福島県危機管理部消防保安課は2021年7月30日、県内の消防本部職員を対象とした「水中ドローン講習」を実施した。福島県としては初めて。実施場所は福島ロボットテストフィールドで、屋内の大水槽も活用された。

 参加したのは、県内にある12消防本部のうち、会津若松、喜多方、須賀川の3消防本部から、各2名ずつの職員。例年、湖での水難救助や捜索のため出動する可能性が高い地域だという。

 講習を担当したのは、水中ドローン安全潜航操縦士認定講習や、水中ドローンによる点検なども手がけるスペースワン。同社は、これまで福島県内の消防本部と共同で、水中ドローンによる水難救助訓練を行った実績も持つ。当日は、午前中2時間の座学と、午後3時間の実技講習を行った。

 座学では、一般向けの水中ドローン安全潜航操縦士認定講習の内容に加えて、水難救助という観点で内容の拡充が見られた。たとえば、「救助隊の編成、装備及び配置の基準を定める省令」において政令市級の消防本部には水中探査装置の設置義務があり、装備数は増加していることや、許可申請が必要なエリアにおける緊急通報を伴う場合の水中ドローンの使用についての対応など、具体的なユースケースを想定した内容だ。また、水中の濁りや水草の絡まりなど、水中ドローン運用時のトラブル対応については、水中作業の現場をよく知る職員たちが頷きながらしっかりとメモを取る姿も印象的だった。

 実技では、まずは水中ドローンの起動の仕方、データの取り扱い、運用時の注意点などのレクチャがあり、各消防本部ごと3グループに分かれて操縦訓練を行った。2名1組で、1人が操縦、1人がテザーケーブル捌きや操縦補助を担当した。同じ職場で水難救助の現場対応も行う職員同士、「前進します」「潜航します」「少し右に動きます」などの声のかけあいも抜群だった。

 会津若松消防本部からは、2020年9月に猪苗代湖で起きた事故の際にも出動した職員も参加した。水難救助でご遺体を捜索する際、水中ドローンを活用することで精神的な負担が低減されそうかを尋ねると、「もともと覚悟はしている。水中ドローンで捜索できたとしても、見つけたあとにご遺体を引き上げるのは我々なので、自覚と覚悟と持って業務に当たるほかないが、最初の段階で水中ドローンを使って捜索範囲にあたりをつけられることができれば有益」という趣旨のコメントがあった。

 水中での捜索は集中力を要するうえ、体力や空気残量への配慮も求められる。真冬の桧原湖でのワカサギ釣りが有名な喜多方では、夏に限らず冬の水難事故もあるそうで、極寒の潜航を水中ドローンで代替できれば有益だ。

 本講習を企画・実施した福島県危機管理部消防保安課で副主査をつとめる岩井孝明氏は、令和元年台風第19号の水害を挙げつつ「水害は、重きを置くべき事案の1つ。水中ドローンも重要な装備の1つになると認識しており、有益性に着目している」と話した。

 水中ドローンは濁りなどで無視界となれば、操縦の難易度が格段に上がる。継続的な操縦技術の向上や、音波を発するソナーで対象物を捉えるといったカメラ以外の手段の活用などが求められるだろう。