「まだまだ少ないレベル3運用を増やすには、制度を変える必要がある」

 今回の飛行でドローンが輸送する貨物は、彦根市から高島市に向けては離陸場所の提供でも協力している洋菓子メーカー・クラブハリエの名物であるバークーヘン、一方復路となる高島市から彦根市に向けては、滋賀ホンダ販売が自動車の登録事務手続きなどで陸運事務所に提出する書類であった。湖東の近江八幡市に本拠を置くたねやグループは湖西に店舗がなく、一方湖西地域に展開する滋賀ホンダ販売にとっては自動車の登録事務等を行う陸運事務所が湖東にしかないという課題を抱えており、湖東と湖西の行き来に琵琶湖をぐるりと迂回することなく必要な物資を届けられたら、という思いからこのプロジェクトに参加したという。

右からWorldLink & Company(SkyLink Japan)の須田信也代表取締役社長、たねやグループ社会部の小玉恵氏、滋賀ホンダ販売の丸本博代表取締役社長。

 実証実験はこうした地域課題の解消が目的のひとつであり、その一方で「地域の協力なくして実証実験は実現しなかった」と須田氏。事実、今回の実験を実現するにあたっては、航空法上の許可承認や電波法上の手続きだけでなく、琵琶湖で定期観光船などを運航する琵琶湖汽船や近江トラベル琵琶湖観光船オーミマリン、さらには琵琶湖の漁場を管理する滋賀県漁業協同組合連合会の協力を得ているほか、地元の滋賀銀行が中心となって関係各所との調整を行うなど、地域ぐるみでこの実証実験を成功させたともいえる。

 関係者向けのプレゼンテーションの中でSkyLink Japanの須田氏は、今回に限らずレベル3運用下での長距離物資輸送のような実証実験には、制度面での課題が多いと説明する。そのひとつは準備に時間がかかりすぎるということだ。2020年3月に徳島で行った実証実験では、2019年8月頃から準備をはじめ、国土交通省、総務省への各種申請と承認といった手続きを経て実現したといい、特に携帯電話ネットワークの上空利用に関する手続きについては、「当初1か月くらいといわれていたのが5か月もかかった」(須田氏)といい、実用化実験局として携帯電話会社から総務省への手続きが実証実験当事者から見えづらく、実験の日程が迫る中、関係者は気をもんだという。「航空法や電波法の承認に関する部分がブラックボックス化しているように見える」と須田氏は話す。

 また、航空法上の制度にも問題があると付け加える。「飛行情報共有システム(FISS)は、同じ時間帯に同じエリアでドクターヘリなどが飛ぶとなったらアラートがメールで届く仕組みになっているが、実際にオペレートしているパイロットやテレメトリー監視者はメールを見られず、アラートとして機能していないのが現状だ。このあたりは実際のオペレーションに即した仕組みにしてもらいたい」(須田氏)。

 さらに、「現場の人間は落とさない運用を目指しているが、国土交通省は墜落時の被害を最小限に抑えることを目的としている。我々は“安全を意識した運用”を考えており、国交省は“安心を意識した運用”を求めている。その結果、例えばVTOL機で河川を測量するような場合に、橋の上空を飛行できればVTOL機のよさが生かせるが、国土交通省は墜落しても被害が少ない橋の下を飛行するように求めてくる。VTOL機で橋の下をくぐるというのは難しく、結果としてVTOL機はソリューションとして成立しない。こうしたことを我々と一緒になって考えて欲しい」と須田氏は訴えた。

 2020年度にはレベル4(有人地帯での補助者なし目視外飛行)の実現を目標に、官民挙げて技術開発や制度整備が進んでいる。SkyLink Japanでもレベル4運用を見据えたなかでの今回の実証実験だという須田氏。北山という京都市街地の北端に本拠を構える同社では、京都市北部の山間部で機材の検証や実験などを行っているが、現在はレンズ1個を運ぶのにスタッフが1時間半かけて行き来しているといい、今後はこの北山と実験拠点をドローンで結びたいとしている。そのためには地上権などの問題もあり、官民挙げてこうした社会実装のための課題を洗い出し、解決していく必要があると須田氏は語った。