7月24日から26日の3日間、東京都港区の東京ビッグサイトで「メンテナンス・レジリエンスTOKYO 2019」が開催された。この展示会は製造業や建設業の生産性向上、持続可能な社会資本整備、レジリエンス(回復力)向上をテーマにした総合展示会で、複数あるテーマ別展示会の中でも「プラントメンテナンスショー」と「インフラ検査・維持管理展」では、ドローンを使ったソリューションやサービスが多数出展されていた。

リベラウェア

 SLAMを搭載した小型ドローンを開発してきたリベラウェアは、「設備点検・空間計測サービス」と「設備監視自動化サービス」を出展していた。同社は2016年に創業したスタートアップで、かねてから超小型ドローン「IBIS」を開発。このドローンはフライトコントローラーやESCといった回路をプリントしたフレームに、高精度の防塵モーターやカートリッジ式のバッテリーモジュールを搭載するという設計が独創的。SLAMによる自律航行機能や、自機の起こす気流で機体姿勢を乱さないロバスト性を備えることにより、非GNSS空間である屋内を安定した飛行ができる。そのため、プラントの設備や洞道といった狭い空間での点検を可能としている。

リベラウェアの小型ドローン「IBIS」。プロペラガードを兼ねた黄色いフレームに、直接電子部品を実装し、バッテリーを含む重量はわずか170g。

 リベラウェアではこの機体を目視やFPVで飛行させて対象物を撮影。そのデータを同社のクラウドサービスにアップロードすることで、映像のパノラマ化や点群化、3D化といった加工を行い、報告書作成までをワンストップで提供するとしている。同社ではこうした「点検サービスプラン」「画像編集・加工サービス」と同時に、「IBIS導入プラン」として機体2機とクラウドサービス、操縦講習会をパッケージにしたレンタルプランも用意している。

定額会員制レンタルプランの「IBIS導入プラン」では、2機のIBISとバッテリー、充電器などがすべてパッケージ化されている。

 また、このIBISを使った「設備監視自動化サービス」もリリース。点検・計測サービスが、オペレーターの操縦によって実施されるのに対して、このサービスはIBISを自動巡回させて、施設や設備の定期巡回を行うというもの。サービスにはドローン運用監視システムや自動充電装置などを含んだ形での提供となる予定だ。

デンソー

 2016年から橋梁点検用ドローンの開発に取り組んできたデンソーは、今年3月に道路橋定期点検要領が改定され、目視の代替技術としてドローンの利用が認められたことを受けて、2019年秋からドローンによる橋梁点検サービスを事業化するとアナウンスしていた。

デンソーの橋梁点検用ドローン「XDC02」。6つのローターブレードは可変ピッチを採用している。
XDC02のテレメトリー端末。パナソニック製のWindowsタブレットで、デンソーオリジナルのソフトウェアにより機体の状態を把握できる。

 このサービスはデンソーが開発した橋梁点検用ドローン「XDC02」を使い、コンクリート製橋脚や橋桁下面を撮影し、0.1mm以上のひびを検出するというもの。デンソーがクルマの自動運転などで培ってきたAIによる画像認識技術により、撮影した画像から乾燥ひび、漏水ひび、錆しるひびなど4種類のひびを検出。画像上にチョーキングやコメントを付けることも可能で、最終的に点検調書作成をサポートするというものだ。

 デンソーの橋梁点検用ドローン「XDC02」は、6つのローターブレードが可変ピッチとなっているのが特徴で、制御に対する非常に応答性がよく、橋梁付近の複雑な風の中でも安定した飛行が可能。また、橋桁直下のようなGNSSの電波が入りにくい環境でも、機体に取り付けたプリズムを地上のTS(トータルステーション)が追尾して、強風下でも極めて精緻な位置制御ができるのも大きな特徴となっている。また、今回の展示会では表面が平らな橋脚や床板を撮影するジンバルカメラ搭載機とは別に、トラスや鈑桁といった狭隘部を点検するための、360度カメラを搭載した開発中の機体も展示していた。

XDC02をベースに機体上部に360度カメラを搭載した開発中のドローン。
360度カメラはリコーのTHETA V。カメラを鈑桁やトラスの間に差し込むようにして撮影する。

ジャパン・インフラ・ウェイマーク

 今年3月のJapan Drone 2019で本格的にドローンによる点検サービスの事業展開を発表したジャパン・インフラ・ウェイマーク。Japan Drone 2019では鉄塔、橋梁、法面という3分野のサービスをリリースしていたが、今回は新たに風力発電、太陽光パネル、送配電設備という3つのサービスを公開した。また、本展示会に先立ってリリースしていた、レーザー測量サービスと、点検・測量ソリューションである「Waymark Mapper 4D」もプレゼンテーションを行い、総合的なドローン点検ソリューション事業者としての位置づけを印象づけていた。

ブースでは橋梁、鉄塔、法面に加えて、新たに風力発電、太陽光パネルの点検サービスを紹介していた。
ACSLと共同開発した鉄塔点検専用ドローン「Waymark T-01」。ビジュアルSLAMによって自律飛行が可能となっている。
橋桁の下部など狭隘部の点検用として採用したというリベラウェアの「IBIS」。

NJS

 上下水道インフラのコンサルティング大手NJSは、独自に開発した管路点検用ドローン「AirSlider AS400」を展示。これまで自律制御システム研究所と開発を進めてきたAirSliderは、直径400mm以上の下水管路の中を、自身のダウンウォッシュで浮く形で飛行して、管路内部の状態をカメラで撮影する。狭い管路の中でも自身のダウンウォッシュで姿勢が乱れないようにする技術を確立しており、今年度から本格的に管路点検事業者に提供を始めるという。

管路点検用ドローンAirSlider AS400を改良した水力発電所鉄管点検用ドローン。
機体後部には傾斜した管路の底部に接地させて機体を安定させる「テール」を装備している。

 また、このAS400を応用する形で、水力発電所の鉄管の点検を行うために試作機も公開。NJSは5月に関西電力、環境総合テクノスと、水力発電所鉄管の点検事業参入のための業務提携を締結している。3社はすでに関西電力が管理する矢田川水力発電所や岩田水力発電所の余水管の内部を、AirSliderで撮影する実験を実施。機体後部に傾斜飛行用のテールを付けることにより、勾配の付いた管路でも安定して飛行できることを確認している。同社では今後、下水管路だけでなくこうしたそのほかの管路の点検にもAirSliderを活用していく考えだ。

山九

 プラント・エンジニアリングを手がける物流大手の山九は、プラントを所有、稼働させている事業者と、ドローン点検事業者を結びつける「ドローン活用サービス」を紹介していた。同社はこれまでに数多くのプラントの設計から建設、メンテナンスを手掛けてきており、プラント事業者のメンテナンスに関するニーズを把握している。そこでこの知見を生かして、どのようなドローンを使って、どのように点検を行うか、という、ドローン点検のサービスプロバイダーとして総合的なコンサルティングを行うとしている。

山九のブースに展示していたオランダ製の超音波測定が可能なドローン。

 その柱として「機体開発」「人財育成」「業務代行」を掲げる山九。ドローンは顧客のプラントに最適な形にカスタマイズを行い、そのプラントや検査の知識を身に着けたオペレーターを育成することで、ひとつひとつ異なるプラントの環境に合わせた飛行と点検作業を実現する。オペレーターについては「ドローンスクールを卒業するだけの技能や知識だけでなく、プラントや検査の知識まで習得した人材」を育成。さらに、技能や知識に応じたグレードを設け、それぞれのプラントに最適なカスタマイズドローンと、最適なグレードのオペレーターを現場に派遣するとしている。

「日本では点検分野でもドローンありきで話を進めようとしているが、プラントの点検では顧客が求めているニーズによって機体も違えば、作業方法、オペレーションの技術も異なる。顧客のニーズを的確に捉える一方で、機体開発や人材育成などドローン側のこともしっかり把握しているのが山九の強み」(説明員)だという。

ブルーイノベーション

 JFEプラントエンジのブース内にドローンの飛行ブースを設けてデモンストレーションを行っていたのはブルーイノベーション。同社ではスイスFlyability社の点検用ドローン「ELIOS」を、「BIインスペクター ELIOS」としてサービスの形で1年以上提供している。すでに電力・製鉄プラントのボイラーや煙突、地下ピット、船舶のバラストタンクなどで点検サービスを行ってきた。

約1m四方の透明な箱の中で安定した飛行を見せるFlyability社のELIOS。

 2019年度はこのサービスの普及を図るべく、ソリューションの販売だけでなく、点検サービスを実施する「エバンジェリスト」を養成。ELIOSを使った点検作業に関するカリキュラムを作成し、有償で研修を行い、試験に合格したオペレーターをエバンジェリストとして認定する。このエバンジェリストはELIOSのソリューションを導入してサービスを提供するほか、ブルーイノベーションから委託を受ける形で作業を実施するという。

スカイリンクジャパン

 DJI製品や高画質カメラPhaseOneなど、ドローンを中心に産業ソリューションの販売を手掛けるスカイリンクジャパンのブース。1億画素、1.5億画素のカメラを使い稼働中のフレアスタックを撮影した映像を紹介していたほか、日本製ドローンに対するニーズに応える形で、自律制御システム研究所(ACSL)製のドローンを出展。ブースの担当者によると「プラント業界を中心に日本製ドローンへの関心が高い」(説明員)という。

スカイリンクジャパンのブースに展示されていたACSLの点検用ドローン「Mini」(右)と、次世代のプラットフォーム「ACSL-PF2」(左)。PF2はメインフレームをカーボンモノコックとすることでネジ類による固定を極力減らし、整備性を向上させている。

 また、スカイリンクジャパンはアメリカのAirdata UAVと業務提携を結んでいる。ブースではこのAirdata UAV社の「ドローン・フライトログプラットフォーム」を披露していた。Airdata UAV社は2015年にHealthyDronesとして創業し、フライトログプラットフォームとして世界最大のシェアを誇る。スカイリンクジャパンでは日本において同社のドローン・フライトログプラットフォームの法人向けアカウントの販売を行い、今後はエンタープライズ向けのサービスを拡大するとしている。

Windows PCで利用できるAirdata UAVのアプリケーション。DJIのフライトアプリ「DJI GO4」や「DJI Pilot」からログデータを抽出し、飛行時の気象状況やバッテリーコンディションといった、純正アプリでは見られない形のデータを可視化する。
自動航行のルートの表示はもちろんのこと、ルート上における風向風速やバッテリーコンディションなども視覚的に確認できる。
飛行ログは国交省の飛行許可・承認の報告などに利用できるPDFの形で出力することも可能だ。

西日本高速道路エンジニアリング中国

 NEXCO西日本エリアの高速道路のメンテナンスを行っている西日本高速道路エンジニアリング中国では、路盤の地中を貫通する形で排水路などを構築しているコルゲートカルバートの点検を行う遠隔操縦ロボットを展示していた。
 直径1m以上の管を対象としており、車体先端の360度カメラで管内側の映像を撮影すると同時に、車体後部のレーザースキャナで表面の計測を行い、点群処理することでカラーの3Dモデルを生成することができる。機体の制御はWi-Fiで遠隔操縦を行うことになっている。

西日本高速道路エンジニアリング中国のコルゲートカルバート点検ロボット。左のステーの先に360度カメラを搭載し、写真右側の車体後部に付いたステーの先には、FPVで操縦するためのカメラが付いている。
車体前部に付いた360度カメラ(左)と、車体後部のレーザースキャナ(右)で、3Dモデルを作成できる。