10月24日から11月4日の12日間、東京都江東区の東京ビッグサイトで「東京モーターショー2019」が開催された。1954年に始まった本展示会は今年で46回目を数え、日本の自動車産業を世界に発信する国際モーターショーして位置付けられている。そんな自動車の展示会の中で見つけたドローンやエアモビリティ関連の展示を紹介しよう。
A.L.I.テクノロジーズ
今回の東京モーターショーでは、さまざまな新しい試みが持たれ、そのひとつとしてお台場地区のMEGA WEBで「FUTURE EXPO」というテーマ展が開催された。このコーナーではクルマに限らず幅広くモビリティやそれに関連した近未来のテクノロジーが紹介され、その中でA.L.I.テクノロジーズのエアモビリティとプロドローンのドローンが展示された。
A.L.I.テクノロジーズは今年3月に開催されたJapan Drone 2019で公開した、一人乗りオープンエアスタイルのエアモビリティを出展。「XTURISMO」と名付けられたこのエアモビリティは、機体の下面前後に備えた大型のローターの推力で浮上し、左右合計8基の小型のローターで姿勢を調整しながら飛行するというもの。前後2つの大型ローターは機体中央に搭載したエンジンで直接駆動し、その他の小型ローターはバッテリーの電力で駆動する仕組みとなっている。
エンジンをまたぐ形で乗るスタイルはまさに“バイク”で、機体の操縦はハンドル部に付いたボタンで行う。メインローターとも言える大型ローターは、1000ccクラスのオートバイ用直列4気筒エンジンの出力を、ギアボックスとユニバーサルシャフトを介して駆動するというユニークなものだ。
今回公開されたXTURISMOはリミテッドエディションとして、2020年にドバイで発表会を行い、おもに私有地での利用を想定し200台を販売する予定。さらに2022年にはホバーバイクレースをテストレースとして開催し、2023年には公道で走行可能な環境を整え、電動化した量産機の販売を開始する計画を公開している。
プロドローン
日本を代表するドローンメーカーのひとつであるプロドローンは、FUTURE EXPOエリアの水素関連展示コーナーに「燃料電池(PEFC)ドローン」を参考出展。同社ではNEDOの「ロボット・ドローンが活躍する省エネ社会の実現プロジェクト、省エネルギー性能等向上のための研究開発/長時間作業を実現する燃料電池ドローンの研究開発」に参画しており、今回の出展はその最新の成果ともいえる。
また、新しいモビリティ形として対話型救助用パッセンジャードローン「SUKUU」を展示。これはJapan Drone 2019で初めて公開したもので、災害時に要救助者のもとに飛行し、機体下部のケージに人が立つ形で搭乗し、安全な場所まで避難させるというもの。機体にはスピーカーを搭載しており、要救助者に呼びかけることができると同時に、ケージにはタブレットが装備されており、搭乗した要救助者にさまざまな情報を提供するなど、安心感を与えるコミュニケーションを取りながら救助を行うことができるという。
ヤマハ発動機
産業用無人ヘリコプターや産業用マルチローターを販売するヤマハ発動機は、主力事業であるオートバイの展示ブースの中に、無人機コーナーを設けていた。このコーナーでは産業用無人ヘリコプター「FAZER R」と農薬散布ドローン「YMR-08」の東京モーターショーバージョンを天井から吊るす形で展示。いずれも真っ白な機体に、赤いハイライトとなるグラフィックを施したものだった。
さらに、床には「Land Link Concept」と名付けたUGVをディスプレイ。車体の四隅に取り付けられた駆動輪が、前後方向だけでなく左右方向にも向く構造が独特で、周囲をセンシングしながら前後左右に自由自在に移動することができる。動力は車体に搭載したエンジンで発電した電気で、インホイールモーターを駆動するシリーズハイブリッド方式。車体上面にさまざまな荷物を積載する形で、農作業などで利用されることを想定しているという。
カーメイト
タイヤチェーンや車載キャリア、チャイルドシートをはじめ、カーアクセサリー全般を幅広く手掛けている自動車用品メーカー・カーメイトは、ドローン用ルーフボックス「ドローンステーション」を出展していた。これは同社の製品のひとつ、ルーフボックスの技術を応用したもので、ドローンを格納して運ぶことができるだけでなく、遠隔操作でルーフボックスを開き、ドローンを離陸させることができるというものだ。
参考出品として展示されているドローンステーションは、アルミ製のフレームで形作られた565×1160×740mmというサイズの箱で、内部にプロペラが付いて飛行可能なDJIのMatrice200を格納可能。リモートコントローラーの操作で天面が開くと同時にドローンを載せたプラットフォームが斜め上にせり上がり、離陸可能な状態となる。
このドローンステーションはドローンのヘリポートともいえる存在だが、あくまでも仕様は“離陸”のみ。着陸は地面に降り、再び発進可能な状態に戻して搭載する。「緊急事態にドローンを使用するといっても、現場でドローンをセッティングして離陸するまでに5分以上の作業時間がかかる。発進可能な状態で輸送できるドローンステーションであれば、フライトまでの時間を30秒まで短縮できる。また、現場でセッティングの時間短縮だけでなく、雨の日や暗闇での作業をさけることができ、さらにセッティングのミスを防ぐことができる」(説明員)という。
カーメイトとしてはこのドローンステーションを、消防車に搭載して使用することを想定しており、消防車メーカーのモリタと共同で開発を進めている。「将来的には消防機材のひとつとしてモリタの製品として販売する予定。2020年秋には実用化したい」(説明員)としている。また、「消防用途以外にも道路パトロール車に搭載して、事故や災害時の調査に活用するという使い方もある」(説明員)という。
ダイハツ工業
軽自動車大手のダイハツ工業は次世代の軽トラックのコンセプトモデルとして「Tsumu Tsumu(ツムツム)」を公開した。この軽トラックは、荷台に載せるコンテナを用途に合わせて取り換える形で、さまざまな用途に最適な使い勝手を生み出すというコンセプト。そのひとつとしてステージで展示されたTsumu Tsumuは、荷台に農業用ドローン基地となるコンテナを搭載。コンテナ左右のパネルが開き、ドローンを載せたヘリポートがルーフの高さまで上昇し、ドローンの離発着ができるようになる。
「2022年のレベル4実現に向けて、技術革新と安全性確保を進めるだけ」
東京モーターショー2019では会期中の10月31日と11月1日の2日間、「DRONE TOKYO 2019 RACING & CONFERENCE」と題して、ドローンレースとドローン前提社会をテーマにしたシンポジウムが開催された。イベントは冒頭、千葉功太郎氏の基調講演に始まり、内閣府と総務省から政府のドローンに対する取り組みを紹介。その後、ドローンに関係する産官学の代表者が登壇してのパネルディスカッションが2部に分けて行われた。
シンポジウムの冒頭、実行委員会副委員長の千葉功太郎氏は「自動車産業はレースと共に発展してきた。レースという場で技術を競い合うことでテクノロジーが進化し、その中で事故に直面することで安全面のレギュレーションが整備されてきた。ドローン前提社会を作っていくうえで、自動車と同じようにレースが産業の起爆剤、けん引役になってくれるといい。そのためにFAI(世界航空連盟)公認の“真”のドローンレースをモーターショーで開催し、技術とルールを追求していきたい」と、本シンポジウムの意義を紹介。
パネルディスカッションの第1部は、A.L.I.テクノロジーズの片野大輔社長を司会に、千葉功太郎氏、ACSLの鷲谷聡之氏、慶應義塾大学の南政樹氏が「ドローン業界の課題」をテーマに語り合った。この中で鷲谷氏は「ドローン業界はこの3年で“夢から現実”というステージに移ってきた」と語り、「ドローンを利活用してきた中で、今、技術的にできることと、これからできることの切り分けができるようになり、市場が大きく伸びるとともに成熟してきた」と紹介。
また南氏は「ドローンの管制システムともいえるUTMでは、有人機の航空管制の考え方ではなく、インターネットの自律分散協調型のオペレーションの考え方が取り入れられるなど、AIとドローンといったように幅広い分野の研究が融合されてきた」と評した。さらに、今後の3年間について千葉氏は「政府が2022年にレベル4の飛行を実現すると明言している。他の産業では懸念となりがちなレギュレーションが逆に担保されている。われわれ産業側はそこに向かって技術革新と安全性の確保を目指していくだけ。こんな楽な未来はない」と評した。
国際標準化とその先にあるオールジャパンのドローン産業ビジネス
第2部ではパネルディスカッションの前に、パネリストがそれぞれのビジネスや活動を紹介。その中で名古屋鉄道の矢野裕氏は「名古屋鉄道は昭和27年に全日空の前身である日本ヘリコプター輸送の創業に参画し、現在ではドクターヘリの運航で日本最大の中日本航空をグループに擁するなど空とのかかわりが強い。その延長としてドローンビジネスを捉えており、農薬散布や物流、タクシー、コインパーク、車体整備、自動車学校といった既存ビジネスの代替としてドローンや空飛ぶクルマのビジネスを考えている」と紹介。直近では愛知県無人飛行ロボット実証実験を受託し、洋上でLTEを利用した物資輸送を行ったほか、廃線跡を利用したドローン輸送を国内で初めて実現している。
また、プロドローンの河野雅一氏は、「ドローン配送は戸別配送よりも長距離拠点間配送が向いている」といい、今後KDDIと共同で行うことを予定している、三重県の志摩市と愛知県の蒲郡市を結ぶ70km、さらに静岡県の御前崎市を結ぶ175kmという長距離の物資輸送実験を紹介。この長距離航行に河野氏は技術的な裏付けに基づく自信を持っており、将来的には300kmというさらに長距離の配送が可能だという。300kmの長距離配送が実現すれば、例えば名古屋~東京間や、四国、九州全域をカバーする配送、さらに南西諸島の島嶼(とうしょ)間を結ぶ配送が可能だという。
さらに河野氏は「近い将来人の手を介さない、ドローンとAGVを使った自己完結型C to C輸送プラットフォームができる」と紹介。そのためのオペレーションシステム「PROFLYER」のアイデアを披露した。
第2部のパネルディスカッションではTMI総合法律事務所の新谷美保子氏と、内閣府の長﨑敏志参事官という2人のファシリテーターが出す質問に対して、6人のパネリストがそれぞれの専門分野の観点から答えるという形で議事が進められた。
冒頭、JIWの柴田巧氏は「みんながわくわくするようなシェアリング・ドローン・プラットフォームが作れるといい」と語り、「スマホアプリでタクシーが呼べるように、釣りに行くと魚影を探してくれたり、サーフィンをするならその映像を撮ってくれたりと、簡単に、そして細切れにドローンが使えるようになるといい」と、ドローン利活用がサービス化する近未来像を語った。
また、このシンポジウムの翌日に決勝レースが行われるドローンレースで、5G通信技術を搭載したドローンによる生中継を実施するKDDIの博野雅文氏は、「5Gは高速、大容量、低遅延というのが大きな特徴。ただ、映像伝送で遅延が起こる大きな要因は“コーデック”にある。明日の生中継ではこのコーデックにも工夫が凝らしてあり、超低遅延の映像伝送を実現している。映像の遅延は利用者にとって大きなストレスであり、この低遅延というメリットはエンターテインメント以外にも医療をはじめ、さまざまな分野で利用が期待できる」と紹介した。
パネリストにはUTMに取り組むNECと日立製作所を代表して二人が登壇。UTMの国際標準化を進める日立製作所の横山敦史氏は「国際標準化でリーダーを取ったとしても、産業でリーダーにならないと意味がない。もちろん日立としてこの分野のビジネスには取り組んでいくが、グローバルなビジネスの中では日立だけというより日本のドローン産業として勝ちにいきたい」と抱負を語った。また、NECの西沢俊広氏は「UTMは性善説に基づいた運航管理の仕組みとなっている。しかし、昨今ドローンを巡るさまざまな事件が話題に上る中、2022年までにはセキュリティなどの課題を解決する必要がある」と話した。