DJI JAPANは10月9日、千葉県千葉市の幕張メッセで開催された「農業WEEK 2019」において、精密農業・土地管理用ドローン「P4 Multispectral」と農薬散布用ドローン「AGRAS T16」を公開した。P4 Multispectralは9月下旬に米ロサンゼルスで開催されたDJIの年次カンファレンス「AIRWORKS 2019」で発表されたモデルで、マルチスペクトルカメラを搭載し、植生指数(NDVI)をはじめとした土壌のデータを取得することができる。一方AGRAS T16は16リットルの液剤タンクを搭載可能な大型の農薬散布ドローンで、大規模な圃場を持つ生産者のニーズに応えるモデルだ。

P4 MultispectralとAGRAS T16を披露する、DJI JAPANの呉韜代表取締役。

世界初の統合型マルチスペクトルイメージングドローン「P4 Multispectral」

精密農業・土地管理用ドローン「P4 Multispectral」。

 P4 Multispectralは機体頂部にRTKアンテナを搭載した姿がPhantom 4 RTKに極めて似ているが、大きく異なるのはカメラだ。P4 Multispectralでは可視光(RGB)とレッドエッジ(RE)、近赤外線(NIR)、緑(G)、赤(R)、青(B)という6つのカメラをひとつにしたマルチスペクトルカメラを搭載。グローバルシャッターを備えた各カメラは、有効画素数2.08メガピクセルの1/2.9インチCOMSセンサーと焦点距離5.74mm(35mm版換算40mm相当)のレンズを備え、地上分解能(H/18.9)cm/pixelでの撮影が可能だ。

3軸ジンバルで支持される可視光とレッドエッジ、近赤外、緑、赤、青の6つのカメラを一体にしたカメラユニット。

 機体にはRTKモジュールを搭載しており、D-RTK2モバイルステーションやNTRIPと組み合わせることで、センチメーターレベルの位置精度を持った撮影ができる。また、各カメラは厳密なキャリブレーションが施されており、TimeSyncシステムを採用することで、フライトコントローラー、カメラ、RTKモジュールのデータを統合し、測位データをCMOSの中心に固定した極めて精密な撮影が可能だ。

 さらに、RTKアンテナを内蔵するレドームの天面にはスペクトル日照センサーを搭載。このセンサーが常に太陽放射照度を測定しており、一日の異なる時間帯でデータ収集を行ったとしても、この照度をもとにカメラの撮影データに補正をかけることができ、正確な植生指数データを得ることができる。この「照度センサーを内蔵し、RTKを使って撮影データの精度を向上させる機能を統合したドローンは世界初」(DJI JAPAN説明員)だという。

機体上部のRTKレドームには日照センサーを内蔵。機体の傾きも考慮しながら照度を測定するという。

 コントローラーはPhantom 4 RTKと同じOcuSync2.0で接続され、最大伝送距離は5km。Phantom 4 RTKと異なるのはコントローラーがモニター一体型ではなく、市販のタブレットを使用するタイプとなっている点だ。機体の操作はすべてタブレットにインストールした「DJI GS Pro」アプリを使用。このアプリはDJI TerraやPix4D Mapper、DroneDeployといったソフトウェアと連携することができる。また、GS Proでは機体から送られてきた可視光カメラの画像と切り替える形で、NDVIの映像をリアルタイムで見ることが可能だ。

DJI GS ProでリアルタイムにNDVIの映像を見ることが可能。モニターに映っているのは左のP4 Multispectralが撮影した、右の観葉植物のNDVIの映像だ。
リアルタイムにNDVIマップを見られるだけでなく、撮影したデータからNDVIのフォトマップを生成することもできる。

 今回の発表会では2015年から農業リモートセンシングに取り組んでいる、ファームアイ 営業企画グループ・オペレーショングループの徳山二郎部長がゲストスピーカーとして招かれ、実際にP4 Multispectralを使ってリモートセンシングを行った感想を述べた。その中で徳山氏は「これまで自社のリモートセンシングにはS1000やM600、Inspire2を使ってきたが、P4 Multispectralを使うことで格段にコストや作業効率が上がった。これまでのリモートセンシングは、ファームアイが請け負う形で行ってきたが、P4 Multispectralの登場で、今後は農家が自らの手で圃場を“自撮り”する時代が来るだろう」と語った。

P4 Multispectralによってコストが下がり、手軽にリモートセンシングが出来るようになることから、農家が自ら圃場を撮影して営農に生かすことができると徳山氏は説明。

 P4 Multispectralは10月から販売を開始。価格は1年間のDJI TerraライセンスとDJI GS Pro(Team-Professional)iPadアプリライセンスが付属し、税込約85万円。また、D-RTK2モバイルステーションが付属したセットは税込約120万円となっている。

「DJI - Introducing the P4 Multispectral」(DJIのYouTubeから)

散布効率を大幅に向上させた次世代の農薬散布ドローン「AGRAS T16」

 この日、もうひとつの農業用ドローンとして発表されたのが、農薬散布ドローン「AGRAS T16」だ。DJIでは2017年から農薬散布ドローンAGRAS MG-1シリーズを販売しており、毎年のように改良を続けてきている。最新モデル「MG-1P RTK」では、RTKを搭載することで精密な自動航行による散布が可能となり、今年から日本でも解禁となった自動航行による農薬散布にも対応した。こうしたMG-1シリーズの進化に並行して、DJIでは3シーズンを通じて、次世代の農薬散布ドローンに求められることを模索してきた。その結果導き出した「効率性の向上」「安全性の向上」「処理能力の向上」という3つのコンセプトを実現したのがAGRAS T16である。

農薬散布用ドローン「AGRAS T16」。

 AGRAS T16は16リットルの液剤散布タンクを搭載可能なヘキサコプターだ。10リットルタンクを搭載した8ローター機であるMG-1に対して、プロペラを大型化して推進効率を20%向上。さらにノズルを2つずつ4つのローターの直下に配置することで、MG-1の4mに対して6.5mという広い散布幅を実現している。

 この高効率の散布性能は、毎分4.8リットルの噴射ノズルの性能だけでなく、6つのローター配置の工夫によるところが大きい。DJIが「ダイヤモンド型6ローター」と呼ぶ独特のレイアウトは、機体前後方向に2つのローターを配置しており、左右に伸びる4つのローターのアームは前後のアームより長く、機体を上から見ると機体が左右に長い形となっている。さらに左右で隣り合うローターの回転方向を外向きに気流が流れるようにすることで、左右均等で幅広い散布の気流を実現している。

一般的な6ローター機の場合、左右のローターの回転方向が、片方が気流を外にかき出す場合、反対側は機体内側に向かう気流となる。T16では左右で隣り合うローターの回転を左右いずれも外に向かう方向としている。

 また、作業性の向上のために交換が容易なカセット式の薬剤タンクとバッテリーを採用。薬剤を充填したタンクを複数用意することにより、着陸から離陸までの時間を短縮が可能だ。また、アームを折りたたむことで110cm×55cmというサイズに収めることができるため、軽トラックへの積載をはじめとしたハンドリングがスムーズになる。

インテリジェントバッテリーはカセット式となり、ワンタッチで機体への装着が可能に。
薬剤タンクもカセット式となり、薬剤を都度補充するだけでなく、タンクごと交換することもできる。
左右のアームは水平に重なるように、前後のアームは真下に向けて折りたたむ。

 安全性という面ではIMUや気圧計、さらには推進力信号系を二重化しているほか、GNSSに加えてRTKを搭載するなど冗長性をもたせてある。また、FPVカメラと超高輝度のスポットライトを搭載しており、機体の前方の様子を手元のコントローラーで確認が可能だ。機体はIP67規格の防水防塵性能を有し、各部のパーツをモジュール化することで、交換を容易にし、信頼性を高めてある。また独立した4つの薬剤ポンプは高い耐食性を備えており、水稲用の農薬だけでなく、今後登場するであろうその他の作物に対応した幅広い農薬を使うことができるという。

機体前面にはHD映像の撮影が可能なカメラと高輝度LEDライトを装備。

 処理能力の進化という点ではMG-1に比べて障害物への対応力が進化している。MG-1シリーズではマイクロ波レーダーを搭載し、地形と障害物を認識していた。AGRAS T16では新たにデジタルビーム形成画像(DBF)レーダーを搭載。ビームを形成するレーダーは3D点群データをリアルタイムに生成し、この点群データを基に高い精度で障害物を認識。MG-1シリーズでは障害物を検知すると機体を停止させる機能を持っていたが、AGRAS T16ではさらに自動的に回避して進行することができるようになった。

デジタルビーム形成画像レーダーで得た周囲の情報から3D点群データを形成する。

 農業WEEK 2019という場で日本初公開となったAGRAS T16。ただし現段階ではあくまでも参考出品という形であり、正式な発売時期や価格は未定となっている。しかし、DJI JAPANの説明員によると「来シーズンまでには発売する」という。

P4 MultispectralとAGRAS T16がDJIの次世代農業ドローンを担う

 また、DJIでは今回リリースしたP4 Multispectralを中心に、今後、農業用ドローンをソリューションとして展開することを計画しているという。AGRAS T16の説明に立ったDJI JAPANの農業ドローン推進部の岡田善樹氏によると、「P4 Multispectralを使って圃場を3Dデータ化し、AI処理を行うことで、どこにどんな木や建物といった障害物があることを認識するだけでなく、薬剤散布が必要な作物を検知して、その作物に対して薬剤の散布、さらには肥料の散布といった使い方を視野に入れている」という。

「Introducing Agras T16」(DJI AgricultureのYouTubeから)