交互に繋げられており、その裏側に土砂が埋められている。縦の筋が並んでいて、ケーソンと違って少し凸凹がある。桟橋は、海底に鉄の大きな管を立ててその上にコンクリートのステージを置くという構造。これが一番難しいだろう。今回、(初心者のROVオペレーターが)どこまで点検できるかを検証する」と解説した。

佐藤氏が実証の概要を説明

 教育訓練は、地元実施者である堀谷株式会社、大日工業株式会社、株式会社柿澤学園の3社から、2名ずつ選出されたオペレーターが受講する。2~3時間の座学ののち、水面近くで基礎的な操作を確認し、実際の港湾施設点検を想定した実践的な訓練を行うという。カメラ映像を頼りに目視外操縦を行うのみならず、マルチビームソナーも使用する。濁った水中でも壁面や細いロープを辿って操縦するスキルや、ケーブルの絡まりを解消するトレーニングも実施するという、かなり濃密なカリキュラムだ。

 キックオフでは、実証事業の実施管理者である静岡商工会議所 新産業開発振興機構の藤田綾子理事長、地元事業実施者である堀谷株式会社の堀谷匠社長、大日工業株式会社の川瀬昌之社長、株式会社柿澤学園の柿澤安昭社長が覚書を締結、署名を行った。

調印式の様子

 橋梁の点検や塗装などの事業を手がける堀谷では空中ドローンを活用しており、FullDepthが2018年に機体操縦体験会を行ったさいには、堀谷社長が清水から北九州まで日帰りで駆けつけるなど、水中ドローンにも高い関心を寄せてきたという。三菱電機の空調の制御基板をはじめ物づくりを得意としてきた大日工業は、清水発の新たな産業の創出に期待を寄せ参画した。柿澤学園は、自動車講習所、小型船舶教習所、ドローン講習所などを運営しており、海と陸と空という既存領域と噛み合った領域として水中ドローンにも意欲的に取り組む構えだ。

 本実証にはさらに、点検結果の評価を担う株式会社建設コンサルタントセンターや、水中の施工を手がけ、水中のICT化にも取り組む株式会社平野潜水工業所も、FullDepthと同じく業務委託事業者として参画した。

 また共同提案者には、静岡県の機関との調整や情報共有などを支援した一般財団法人マリンオープンイノベーション機構(MaOI機構)、静岡市内の新たな海洋産業の創出に向けた支援を行ってきた静岡市海洋産業クラスター協議会(MICCS)、潜水士による水中ロボット活用の草分け的存在で、代表取締役の鉄氏が一般社団法人日本潜水協会の会長理事をつとめる株式会社鉄組潜水工業所が名を連ねる。また清水地域経済研究センターもバックアップに入っている。

キックオフには関係者が勢揃い

 FullDepth COOの吉賀智司氏は、「まさに必要なプレイヤーに揃っていただけた。最初にアイディアを寄せたのは我々だが、地元事業者や団体の皆さんがそれぞれの立場から必要性を感じておられて、静岡商工会議所さんを中核にして集まることで、一気に物事が動いていった感じ」だと話す。

 将来的には、ROVのローカルシェアモデルを確立した清水が、静岡県全体に広がる水中ドローン活用ニーズの受け皿となっていくことを見据える。港湾施設点検以外にも、深海域の活用、洋上風力、藻場の調査、ダムや発電所の点検など、静岡県内にはさまざまなニーズが顕在化しているという。

吉賀氏が将来的な広がりを紹介

 吉賀氏は、「ビジネススキームはさまざまなパターンが考えられるが、いずれにしてもローカルシェアの取り組みが広がることで、水中ドローンを必要なときにいつでも使える、手頃な価格で活用できるようになれば、多様なニーズにリーチでき、お仕事にもつながるし、地域課題の解決にもつながる。こういうことを目指していけると非常に良いのではないか。ローカルで完結するシェアスキーム『清水モデル』を成功させていきたい」と話した。

 なお、国土交通省「令和3年度 海の次世代モビリティの利活用に関する実証事業」に採択された6件はこちら。2021年9月から2022年1月にかけて実証実験を実施し、2022年3月に最終成果報告会を開催予定だ。