Liberawareは2月4日、千葉市のトライアル発注認定事業のひとつとして、市内の水路管渠を同社の設備点検用小型ドローン「IBIS」を使って行う点検作業を報道陣に公開した。

下水道の調査困難箇所のドローン点検に期待が寄せられる

 千葉市に本拠を置く同社は、2019年に主に設備点検用途のための小型ドローン「IBIS」を発表。このドローンは20cm弱四方のプロペラガードを兼ねたフレームが回路基板と一体化されていて、バッテリーを含む重量もわずか170gと非常にコンパクトなクワッドコプターだ。防塵性の高い専用モーター、高効率の専用プロペラ、カートリッジ式の専用バッテリーなど、ハードウエアのほとんどを自社開発。狭小空間で自らが巻き起こすダウンウォッシュの影響を受けにくいことのほか、対象物に接触しても姿勢を乱さないといった機体制御技術により、狭い屋内空間でも安定した飛行ができる。
 さらにIBISは複数のレーザーセンサーを搭載し、SLAMによるGPSに頼らない飛行が可能。Liberawareではすでに2019年頃からおもにプラントの煙突やボイラーの点検といった用途で実証実験を重ねており、今回はそんなIBISの利用分野の幅を広げる取り組みのひとつだ。

Liberawareの設備点検用小型ドローン「IBIS」。

 今回の実証実験は千葉市が、同市内にある中小企業の優れた製品やサービスを支援する目的で8社のサービスや商品を選定し、積極的にPRを行うというトライアル発注事業の一環。そのひとつとしてLiberawareのIBISが選ばれ、千葉市の下水道点検で試験的に活用するというものだ。千葉市の下水管の総延長は、雨水と下水あわせて約3,700kmにものぼる。このうち直径80cmより細い管には自走式のカメラを走らせて点検を行う一方、直径80cm以上の管については人が入って点検を行っている。
 しかし、管内の水の流れが速い、水位が高いといった水の制御が難しい個所や、有毒ガスが発生しているといった、“調査困難箇所”があることが課題となっている。また、管路によっては高さが5mにも及ぶ場所があり、こうした場所には足場を設置して点検を行うが、作業員の転落といった危険性が付きまとう。そこで、こうした調査困難箇所にドローンを活用する試みとして、今回の実証実験が行われることとなった。

千葉市の取り組みについて話す、西川勝 千葉市建設局下水道管理部 下水道維持課長

従来工法で1時間かかる40mの管渠を1分の飛行で撮影する

 この日実証実験が行われたのは、千葉市花見川区の県道の下を通る水路の一部で全長約40mの管渠。この管渠の中にドローンを飛行させて管の継ぎ目の状態や、コンクリートのひび割れ、はく離といった異常を点検するというものだ。点検作業は管渠の片側に拠点を設置し、そこからIBISのカメラが撮影した映像を操縦者がモニターで見ながら操縦。管路を反対側まで飛行させて撮影を行う。
 操縦は管渠より高い道路と同じ高さから行うため、そのままではコントローラー・モニターと機体間の電波が届きにくい。そこで今回は管口に延長アンテナを設置。機体操縦用の2.4GHz帯と、機体のカメラが撮影した映像を伝送する5.7GHz帯の電波を、この延長アンテナから送受信することで、電波の途絶や減衰を防止。この延長アンテナの利用は、管渠に水が流れていたりするなどして、管口に操縦者が立つことが危険な場合にも有効だという。

今回の実証実験が行われた、県道下の水路管渠。管口付近には雑草や樹木が生い茂り、人の立ち入りが難しい状況となっていた。
操縦は5.7GHz帯の電波で送られてくる機体前面のカメラが撮影した映像を見ながら行う。
直径約1mの管渠に向かって進入するIBIS。

 点検は管渠の片方の管口から離陸して管内を通り抜け、反対側の管口からいったん外に出て転回し、再び離陸した管口まで戻ってくるというもの。直径約1mの管渠の中を飛行するIBISは多少のふらつきはあるものの、ほぼ真っ直ぐ反対側の管口に向かって飛んでいく。一般的なドローンを同じ環境で飛行させた場合は、自機が巻き起こす風によってかなり乱れてしまう。「ドローンは空を飛ぶことが前提のもので、狭い所に入ると壁に吸い寄せられてしまう。IBISには吸い寄せられにくい制御が入っている」(北川氏)という。
 飛行から戻ってきたIBISから映像データをパソコンに取り出し、後日、動画から3Dモデル生成して詳細な確認を行う。また、現場でもその場で千葉市建設局の職員が確認し、途中問題があった場所については再度飛行して、問題個所でIBISをホバリングさせて確認する。こうしたリアルタイムな作業性もIBISによる点検のメリットだという。
 今回の全長約40mの管渠におけるドローンの飛行はわずか1分弱。同じ管渠を従来の人が入って点検する手法の場合、およそ1時間かかるという。もちろん、ドローンによる点検の場合は、撮影した画像を後で専門家が見て劣化を判断することになるため、単に1時間の作業時間が1分になると比較はできない。しかし「人による点検は局所で見ているが、ドローンによる点検は管渠全体をとおして画像で残るため、点検を重ねることで経年変化を見ることもできる」(西川氏)という。

その場で映像を見てその場でさらに細かく見たい場所を指示して、再度その箇所だけの撮影を行うこともある。

IBISは“狭くて、暗くて、汚いところの専用ドローン”

 日本の下水道管路は、設置から50年を経過したものが総延長の4%の約1.9万km(2018年度末)を超え、2028年には6.9万km(14%)、2038年には16万km(33%)にものぼり、今後、定期的な保守・点検が急務となっている。そのため2015年には下水道法にもとづく維持修繕基準が策定され、とくに硫化水素による腐食のおそれの大きい箇所については、5年に1回以上の頻度で点検が義務付けられている。
 下水管路の点検には管口カメラをマンホールから差し入れて調査を行う簡易調査に加えて、自走式カメラを管路内に走らせて、傷や穴などを調査する詳細調査がある。自走式カメラでは日進量が300m程度で、一回の点検に必要な作業者も4〜5名が必要となるなど、省力化、省人化が課題となっている。こうした課題に対する新しい技術のひとつとして期待されているのが、このIBISのような非GPS空間・狭所が飛行可能なドローンだ。

 最近ではこうした屋内・狭所のドローン点検サービスへのニーズが高まっており、IBISのような小型ドローンよりもさらに小さい“マイクロドローン”を利用したサービスもリリースされている。「IBISは屋内に特化したフライトコントローラーの飛行制御だけでなく、飛行時間が最大約12分とマイクロドローンの約2〜5分に比べて長く、点検できる範囲や作業方法が幅広いのがメリット」(北川氏)だという。また、IBISは機体を販売するのではなくレンタルとなっていて、機体の改良・進化にあわせて常に最新のモデルを利用することができる。「IBISは“狭くて、暗くて、汚いところの専用ドローン”。煙突や配管、ボイラーの中といった人が入れない、入るとお金がかかるような場所で使っていただきたい」と北川氏は説明する。

IBISの特徴について説明するLiberaware事業戦略室の北川祐介氏。
IBISによる水路管渠内点検の様子。