総合人材サービスのパーソルグループでIT・ものづくりエンジニアの人材派遣を手掛けるパーソルテクノロジースタッフは、都内で「ドローンとその活用事例から見るこれからの社会」と題したセミナーを開催した。同セミナーは、ドローンを通したIoT・ビジネス検討セミナーで、今回が5回目の開催となった。

スマート社会「Society5.0」の実現に向けてドローンとIoTができること

 デジタル化が進んだスマート社会「Society5.0」の実現に向けて、IoTを始めとした様々な知識や情報を取得して利用するテクノロジーが注目を集めている。セミナーでは、最新テクノロジーの代表例としてドローンを取り上げ、農業・建設・点検分野の具体的な事例から、ドローンを通じて今後実現されていくIoT社会が紹介された。そんな「ドローンとその活用事例から見るこれからの社会」セミナーには、中国DJIの日本法人の子会社であるdo株式会社の代表取締役社長 高原 正嗣 氏が登壇し、次の3つのセッションを展開した。

・Session1:ドローンを取り巻く環境
・Session2:ドローンが発揮する価値
・Session3:産業別ドローン活用例から見る未来社会

 まず、Session1:ドローンを取り巻く環境では、関連する法律や機体の種類など基本的な知識が紹介された。ドローンに関連する法律では、国内法だけでも航空法や小型無人機等飛行禁止法に、電波法や道路交通法、さらには個人情報保護法など何種類かの関連する法律や条例がある現状が解説された。そして、ドローンの安全な飛行にあたって、高原氏は次の6つの資質を指摘する。

1. 人命の尊重
2. 法律・運用ガイドラインを守る
3.「思いやり」と「譲り合い」の心を持つ
4.「かもしれない」を心がける
5. マルチコプターの特性を把握する
6. 操縦者としての「社会的責任」を果たす

 続いて、ゴールドマン・サックスの資料をもとに、世界のドローン市場が2020年に約11兆円に上るとの予測を示し、建設や農業に保険などでの成長性を紹介した。国内ドローン市場では、インプレス総合研究所の資料をもとに、2024年に3,711億円に拡大すると説明した。

 高原氏は「産業用のドローンソリューションを構成する要素は、機体とソフトウェアに教育と搭載機器、そしてサービスの5つになります」と話す。この中で、ソフトウェアに関しては「ドローンの制御」と「データ解析ソフト」の2種類が重要だとも指摘する。5つの要素で構成される産業用ドローンが活躍する分野を高原氏は2つのカテゴリに分類する。まず、従来の作業を置き換えることで高いコストパフォーマンスを発揮する分野として、土木測量と点検に農業がある。そして、新しい価値を作り出す分野として、災害対応と調査だという。

産業別の活用事例を紹介

 高原氏は、ドローンが発揮する価値について、参加者に具体的なイメージを把握してもらうために、国内で成功しているいくつかの事例を紹介した。まず、点検の分野では中部電力による設備点検の事例が取り上げられた。中部電力では、作業員が近づきにくい場所での設備点検や被害状況の確認などにドローンを活用して、時間の短縮や安全性と省力化を目指している。

 次に、測量の分野ではドローン測量で切盛土工事の出来高管理を実現している大和ハウス工業の事例が紹介された。大和ハウス工業では、ドローンによる写真撮影とデータ解析を活用して、基準測量から点群データ解析までの作業に要する時間を1/3に短縮している。

 そして、農業の事例では、ローソンファーム新潟の薬剤散布が取り上げられた。ローソンファーム新潟では、ドローンによる薬剤散布で、これまで1haあたり1時間以上かけていた時間を約10分に短縮し、大幅な省力化を可能にしている。

 こうした置き換えの事例に続いて、新たな取り組みとして、損保ジャパン日本興亜によるドローンの事故調査も紹介された。損保ジャパン日本興亜では、ドローンで事故や災害の現場を上空から撮影して、3Dシミュレーションソフトなどを活用して、PCで被害状況を再現して、調査精度を向上している例を挙げた。

写真測量と測位方法を解説

 事例紹介に続き、ドローンによる空撮でどのように測量を実現しているのか、その具体的な仕組みも解説された。高原氏は従来の測量機器による地上での測量と、ドローンによる空撮映像を活用した写真測量の違いについて解説し、3次元データを活用したメリットについて次の3点を指摘する。

1. 土木建築分野・・・測量にかかるコスト縮小、他機器と連携する3次元データ作成
2. 災害時・・・現場に人が行かずに地形などの現状を把握
3. その他業界・・・堆積物測量

 こうしたメリットを的確に享受するためには、さまざまな測位方法がある中で、より精度の高い技術の利用が重要だとも紹介された。

 高原氏は国土交通省の資料を参考に、RTK-GNSS(リアルタイムキネマティック)などの仕組みを解説し、1cm~5cmの精度で測位する精度の高さが、収集するデジタルデータの業務活用を促進すると説明する。その具体的な例として、4つのステップが紹介された。

デジタルデータを通じたシームレスな業務を実現

 高精度な測量が建設現場にもたらす具体的なメリットを伝えるために、会場ではDJIのRTK搭載ドローンの事例動画が映しだされた。

DJI PHANTOM 4 RTKの事例動画

農業や点検での活用例を紹介

 測量に続いて、農薬散布や精密農業で活用しているドローンが紹介され、平成29年の後半から薬剤散布などに使われるドローンの登録機体数と技能認定操縦者数が増加している状況も説明された。

農業用ドローンの推移(https://www.maff.go.jp/j/kanbo/smart/pdf/hukyuukeikaku.pdfより)

 従来の無人ヘリコプターによる薬剤散布から、ドローンが普及したことにより、法律などが改正された例も紹介され、新しいテクノロジーが制度を革新していく、と高原氏は指摘する。

 薬剤散布に続いて、精密農業で使われるドローンを理解してもらうために、リモートセンシングの仕組みも解説された。リモートセンシングでは、特殊なカメラを利用して植物が発する赤色光と近赤外線の波長を分析して生育状況をモニターする。ドローンによるリモートセンシングでは、一度に広い範囲を空撮できるので、土壌の状態や生育ムラなどの把握が容易になる。そうして得られた情報を活かして、効率よく追肥などの対策を講じるメリットが得られる。リモートセンシングの事例でも、DJIのP4 Multispectralの動画が紹介された。

DJI - Introducing the P4 Multispectral

 最後に、ドローンを活用した壁面点検が紹介された。ひび割れや浮きなどをドローンによる撮影と赤外線調査などで、これまで1〜3週間を要していた点検作業が1日に短縮されたという。従来の点検では、足場を調査する壁の全面に設置してゴンドラなどで高所作業を必要としていた。それに対して、ドローンを活用することで撮影の時間が圧倒的に短縮できた。さらに、撮影した画像データや赤外線データをAIソフトウェアで解析することで、報告書の作成までにかかる時間も1週間に短縮できたという。

Society 5.0のしくみ(https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/index.htmlより)

 高原氏は内閣府の資料をベースに、Society 5.0とドローンの関係について整理する。Society 5.0は、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステム。ドローンを通じたSociety 5.0の実現に向けては、屋外での高度な位置情報やセンシング、そしてデータの解析技術が進化して、産業分野でのIoT化が進む、と高原氏は指摘する。これから、IoT機器としてのドローン活用を推進していくためには、データのセンシングと解析・判定に加えて、オペレーションの3つが融合して、効果的に機能することが重要だと指摘して、セミナーを締めくくった。

ドローンを通じたSociety 5.0の実現に向けて重要な要素