創業100年を超える総合容器メーカー東洋製罐グループは2020年12月15日、ドローンへの着脱と遠隔操作が可能なスプレー缶噴射システム「SABOT for Drone」の実用化モデルを初お披露目する発表会を東京都内で実施した。当日は、「SABOT for Drone」開発の背景、製品の概要や機能の説明、実際にDJI製の機体に搭載してスプレーを噴射する6パターンのデモ、今後の展開について紹介があった。

総合容器メーカーが新たな一手

 東洋製罐は、缶製造のみならず、びん、紙コップ、プラスチック製ペットボトルなど、多様な包装容器の製造を手がける老舗企業だ。世界17か国、75社の拠点をグローバル展開しており、各製品のシェア率も高い。

(発表会資料より引用)

 東洋製罐グループホールディングス株式会社 取締役常務執行役員の中村琢司氏は発表会の冒頭に、「包装容器がなければ生活用品をみなさまに届けられない。そう考えると包装容器は社会インフラである。昨今話題になっている海洋プラスチックゴミなどの社会課題には、社会的責任を感じている。持続可能な社会の実現に向けた、社会課題の解決に必要な技術開発は、グループが取り組むべき最重要ポイントだ」と話し、2019年に「OPEN UP! PROJECT」を始動したことを紹介した。

(発表会資料より引用)

 OPEN UP! PROJECTとは、100年以上続いてきた容器の技術をもって、次の100年をつくるためにさまざまな課題に向き合い、イノベーションを起こすためのプロジェクト。今回発表された『遠隔型スプレー缶噴射システム「SABOT for Drone」 実用化モデル』も、このプロジェクトから誕生した。同社によると本システムは、“ドローンに着脱可能”という点で世界初だという。

「SABOT for Drone」とは

 「SABOT for Drone」の概要と機能は、東洋製罐株式会社 テクニカルセンターの荒木宗司氏が説明した。荒木氏は、「労働力人口の減少を背景として、陸上、空中、水上などのあらゆるフィールドで、人の代替となる無人ロボットが台頭している。無人ロボットは、AI・人工知能で考える力、GPS・自動運転技術を用いた移動する力、カメラやセンサーによる視覚や聴力を備えているが、ドローン然りどの形態のロボットも、作業する力をほとんど持っていない」と指摘。東洋製罐は、「自社製品であるスプレー缶でロボットに作業力を与える」ことをテーマに、「人間の手となり作業を代替できる技術」の開発にいち早く取り組んできたという。

 「SABOT for Drone」には3つの特徴がある。1つは、スプレー缶自身の圧力で噴射できるため、ポンプが不要で軽量化や小型化が可能となる適用性だ。そして、取り扱いが簡単で誰でも操作ができ、タンクや配管の洗浄も不要という利便性。さらに、ドローン用のスプレー缶として二重構造容器かつ噴射剤には非可燃性の窒素ガスを採用したという安全性だ。

(発表会資料より引用)

 ドローン用のスプレー缶は、Bag-On-Valveという容器を採用したという。これは、スプレー缶の中に袋が入っており、袋とスプレー缶の間に圧縮した窒素ガスを入れ込むことでパウチが常に絞られている形になり、ボタンを押すという操作をするとパウチの中にある内容物が噴射する機構だ。このため缶が横向きでも勢いよく噴射できる。パウチの中に常に液体が入っている状態を保つことで、360°どの角度からでも噴射が可能で、万が一、缶が損傷した場合でも窒素ガスが空気中に漏れ出るだけで、爆発等の危険はない。ちなみに現状の容量は150ml。重量は650g以下で調整中だ。

(発表会資料より引用)

 ドローンにスプレー缶を適用することができれば、従来カメラやAIを使用した「検査」がメインだったドローンの利活用領域は、「作業」まで広がる。例えば、サーモカメラで検知した温度異常箇所に色付きの液体を噴射してマーキングすることで修理作業者が該当箇所を探しやすくなる、外壁診断で発見したクラック(ひび割れ)に一時的な処置として防水処理を施しておく、といったことが可能だ。

(発表会資料より引用)