10月9日から11日の3日間、千葉県千葉市の幕張メッセで農業の総合展示会「第10回 農業Week」が開催された。本展示会では農業資材や畜産資材、ガーデニング関連といったジャンルごとの展示会が開催されているが、このうち「第16回 次世代農業EXPO」では、多数のドローンやロボットが出展され、多くの来場者の注目を集めていた。今回の出展内容では2haの散布範囲をカバーする16リットルの薬剤タンクを搭載したモデルを訴求する出展社が目立つ一方で、小型機でも生産者の使い勝手を徹底的に追求したモデルをアピールするメーカーもあるなど、農薬散布ドローンの普及が進んだことでさらに新しいニーズが生まれていることを象徴する展示会となった。
エンルート
国産の農薬散布ドローンのパイオニアであるエンルートは、本展示会で新型の農薬散布用ドローン「AC101」を披露した。同社ではこれまでにも5リットルの液剤を搭載可能な「AC940D」と、同10リットル搭載機の「AC1500」を販売してきたが、「AC101」はこれらの機体が創業当初から受け継ぐプラットフォームを、全面的に刷新した次世代農薬散布ドローンだ。
AC940D、AC1500はそれぞれ型番の数字がローター対角を表していたが、AC101はこうしたフォーマットも刷新。AC1500と同等の10リットル液剤タンクを搭載しながら、機体サイズは902mmスクエア、重量も6.9kg(バッテリー除く)と非常に軽量コンパクトに仕立てられている。またこの小型化は“燃費”にも貢献しており、1本のバッテリーで最大2.5ha(20リットル)を散布することが可能。バッテリーはインテリジェント化され、AC1500が22.2V 16000mAH を2本直列搭載していたものを、AC101は 44.4V 16000mAHの1本で倍の容量を持つものを採用している。
「AC101のサイズは従来の5リットル機であるAC940Dに近く、同じ10リットル機のAC1500と比べると約45%も小型化している。10リットルの薬液タンクを搭載しているが、例えば50aの圃場で4リットルずつの農薬を散布すれば、1バッテリーで50a×5カ所の2.5haを散布することが可能。この軽量、コンパクト、低燃費というコンセプトは、まさに日本のために生まれた“ドローンの軽トラック”」(説明員)とのこと。AC101の販売は2020年春シーズンからとしており、価格はおよそ250万円程度だという。
DJI
エンルートと同じくDJI JAPANも、農業Weekに合わせて新型の農薬散布ドローンと、新たに精密農業用ドローンを日本市場向けに公開。会期中の10月9日に幕張メッセ国際会議場で発表会を開催した。
農薬散布用ドローン「AGRAS T16」は、16リットルの薬液タンクを搭載した6ローター機だ。既存のAGRAS MG-1シリーズが8ローターで10リットルタンクを搭載し、約4mの幅で散布ができるのに対して、AGRAS T16は散布幅を約6.5mに拡大。進行方向に対して横方向に幅広い機体のレイアウトに加えて、6つのローターの回転方向を工夫することで、均質で稲の根元まで薬剤が届くパワフルな散布気流を実現しているのが大きな特徴だ。
また、カセット式のバッテリーや薬液タンクを採用したことで、バッテリーの交換や薬剤の補充といった地上での作業時間を短縮。さらに安全面では新たにデジタルビーム形成画像(DBF)レーダーを搭載し、レーダーで検知した周囲の状況を3D点群データ化して、自動航行中の障害物回避などを行うことができる。
今回の展示会に合わせてDJIが発表したもう一つのドローンが「P4 Multispectral」だ。カメラに可視光(RGB)とレッドエッジ(RE)、近赤外線(NIR)、緑(G)、赤(R)、青(B)という6つのカメラをひとつにしたマルチスペクトルカメラを搭載し、これら6つのカメラが撮影した映像から植物のNDVI(植生指数)の画像を得ることができる。機体にはRTKモジュールを搭載しており、DJIのD-RTK2モバイルステーションやNTRIPと組み合わせて運用することで、センチメートルレベルの位置精度を持った撮影が可能だ。
P4 Multispectralはすでに10月から販売を開始しており、価格は1年間のDJI TerraライセンスとDJI GS Pro(Team-Professional)iPadアプリライセンスが付属したもので税込約85万円、D-RTK2モバイルステーションが付属したセットは税込約120万円となっている。
XAIRCRAFT JAPAN
中国XAGの日本法人であるXAIRCRAFT JAPANは、農業EXPOのドローンゾーンの入り口付近に大規模なブースを出展。先ごろ日本市場向けに発表したばかりの農薬散布ドローン「P30」を公開するとともに、多用途の小型ドローン「XMission」を参考出品として展示していた。
P30は16リットルの薬液タンクを搭載可能な4ローターの農薬散布ドローン。IP67規格の防水性能やモジュール化された機体設計に加えて、アトマイザーと呼ばれる液剤散布装置、強力な気流で粒剤を散布できる粒剤散布装置「JetSeed」を利用できるといった点が大きな特徴だ。散布の飛行はスマートフォンのアプリによる自動航行が前提であることは前作の「P20」と同じで、地図上に任意のルートを作成して飛行するフリーモードのほか、樹木1本ごとに螺旋もしくは旋回の飛行パターンで散布を行う果樹モードなどが利用できる。
また、今回のブースにはP30と組み合わせて事前のマッピングに使うほか、植生指数の調査に使うマルチスペクトルカメラを搭載できる汎用ドローン「XMission」を参考出品という形で展示。純正の可視光カメラやマルチスペクトルカメラのほか、サードパーティのセンサーなどを搭載して飛行することができるという。
イームズロボティクス
イームズロボティクスはいずれも2020年シーズン向けに、5リットルタンク搭載の農薬散布ドローン「エアロスプレーヤーAS5Ⅱ」、同10リットルタンク搭載機「エアロスプレーヤーAS10」のほか、新たに16リットルタンクを搭載した大型モデル「エアロスプレーヤーAS16」を公開。また、同社は早くから農薬散布ボートも手掛けており、手軽に使えることから人気を博しているという。今回のブースではその最新モデル「USV ZR-6」を展示していた。
東光鉄工
米どころの秋田県で農業用を中心にドローン事業を展開する東光鉄工は、16リットルタンク搭載の「TSV-AH3」を中心にしたラインナップを出展。今後増えるであろう大規模な生産者に向けて大型農薬散布ドローンのメリットをアピールしていた。
スカイマティクス
葉色解析サービス「いろは」を展開しているスカイマティクスは、これまで培ってきた同社の技術をさらに進化させた今年のサービスを幅広く紹介していた。これまでの水稲の葉色の解析に加えて、今シーズンはキャベツ畑をドローンで撮影した映像から、各株のサイズを測定し、圃場ごとの収量を予測するソリューションを提供。収量がわかることで生産者は生産計画の修正といった対応が早い段階でできるほか、流通業者などが契約農家の供給予測を立てるなど、データ活用の広がりが見込まれるという。
また、この技術を応用して今後はさつまいもや玉ねぎ、ビート、ブロッコリーなどにも対応を予定。「これまではAIと画像処理を別々に利用してきたが、今後はAIと画像処理を組み合わせてハイブリッドに最適な処理を進めていく」(説明員)としている。
SINOCHIP
中国SINOCHIP社のドローンを扱っている三重県のフヂイエンジニアリングは、今年度から導入を始めた農薬散布ドローンなどを展示していた。SINOCHIPのブランドでドローン事業を展開するShenzhen Top-Peak Electronicsは2011年に創業し、農業用ドローンやホビー向けドローンなどを販売している。今回の展示会では農薬散布ドローンの最新モデルとして20リットルモデルの「DF-T4D」「T1」、10リットルモデルの「DF-Q1」などを展示していた。
マゼックス
“国内生産”を掲げるマゼックスは2020年モデルの農薬散布ドローン「飛助DXⅡ」「飛助MGⅡ」を展示。同機は10リットルタンクを搭載する4ローター機で、98万円というリーズナブルな価格が人気を博し、すでに累計600台を販売している。30インチプロペラを採用していることと、ローター直下にある4つのノズルを前進、後進で切り替えることにより、機体の直下に従来比約2倍のダウンウォッシュを実現している。
2020年型では薬液タンクの投入口を拡大し、ポンプを機体側で作動させられるスイッチを設けることで、タンク洗浄時の作業性を向上させた。また、フライトコントローラーのシールドを強化することで飛行安定性を高めるといった改良が加えられている。
ドローンワークシステム
AGRIWORKSのブランドでドローンの販売を行っているドローンワークシステムは、今春から販売を開始した「AGR16A」を展示。16リットルという大容量のタンクを搭載した大型機ながら、出展時限定で100万円を切るリーズナブルな価格を訴求していた。また、この機体のフレームを生かしたハイブリッドドローンを展示。10kgのペイロードを実現しながら長時間飛行を可能としている。
テクノスヤシマ
テクノスヤシマは北海道の十勝平野にある大規模生産者のニーズに応えたエンジンハイブリッドドローンを展示していた。2ストロークのエンジンを搭載し、1時間の飛行が可能で、大容量の16リットルタンクのスペックを生かすことができる。来年には商品化するとしている。
inaho
アスパラガスを収穫するロボットを実働展示していたのは、自動野菜収穫ロボットを中心にした農業プラットフォームを展開しているinaho。クローラ式のロボットが長いアームを使って機体左右の畝に植わったアスパラガスを1本ずつ切り取って収穫。ロボットは収穫に適した長さになったアスパラガスのみを摘み取り、同時にその重さを量って収穫量を算出する。inahoではこのロボットをRaaS(Robot as a Service)として提供しており、収量に応じてサービス料金を徴収するという。
「“収穫”が生産者にとってかなりの重労働であったが、これをロボットが代替することでその負担を減らすことができる。ただしそのためにロボットを購入するとなると、減価償却が7年と長く、特に技術進化の速いロボットでは償却が終わるころには陳腐化してしまう。そこでinahoではこれをサービスとして提供する形で、常に最新のものをご利用いただけるようにした」(説明員)。