左:東京電力パワーグリッド株式会社 工務部 送電グループ 技術第二チームリーダー 山本顕正氏
右:Automagi株式会社 取締役COO 清水孝治氏

 首都圏に電力を供給する東京電力パワーグリッドは、日本の電力供給量の約1/3を担っている。高品質な電気を安定的に供給するために、同社は約45,000基の送電鉄塔を定期的に点検し保守している。その作業量は、年間で約1,200基に及ぶ。同社では、送電鉄塔の劣化を診断する業務の効率化と、より安全で正確な判断を実現するために、AutomagiのAIソリューションの「AMY(エイミー)」とドローンによる業務革新に取り組んでいる。

ヒトの目視による劣化診断の限界

 東京電力パワーグリッドが保守・管理している首都圏の送電鉄塔は約45,000基。同社の工務部 送電グループ 技術第二チームリーダーの山本顕正氏は、その課題について次のように説明する。「送電鉄塔の約8割が、建築から30年以上を経過しています。そのため、年間に約1,200基の劣化状況をベテラン社員が検査してきました。点検するためには、鉄塔に登らなければならず、亜鉛メッキにサビがないかを目視でチェックする必要がありました。しかし、目視では、5段階で分類するサビの判断にも個人差があり、保守計画を作成する上で、より正確なデータの収集が求められていました。加えて、点検員が鉄塔に登るリスクの軽減や作業時間の短縮も課題となっていました」

 そこで、山本氏の所属する技術第二チームでは、空撮性能に優れたドローンと画像解析に長けたAIを組み合わせることで、インフラ診断の効率化と高精度化を実現できるのではないかと考えた。

4社に絞られたAIソリューションの中から高精度で検知したAMYを選択

 AIソリューションの選定にあたり、山本氏は「国内にある数多くのAIから、送電鉄塔の劣化診断に適したソリューションを選ぶために、事前の調査も実施して最終的に4社でのコンペを行いました。4社に実際の送電鉄塔の画像データを提供して、AIによるサビの検知率を評価しました。その結果、AutomagiのAMY(エイミー)が、高い検知率を示しました」と説明する。

 AutomagiのAMYは、最新のDeep Learning(深層学習)手法を用いた画像や動画解析エンジンを構築している。Automagiの取締役COOの清水孝治氏は、その性能について次のように説明する。

「当社は、対象となる業務の目的や検知する対象物などに合わせて利用が可能なインフラ診断AIサービス『AMY InfraChecker』を提供しています。サビ診断AIもそのサービスのひとつで、独自に収集した大量の画像データを最新のAIエンジンで学習させ、他社と比較しても非常に高い精度を実現しています」

 AMYによるサビの自動検知では、カメラで撮影した映像から、サビの領域ごとに細かい腐食の度合いも判定し数値化ができる。山本氏は「AMYによるAIソリューションを導入することで、目視の診断作業にかかる工数を削減し、サビへの対応が必要な送電鉄塔の特定を高い精度で行えると判断しました」と選定の理由を振り返る。

ドローンによる鉄塔撮影を組み合わせて80%の作業削減を期待

 AMYによる画像診断と合わせて、山本氏のチームはドローンを活用した送電鉄塔の撮影にも取り組んできた。山本氏は「これまで専門の技術者が登って目視で行っていた劣化診断の作業が、ドローンで撮影できるようになると、1基あたり80%の作業時間を削減できます」と話す。劣化診断に利用するドローンは、送電鉄塔の4面を順番に飛行して静止画を撮影する。実際に登って目視で点検する作業と比較して、点検員の安全も確保されると同時に、点検にかかる時間も大幅に削減される。それに加えて、ドローンとAIを活用した劣化診断には、新しい導入効果も期待されている。その効果について山本氏は「これまでヒトによる劣化診断では5段階の評価しかできませんでしたが、AMYはサビの状態を詳細にスコア化できます。客観的で定量的な診断結果が得られるので、防サビ塗装などの保守計画も的確に策定できるようになります」と説明する。

東京電力パワーグリッド株式会社 工務部 送電グループ 技術第二チームリーダー 山本顕正氏

ドローンの自動飛行と塗装された鉄塔の劣化診断を目指す

「今後の目標は、ドローンの自動飛行です」と山本氏は展望を述べる。ドローンが自律的に飛行して、送電鉄塔の4面を全自動で撮影できるようになれば、誰でも柔軟に劣化診断の業務を担当できるようになる。ドローンによる自動化の実現は、ベテラン作業員が定年退職などで現場を去っても、これまで以上に的確なインフラ点検の継続につながる。

 また、AMYのAI活用について山本氏は「Automagiには、当社からのリクエスト以上の提案と、新たに開発した特許技術(*)により、劣化診断の省人化を実現してもらいました。今後は、亜鉛メッキされた鉄塔のサビ検知だけではなく、防サビ塗装が施された鉄塔でも劣化診断ができるよう技術開発を推進できればと考えています」と期待している。

 Automagiの清水氏も「鉄塔点検では、AMYをサビだけでなく、鳥の巣、飛来物、ボルトの抜けなどにも対応していきたいと思います。さらに、電力会社だけでなく、携帯電話会社や鉄道会社、製造業、プラントエンジニアリングなど設備を持つ会社にも引き合いが多いので、より多くのインフラ点検にAMYによるAI活用を提案できればと願っています」と抱負を語る。

Automagi株式会社 取締役COO 清水孝治氏

* 構造物の2次元の面積に対して劣化の割合や度合いを総合スコアとして算出するロジック

AIソリューション「AMY InfraChecker」(エイミー インフラチェッカー)
https://www.amy-ai.com/insight/amy-infrachecker

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