「2022年、衛星通信を利用して地表を測量するテラ・ラボ製ドローン」

 長距離無人航空機の研究開発を行うテラ・ラボは、2020年5月20日にオンライン記者発表会を開き、DRONE FUND、商工組合中央金庫等の金融機関から総額3億円を資金調達したことを発表した。

愛知県春日井市の本社から登壇したテラ・ラボ代表取締役 松浦孝英氏

 また、DRONE FUND 共同代表/パートナーの大前創希氏が、社外取締役に就任したことも明らかに。災害対応システムのみならず、無人航空機による航空測量の領域も視野に入れ、長距離固定翼ドローンのさらなる実用化・事業化に向けた新たなビジネス構築を共に目指すという、今後の方針が示された。

東京から登壇したDRONE FUND共同代表/パートナー大前創希氏

南海トラフ巨大地震を見据えて

 テラ・ラボ 松浦氏は冒頭、同社が2014年の創業以来、大規模災害時における長距離無人航空機利活用の研究開発を進めてきたことを説明した。「航空宇宙特区である愛知県をベースに機体開発や実証実験を行ってきたが、機体の大型化とともに滑走路や格納庫が必要になり、2019年より福島ロボットテストフィールドが段階的に開所したため、研究開発の拠点を福島県南相馬市へ移転した」(松浦氏)。

発表会では実用化予定の長距離固定翼ドローンと車両型地上支援システムもお披露目された

 また、令和元年度に採択した2つの事業を完遂したことも報告。1つは「福島県地域復興実用化開発等促進事業補助金」、もう1つは「愛知県新あいち創造研究開発補助金」だ。この補助事業では、今後30年以内に80%の確率で発生するといわれる南海トラフ巨大地震をはじめとした大規模災害発生時において、長距離無人航空機を用いた広域情報収集を可能とするシステム構築と社会実装を目指してきたという。

テラ・ラボがこれまで取り組んできた主な研究開発内容

 具体的には、衛星通信で制御可能な長距離無人航空機、空間情報のデータ収集・解析システム、および車両型などの地上支援システムを活用した大規模災害対策システムの研究開発だ。下記に詳しく説明する。

(1)衛星通信を活用した長距離無人航空機

翼長4m固定翼型長距離無人航空機

 超小型グローバル衛星通信モジュール、衛星通信を活用して長距離無人航空機を制御するフライトコントローラー、機体の周辺情報を把握するための高圧縮高復元映像伝送装置やジンバル付きカメラなどを搭載した、衛星通信で制御可能な長距離無人航空機の研究開発を手がけてきた。

 翼長4mモデルは、高度1,000〜2,000m・航続時間5h・航続速度60〜100m/hで飛行する航空測量専用機として設計。翼長8mモデルは、高度10,000〜20,000m・航続時間10h・航続速度100km/hで飛行する高高度・広域観測専用機として設計した。機体はコンポジット成型で翼荷重を軽減、短い滑走での離陸や過酷な環境での飛行を可能にしたという。

翼長4m固定翼試作機の初飛行の試験模様

(2)空間情報データの収集・解析システム

超高解像度カメラの撮影により、高密度な3次元空間情報データ解析を行う

 空間情報データの収集と解析システムでは、SfM(Structure from Motion)という三次元形状復元技術を用いた。これは航空測量分野で広く活用されている技術で、三次元幾何(Structure)とカメラ姿勢変化(Motion)を同時に算出して、三次元空間情報データを構築する。これにより、災害状況をワークステーションで再現することなどができ、災害対応に役立てられる。

(3)地上支援システム

拠点型地上支援システムのイメージ
車両型地上支援システムのイメージ

 無人航空機から取得したデータを速やかに解析する地上支援システムでは、拠点型と車両型の2種類の開発を行っている。

 拠点型は滑走路に併設し、複数の長距離無人航空機の運航を同時に行うことができる管制機能を備える予定だ。有人航空機の管制情報や気象観測情報など、周辺情報を収集して運航に役立てる。

拠点型地上支援システムのイメージ

 車両型は、大規模な発電機能や航空レーダーを装備し、飛行エリア近隣の航空管制を行う。車内のワークステーションでは、空間情報の解析や、解析データを衛星通信や携帯電話通信網を経由しクラウド共有できるシステムだという。

 「いま、福島ロボットテストフィールドでは、東日本大震災の津波の被害情報と照らし合わせて、長距離無人航空機から得られる情報共有の運用についての検討を進めている。また、東日本大震災の経験を生かして、南海トラフ大震災が発生した時に、長距離無人航空機がどのように活用されたらいいかという計画も進めている。」(松浦氏)

 災害対応システム実装への、ロードマップはこうだ。2020年度中に運用面の検討を終え、2021年度にFAA(米国連邦航空局)耐空証明取得、2022年度に社会実装を目指す。広域多拠点の地上支援システムを配備するため、用地確保や検査にも着手しているそうだ。