デモでは、SABOTのドローンへのセッティングから、上下左右への噴射、広範囲への噴射、真下への広角噴射、高粘度内容物の噴射、マーキング剤の噴射、またタブレットからSABOTを操作して液体を遠隔噴射する様子などさまざまな実演が行われた。

SABOTが入ったケース
まずはドローンの機体にSABOT本体を取り付ける
ノズルを取り付ける
スプレー缶を取り付ける
機体をホバリングさせたまま、上下左右に噴射する様子。水であれば最大5mまで噴射可能
広範囲に噴射する様子
真下へ噴射するためノズルジンバルの操作を行う様子
マーキング剤を噴射する様子
タブレットを使った遠隔操作で噴射する様子。通信はWi-Fi(2.4GHz帯)使用
対象物を捉えるノズルカメラの映像を見ながら噴射するため、初心者でも容易に操作可能
設定画面
2つのLiDARで噴射対象までの距離を測定する

 デモで見られたような、さまざまな噴射が可能であることはもちろんだが、容器メーカーならではの行き届いたインターフェースも印象的だった。スプレー缶は、ラベルがなければ中身が分からない、缶の中身も残量が分かりにくいため、SABOTでは内容物や残量を表示させた。また、2つのボタンを同時に押さないと発射しない機能で誤噴射を回避する、ドローンが一定以上の速度で飛行中は噴射をロックするなど、安全性にも配慮した。Garmin社製のLiDARセンサーを搭載して対象物までの距離を計測し、これにより着弾予測位置を表示。初心者でも標的めがけて噴射できるようにしたという。

(発表会資料より引用)

今後の展開

 SABOTの最大の特徴は、スプレー缶を容易に取り換えることができるため、1台のドローンでさまざまな内容物の噴射が可能になるという点だ。例えば、蜂の巣の駆除と、建築・土木現場でのマーキング作業を、1台のドローンで行える。

(発表会資料より引用)

 工場内の高所部に発生した5箇所の蜂の巣を駆除した事例では、ドローンにSABOTを搭載し水を噴射して蜂の巣を駆除した。ちなみに、作業後1時間ほど蜂が戻ってこないかを確認する時間も含めて、トータル3時間程度で5箇所の作業を完了できたという。足場や高所作業車を用いず、かつ工場内で通路を封鎖する時間を短縮することに成功した。

 建築・土木現場では、GNSSとRTKによる高精度測位を使ったドローンの自動航行技術とSABOTの組み合わせで、自動でマーキング剤を噴射する作業を行った。実際の検証では、100m×20mという広範な敷地に自動で10点マーキングをする作業を5分で遂行。SABOTは缶を取り替えるだけで色違いによるマーキング剤の打ち分けができるため、建築・土木現場での作業指示の明確化や、人が立ち入りにくい危険エリアでマーキングを予め行うことで作業時間を最小限にするといった場面でも有用だという。

 東洋製罐は今後、利用企業や薬剤メーカーとの共同開発を加速する。大手建設会社では測量の補助や工事後の簡易修繕について、電力会社では高所の設備メンテナンスや蜂の巣の駆除、送電線の除雪といった用途について導入検討が進められており、共同で内容物やSABOTの開発を進めることで導入先拡大を図る。また、容器製造と充填の双方を行なっている国内唯一の企業という東洋製罐の立場を活かして、大手薬剤メーカーや大手塗料メーカーと共同で処方開発を進める動きもある。「業界ごとにニーズが異なる点で、SABOTのポテンシャルを感じている」という。

 さらに、「かながわドローン前提社会」の第2期モデル事業としてSABOTが採用されている神奈川県との取り組みや、「ヨコスカ×スマートモビリティ・チャレンジ」での実証実験など、自治体との連携も強化中だ。全国の地方自治体はエリアによって抱える課題が異なるため、神奈川県における用途開発の横展開も狙う。SABOTはCPUとカメラを搭載しており、ドローンに限らず無人ロボット用のモジュールとして活用しやすい。「利用者×課題×内容物×搭載物」によって、可能性は無限だという。

 今回発表された「SABOT for Drone」実用化モデルは、DJI Payload SDKを使って開発されている。もちろん多様なドローン機体に搭載することも可能だが、「国内メーカーの機体にペイロードを搭載する際のアタッチメントの規格が統一されていない点は課題の1つだ」という指摘もあった。2021年度は、現在検討が進んでいる企業との協業において実用化を図るとのことだが、自社サービスの一環としてSABOT活用を希望する事業者は日本全国におよぶ。一般利用可能となる日が待ち遠しい。

【SABOT for Drone紹介動画】