近年、エアモビリティ(空⾶ぶクルマ)の実⽤化に向けた構想の発表が相次いで⾏われている。日本国内では、2019年8⽉2⽇、経済産業省と国⼟交通省の主催で、「地⽅公共団体による空の移動⾰命に向けた構想発表会」が⻁ノ⾨ヒルズで開催された。この発表会では、福島県、東京都、愛知県、三重県、大阪府が空の移動革命を実現するための構想を発表した。発表会の直前には、空飛ぶクルマと空の移動革命の実現に向けて、愛知県と三重県が協力協定の締結式を行った。

空飛ぶクルマと空の移動革命の実現に関する福島県と三重県との協力協定締結式(写真提供:三重県庁)
Drone Fundが制作したイラスト:エアモビリティ社会の未来像を表現し、空の移動革命に向けた官民協議会が設立された時に、経済産業省や国土交通省のプレスリリースなどにも採用された。

エアモビリティの開発競争

 現在、エアモビリティについて法的に明確な定義が存在しないが、構想・発表されている機体は、電動型で垂直離着陸ができるeVTOL型のものが多い。
 Uberは2020年から試験飛行、2023年からサービスを開始することを発表している。ボーイングやエアバスなど航空製造事業者は小型電動航空機の開発・試験飛行に取り組んでいる。ヘリコプター製造事業者であるベルヘリコプターは「空飛ぶタクシー」のコンセプトモデルである「Bell Nexus」をCES 2019(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)で展示し、2020年の試験飛行を目指していることを明らかにした。ドイツに本社があるスタートアップ、Volocopterは2019年にシンガポールで試験飛行を行うことを発表した。
 日本では、2018年に有志団体CARTIVATORのメンバーが中心となり、株式会社SkyDriveが設立された。日本国政府は、2018年8月に「空の移動革命に向けた官民協議会」を設立し、2018年12月に「空の移動革命に向けたロードマップ」を策定した。2019年6月に閣議決定された成長戦略では、2023年からの事業開始が目標として設定された。
 空飛ぶクルマと言うと、映画などサイエンス・フィクションの中にだけ存在するイメージもあるが、実現に向けた動きは世界中で加速している。2020年代前半〜半ばには、特定の地域でサービスが開始され、2030年代には世界中で普及する可能性が高くなってきている。

SkyDriveの機体イメージ

エアモビリティのメリット

 エアモビリティの最大のメリットは移動時間の短縮である。現在、東京駅と成田空港は電車や自動車などで70分前後の時間がかかる。しかし、エアモビリティを使うと10分〜15分で移動できるようになる。
 移動時間が短縮できると、新しい移動ルートの開拓や、事業活動における生産性の向上、緊急時の輸送ルートの確保などのメリットがある。日本は高速鉄道や高速道路などが発達しているが、大都市圏の中心部から少し離れた場所の移動には時間がかかるケースも存在する。そのため、複数のモビリティを連携させることで移動時間の短縮を実現できれば、新しい経済効果が期待できる。

エアモビリティの実現に向けた課題

 エアモビリティの社会実装を実現するためには、安全性・経済性・環境性を満たす必要がある。
 安全性とは交通システムにおいて最も重要な要素である。現在、eVTOLの安全基準については制度設計の段階である。実用化するためには、早期に型式証明や耐空証明などのルールを整備する必要がある。運用面においては、カーゴドローンやエアモビリティの飛行を前提とした管制・通信・天候観測システムを構築することが不可欠である。
 経済性においては、ビジネスモデルの構築や、長時間飛行や急速充電を実現するためのバッテリーシステムの開発、他の交通手段と円滑に乗り換えができる地上インフラの整備などが求められる。初期段階では、エグゼクティブ層の利用が中心になることが想定されるが、将来的には通勤・通学・買い物など、日常的に使えるモビリティになることが望ましい。
 環境性においては、静音性や景観性などについて考える必要がある。運用面で見た場合、静かで景観に溶け込んだ飛行が望ましい。使用するエネルギーについては、気候変動対策などの視点から設計していく必要がある。
 エアモビリティを実用化するためには機体開発だけでなく、運用システムや、ルール形成、地上インフラ整備、事業開発、幅広いステークホルダーとの合意形成を行うことが求められる。2020年代にエアモビリティ社会を実現するためには、最初のステップとして、目指すべきビジョンや世界観の共有を行い、その上で具体的な設計を進めていくことが重要である。