4月17日から19日の3日間、千葉県千葉市の幕張メッセで「第5回 国際ドローン展」が開催された。日本初のドローン展示会として2015年にスタートし、今年で5回目を数える同展は、物流・輸送、警備・監視、巡視・点検、災害対応、計測・観測、農林水産といった分野でのドローン利用にフォーカスし、機体、要素技術、応用事例を紹介する展示会となっている。今年は3日間で5000人、併催の「テクノフロンティア 2019」 「インダストリーフロンティア 2019」「交通インフラWEEK 2019」と合わせて3万人を超える登録来場者を記録しており、こうした異業種の来場者からの関心を集めていた。

出展企業・団体23社のブースが並ぶ国際ドローン展の会場。

エンルート

 今年4月にコーポレートロゴを刷新したエンルート。産業用ドローンのパイオニアとして、新たに商標登録した“働くドローン”を前面に打ち出し、新ロゴを掲げた最新の製品の展示を行っていた。特にこの新生エンルートを象徴したのが「A9」と名付けられたコンセプトモデルだ。

 従来、エンルートのドローンはフレームなどをボルト等で固定する作りとなっていたが、A9ではユニット化して製造や分解整備を行いやすくしてある。またローターアームを可倒式とすることで運搬時の利便性を向上させたほか、レーザー測量用モデルではスキッドを跳ね上げ式とするなどしている。また、 NEC製のインテリジェントバッテリーを採用し、さらに、バッテリー交換以外ではキャノピーを取り外す必要がない設計となっている。

次世代の産業用ドローンのコンセプトモデル「A9」。
A9をベースにしたレーザー測量用モデルや農薬散布用モデルも展示されていた。

 既存モデルとしてはAC1500やAC940Dといった農薬散布機の2019モデルや、TSトラッキングUASを搭載したQC730TS、橋梁点検向けのPG700などを展示。AC1500の2019モデルでは、新設計の開閉式キャノピーや折り畳み式プロペラを採用したほか、新たに離着陸アシスト機能を搭載。「生産者が飛行させる際に事故が多いのは離着陸。その離着陸を自動化することで事故のリスクを減らす」(担当者)という。

キャノピーやプロペラなど、ユーザーの声を元に使い勝手を向上させた農薬散布ドローン「AC1500」の2019モデル。

 また、2019モデルとして新たに公開されたのが、リーグル社のLiDARを搭載したレーザー測量用機「LS1500R」だ。AC1500をベースにLiDARの搭載方向に合わせてスキッドの位置を変更したほか、農業用に比べて高い高度を飛行する用途に合わせて各種設定を見直してあるという。エンルートではLiDARと一体の機体として今後販売していく予定だ。

レーザー測量用ドローン「LS1500R」。AC1500に対して90度反転させたスキッドにリーグル社のLiDAR「VUX-1UAV」を搭載している。

 さらにエンルートのブースでは、これまでに他の企業と協業して開発したカスタマイズドローンを展示。IoT端末から発信される情報を集めて回るドローンセンシングソリューション「クラウドウォーカー」や、大規模災害時に臨時の携帯電話基地局となるドローンなどを公開していた。

コネクシオとエンルートが共同で開発した「クラウドウォーカー」。水位計が近距離無線で発信するデータを空中で受信する形で集めて回ったり、登山者や家畜につけたタグから発信される電波を受けてその場所に飛行するといった形で利用する。
携帯電話基地局の電波を上空で受信して、携帯電話に対して中継を行うNTTドコモの「ドローン中継局」。有線給電により長時間の飛行が可能だ。

アルプスアルパイン

 今回、国際ドローン展に初出展となった企業のひとつがアルプスアルパインだ。2019年1月にアルプス電気とアルパインが経営統合して誕生した会社で、電子部品事業とカーナビなどの車載情報機器事業が主な柱となっている。今回の出展は関西電力と共同で開発した送電線点検用ドローンと、非GNSS環境下での測位を可能とするRF測位モジュール、そしてドローンに使われているアルプスアルパインの電子部品の紹介だ。

 送電線点検用ドローンは、エンルートのQC730をベースに小型のLiDARを搭載し、GNSSに加えてLiDARが架空地線との距離を測定することで、架空地線と一定の距離を保ちながら飛行し、その状態を4Kカメラで撮影するというものだ。アルプスアルパインのうち元アルパインの車載情報機器部門はカーナビのためのGNSSやLiDARを使った自動運転技術を有しており、このドローンではこうした技術を組み合わせて活用することで、架空地線と一定の距離を保ちながら飛行するという高度な飛行を実現している。このドローンに加えて独自のフライトプラン作成ツールや基地局ソフトウエアと組み合わせて、ソリューションとして今後販売していくという。

送電線点検用ドローン「UAV-DS200」。機体下部中央のLiDARが架空地線との距離を正確に測定する。
RF測位モジュールは、基地局との距離と角度の測定が可能。測位精度は30cm程度といい、これをドローンに搭載して測位した情報を利用すれば、非GNSS下での飛行が可能となる。
ドローンに搭載されているアルプスアルパインの電子部品たち。安定飛行に欠かせない各種センサやコントローラーのスティックジンバルなどを手がけている。

西武建設

 長年にわたって構造物への補修材吹付けドローンを開発してきた西武建設は、この吹付けドローンの第4世代となるモデル「Sera(SCSD-004)」を出展していた。ゼンボットが製作した機体に独自に開発したドローン用吹付け装置を搭載。第3世代までは吹き付ける補修材を機体に搭載していたが、この第4世代のモデルでは機体から分離し、地上の補修材搭載車からホースで供給する方式とすることで、より長時間の作業を実現している。この第4世代モデルでひとつの完成形とし、今後一般に販売をしていくという。

第四世代となり市販レベルの完成度となった西武建設の構造物への補修材吹付けドローン「Sera」。補修材は地上の支援車のタンクに搭載し、電源とともにホースで機体に供給するスタイルとなった。

石川エナジーリサーチ

 熱エネルギー機器の研究開発を行なっている石川エナジーリサーチは、測量・撮影用と農薬散布用、そしてエンジンドローンの3機を展示していた。いずれもフレームにマグネシウム合金を使うことで軽量かつ高い剛性を有し、高いロバスト性を実現しているのが特徴だ。昨年の農業EXPOで公開した農薬散布用ドローン「アグリフライヤー」は農林水産航空協会の認定を受けており、3月から販売を開始している。また、今回は50分という長時間飛行が可能な測量・撮影用ドローン「ビルドフライヤー」の実機が公開されていた。

DJIのRONIN MXを搭載した形で展示されていた測量・撮影用ドローン「ビルドフライヤー」。5kgまでのフルロードで30分の飛行が可能。
今春から販売が始まった農業用ドローン「アグリフライヤー」。タンクを機体上面のキャノピー内に搭載する独特なレイアウトを採用している。
自社開発の350cc無振動エンジンを搭載するハイブリッドエンジンドローン「ハイブリッドフライヤー」。12kgまでのフルロードで約60分、最大で180分の飛行が可能だ。

タイプエス

 気象観測や河川などの水量観測機器の販売を手がけるタイプエスは、流量観測用と上空気象観測用のドローンを出展していた。流量観測用については以前の展示会で浮子を使って流量を観測するドローン「DFF
(Drone Flow type-Fushi)」を発表しているが、今回は電波を使って流量を計測するドローン「DFR」を展示。機体前方のレーダーで流速を計測し、あらかじめ測量しておいた河川の断面積から計算すると流量がわかるというもの。さらに、機体の高度から水位も計測できる。

自律制御システム研究所のPF1にドップラーレーダーを搭載した流量観測用ドローン「DFR」。

 また、以前から公開していた上空気象観測用ドローン「R-SWM(Realtime Sky Wether monitoring)」は、今回バージョン2として3つの安全機能を搭載。自動帰還機能に加えて、パラシュート(開発中)装備できるほか、ソフト上で飛行前に予期せぬトラブルでパラーシュートが展開した場合や墜落時の降下ポイントをシュミレートできるという。

同じくPF1に気象観測装置と送信機を搭載した「R-SWM」。

みるくる

 各種測量業務を行うほかYellowscanの製品を販売するなどしているみるくるは、ドイツのWINGCOPTER社のeVTOL機「WINGCOMTER 178」を展示。このeVTOL機は4つのローターの角度を変えることで、固定翼機でありながら、垂直離着が可能となっている。大きなメリットはそのペイロードで最大10Kgあり、大型のUAV用LiDARを搭載しての測量や、物資を輸送するといったことが期待されている。

独特の形状をした固定翼eVTOL機「WINGCOPTER 178。

東洋製罐

 今回の出展社のなかであまりドローン業界において馴染みがない企業が東洋製罐だ。同社はさまざまな飲料・食料用缶やプラスチック容器を製造しているが、そのひとつにエアゾール缶がある。この技術を生かしてドローン用に開発したエアゾール缶が「FaST(Flying-aerosol Service & Technology)」である。エアゾール缶を収容し、噴射材を発射する装置をドローンに取り付けて使用するもので、例えば洗浄剤でソーラーパネルの汚れを落としたり、コンクリートのひび割れに対して補修剤を噴射したり、果樹や果菜に対して横からピンポイントで農薬や肥料といった薬液を噴射するといったことが可能となる。

 エアゾール缶はドローン向けに二重構造のBOV(Bag-On-Valve)を採用し、どんな姿勢でも使用可能。さらに薬剤が袋状のパウチに入っているため、2液を反応させるような薬剤でも使用できるというメリットがある。

東洋製罐のドローン用エアゾールソリューション「FaST」。
エアゾール缶を発射装置に入れるだけなので、薬液の交換などでタンクを洗浄するといった手間がない。
コントローラーからの操作で勢いよく薬液が噴射される。
「FaST(Flying-aerosol ZZService & Technology)」

スカイリンクジャパン

 DJI製品の販売と同時に、自社で独自のドローンソリューション開発を手掛けるのは京都のスカイリンクジャパン(ワールドリンク&カンパニー)。会場の入り口付近に構えたブースでは農薬散布用ドローン「Agras MG-1」をはじめとしたDJI製品に加えて、さまざまな産業向けソリューションを展示していた。

 中でも「1.5億画素カメラによる精密画像診断」ソリューションは、DJIのMatrice 600 Proに、PhaseOne社の1.5億画素中判カメラ「iMX-RS150F」を搭載したもの。iMX-RS150FにSchneider Kreuznaha(シュナイダー・クロイツナッハ)製の150mm単焦点カメラを装着することにより、被写体から撮影距離20mの離隔でも分解能0.5mm/ピクセルを実現している。「当社で検証したところ、この分解能は視力1.5の人が対象物から距離3mの距離で近接目視する解像度に相当した」(説明員)という。

DJIの産業用ドローンMatrice 600 Proに、ジンバルRonin-MXを介してPhaseOneのiMX-RS150Fを搭載した精密画像診断ソリューション。
炎が上る稼働中のフレアスタック(石油化学プラントの余剰ガス焼却塔)は接近できないため、約20mの距離から塔体先端部を撮影。0.5mm/ピクセルの分解能があれば、ここまで拡大してもその状態をつぶさに観察することができる。