12月26日、第2回かながわドローン前提社会ネットワーキングがワークピア横浜(横浜市中区)で開催された。内閣官房小型無人機等対策推進室参事官 長崎敏志氏をはじめ、神奈川県政策局未来創生課、ドローンを活用した災害対策の取り組み事例として5社が登壇した。
かながわドローン前提社会ネットワーキングとは、ドローンが世の中で当たり前に利活用される社会の実現に向けた、神奈川県あげてのプロジェクトだ。2019年6月に新設された政策局未来創生課が旗振り役となり、第1回目は9月2日に開催された。今回は、第2弾となる県内におけるモデル事業採択を経て、「災害」に焦点をあててドローン活用の取組事例が共有された。
▼かながわドローン前提社会とは
https://drone-journal.impress.co.jp/docs/special/1182770.html
「ドローン共生社会」を実現したい
冒頭に登壇した内閣官房小型無人機等対策推進室参事官 長崎敏志氏は、「空の産業革命に向けた国の取組について」と題し講演を行った。「聞き飽きた人もいるかも」と聴講者の笑いを誘いつつ、「ドローン共生社会を実現したい、という想いも込めて話した」と語る。
なぜ、内閣官房にドローン室があるのか。それは2015年4月、首相官邸屋上へのドローン落下を機に、日本国内におけるドローンの認知度が上がり、ルール策定が始まったためだ。
2019年11月9日に起きた、関西国際空港でドローンの不正飛行により航空機の離着陸が停止に追い込まれた事件も例に挙げて、「よく分からないもの」から「有用なもの」へと、ドローンに対するイメージを変えたいと話した。2018年には、全国5地域(※)で、国の補助金を受けてドローン物流検証実験が行われているが、来年もドローンとの共生に向け、実証実験の予算を確保したと発表した。
※岡山県和気町(株式会社Future Dimension Drone Institute)、長野県白馬村(株式会社白馬館)、福島県南相馬市・浪江町(株式会社自立システム研究所)、埼玉県秩父市(楽天株式会社)、福岡県福岡市(ANAホールディングス)の5地域。( )は代表事業者。
また長崎氏は、2019年7月に東京湾の猿島で楽天と西友が行なった、一般利用者へのドローン商品配送サービスを視察した際のエピソードも紹介。この現場で、ドローン共生社会へのヒントを得たようだ。
「視察前日、こっそりアプリからアイスクリームの配送を注文しようとしたが、口コミで注文が殺到しており予約できなかった(笑)。現場では、ドローンが肉や氷を運んで来ると歓声が上がる。利用客は、ドローン配送自体をリクリエーションとして楽しんでいた。」(長崎氏)
いま国は、4つの環境整備に取り組んでいる。今年度中に、下記4つの制度設計の基本方針を固める予定だ。「誰がどんなドローンを飛ばしても全くの無規制」という、現状の改善を急ぐ。
(1) 所有者情報の把握(登録制度の導入)
(2) 機体の安全性(安全基準策定、認証制度の導入)
(3) 操縦者管理(操縦者の知識・技能の確保など)
(4) 運航管理(他の飛行体との接触防止など)
なかでも早期創設されるのは、ドローン登録制の導入。車でいえば、ナンバープレートの役割だ。車はほとんどの場合、ディーラーが登録手続きを代行するが、ドローンは家電量販店やネットでも購入可能。ドローン購入時に登録番号が付与され、購入者はオンライン申請で機体情報や所有者・使用者情報を登録し、機体に登録番号を物理的に貼り付けられる運用を目指す。
「登録制は、次期通常国会に法案を提出し、資格制度や安全基準に先立って、速やかに施行する予定。リモートIDで、遠方で飛行中のドローンも電子的に認識できるようにすることも検討中。製造会社との調整も必要になるし、オンライン申請システムを組んだ上で施行する。もちろん、すでにある機体も対象となる。」(長崎氏)
機体の安全性は、車でいえば車検。落ちにくい、プロペラが一部破損しても即時墜落しない、制御不能にならない、耐風性があるなどの安全基準を策定予定だ。操縦者管理は、車でいえば運転免許。誰が飛行しどんな技能を持っているのか、ドローンの活用用途が広がれば求められる技能や責任も広がるがそれに対応する。運航管理は、飛行機における管制の役割。ドローンが有人地帯を飛行するようになれば、航空機やヘリコプターなど他の飛行隊との接触防止や高層ビルへの衝突を回避するよう監視・指示する役割が必要になるがこれを見据える。
「平時に使っていないものは、有事の際にも使えない」
国のこうした動きがあるなか、神奈川県では県内の「ドローン前提社会」を推進するべく、ドローンのモデル事業を11月に7件、12月に12件採択した。目指すのは、高齢化や人手不足など社会課題をICTで解決することだけではない。「ドローンという新たなテクノロジーは楽しい」と感じながらモチベーティブに若年層や技術人材が育つ環境整備、産業クラスター形成を視野に入れ、6月に新設された未来創生課が旗振り役となり取り組んでいる。
点検、災害、観光、農業、物流など、ドローンを活用した様々なモデル事業が採択されているが、第2回かながわドローン前提社会ネットワーキングでは、「災害」に焦点をあててドローン活用の取組事例が共有された。台風15号、19号では、川崎市や相模原市をはじめ、水害や土砂崩れで多くの県民が被災した。
事例企業としては、株式会社エムテックス、特定非営利活動法人クライシスマッパーズ・ジャパン、株式会社センシンロボティクス、一般社団法人日本ドローン防災協議会、株式会社ロボデックスの5社が登壇。
赤外線カメラ搭載や災害MAP作成(エムテックス)、愛媛県で伊方原子力発電所被災時の避難経路確認用ドローンの導入実績を持つプロダクト(センシンロボティクス)
、200g未満のトイドローンや対象物に接近して映像をリアルタイムに伝送し確認できるFPVマイクロドローンを組み合わせた災害訓練(日本ドローン防災協議会)、ガソリン発電ユニットの搭載で長時間飛行を可能にする製品(ロボデックス)など、紹介されたソリューションは様々だ。
しかし今回のネットワーキングで、とりわけ聴講者に深い印象を与えたのは、クライシスマッパーズ・ジャパンを代表して登壇した南政樹氏による「平時に使っていないものは、有事の際には使えない」という提言ではないだろうか。
「ドローン屯田兵という言葉を、災害時にUAVを活用する方法として提唱したい。有事の際には、情報が錯綜してしまうため、役所はどうしても機能不全を免れない。普段から、県庁や行政の方々も含めみんなでドローンを使い、有事の際にはまず自助、共助、そして最終的に公助に頼るということを考えていきたい。」(南氏)
設備点検を重点領域として取り組んでいるというセンシンロボティクスの高橋和也氏も、「ドローン導入には、維持コストもかかる。平時はインフラなど設備点検で活用しつつ、有事の際には災害対策として使うのがよい」と賛同した。
かながわドローン前提社会ネットワーキング第3回は、2020年3月19日開催予定。次回は、実際に現場を訪れて開催したいとのこと。都会も田舎も合わせ持つ「日本の縮図」神奈川県から、実証から実用へのヒントが今後も多く生まれることに期待したい。