全米最大のスーパーチェーンのWalmartと、Google兄弟会社のドローン企業のWingがドローン物流でタッグを組むことを発表しました!

(Walmartの公式プレスキットより)

 Walmartは2020年頃からドローン配送の事業化に取り組んでおり、現在は全米7州にまたがる36店舗から近隣の家庭にドローン配送を提供しています。

 Walmartのドローン配送はドローンのスタートアップ企業と連携をすることで実現しており、ドローン配送サービスプロバイダーで世界No1に選出されたZipline社や、イスラエルテックのFlytrex社、運航管理システムのAirMap社を買収したことでも知られるDroneUp社の3社が担っています。

 固定翼で長距離を飛行可能なZiplineは、店舗から50マイル(約80km)という驚異的な距離圏でサービス提供をしていますが、商品をパラシュートで投下するという大胆なオペレーションの特性上、過疎地域が多いアーカンソー州でのみ採用されています。一方、クアッドコプタータイプでロープによる商品のつり下げ降下手法を導入しているのがFlytrexとDroneUpの2社です。ただし、Flytrex社はWalmartのドローン配送初期フェーズのPOC止まりで、現在のドローン配送はWalmartが2021年に出資もしているDroneUp社がほぼ独占状態で提供しているようです。

 この3社の布陣の中に、固定翼機の長距離航行性能とクアッドコプター機の安定したホバリング性能を併せ持つVTOL(垂直離着陸機)タイプのWingの機体が割って入って来た感じになります。

*実際の各社のオペレーションの様子

【Zipline】
(CBS MorningsのYouTubeより)
【DroneUp】
(WAVY TV社のYouTubeより)

 一方、Wing社はバージニア州とテキサス州の2カ所でドローン物流の実証事業を大々的に行っていました。テキサス州においては同じ行政区の中でWalmartがドローン配送サービスを展開していたため、Wing社はWalmartの配送ネットワークへ相乗りをする形で対応エリアを拡充するという、両社の思惑が一致した形で実現しているようです。

Wing社のHP上ではテキサス州ダラス・フォートワースでのサービスを紹介するのと同時に、Walmartからの買い物がまもなく可能になることが紹介されています。

 DroneUpのサービス可能エリアがスーパーから半径2マイル(3.2km)だったのに対して、Wing社は半径6マイル(約10km)をカバー可能とのことなので、WalmartはWingの導入により一気に配送可能なエリアを9倍の面積に拡充できます。今後は対象エリアに住む6万世帯に対してドローン物流が可能になるそうです。

 配達可能圏内に住む利用希望者は、Wing社の専用の携帯アプリを使うことでWalmartの商品を購入し、ドローンで自宅まで配送してもらうことが可能になります。サービスは午前10時30分から午後6時30分までの間(なぜか水曜日は除く)で、オーダーから30分以内の配達を約束しています。食料品や処方箋薬を除く市販薬などが配達可能で、Wing社によると生卵のような壊れやすいものでも問題なく運べるそうです。

Wingドローン配送アプリ(Apple App Storeより)

 今年の8月上旬にはWalmartのドローン配送が累計1万回に到達しており、それを祝して過去に最もオーダーの多かったオレオ(!?)を使ったプロモーション動画が製作されています。Wingのドローン配送でも、オレオがトップを独占し続けるのでしょうか?


 今回の提携はWing社が作り上げているドローン配送経済圏の中にある数あるお店の選択肢の中に、新たにWalmartが加わる形で成立しています。つまり、Walmart自身がドローン配送サービスを強化したわけではない、というのはポイントかもしれません。

 WalmartがDroneUpのシステムを使って直営で展開するドローン配送については、事業としての採算性と、事故などの事業リスクの観点から、拡大・継続ができるのかが未知数だと考えられていました。

 ドローン配送の費用が一回あたり3.99ドル(約580円)と非常に意欲的な金額に設定されているのに対して、DroneUpの既存のオペレーションだと各店舗に設置されたハブと呼ばれる場所に常時オペレーターとドローンがあることが前提となるため、オペレーションを維持するだけでも非常にお金がかかります。

 同時に、Walmartのドローン配送に対して、配送遅延や届け先間違え、更には機体の墜落事故の報告などもユーザーの声としてネットに投稿されており、先駆的取り組みながらこのような事故が頻出すると事業としてはネガティブな要素にもなり得ます。

 今回、Walmartの配送オプションがWingのサービスに組み込まれることで、Walmartは他社との差別化は図ることが難しくなる一方で、オペレーションコストが削減され、事故時の事業リスクもWalmart側が負わなくなるので、今後のWalmartのドローン配送をどうしていくのかが気になるところです。

 個人的にはWing設立当初はIT企業のGoogleがドローン物流事業をやるのかと疑問視していたのですが、ここまで社会実装が進むと、むしろWingこそがドローン物流のデファクトスタンダードになりえるのではないかとすら思ってしまいます。

 Walmartは世界で約1万店舗を展開しており、そのうち半分の約5000店舗がアメリカ国内にあります。今回のテキサス州ダラス・フォートワースで始まる連携がWalmartとWingの両者にとって非常によいモデルケースになると、アメリカだけでなくWingが世界展開する重要なきっかけとなるかもしれません。

 余談ですが、WalmartやAmazonには、「Last Mile Strategy」や「Last Mile Delivery and Technology」という部署が設置されており、この部署を起点にドローンなどの最新技術を活用したラストマイル配送が事業化されています。あまり日本では聞かない部署名なので、日本でドローン配送事業を検討されている事業者は、このような部署の設置を検討してもよいのかもしれません。

伊藤英(いとう・あきら)

1983年東京都生まれ。2006年カリフォルニア州立大学サンタクルズ校卒業。専門はデジタルメディア、ドローン、エアモビリティ(空飛ぶクルマ)。世界No1ドローン企業に選出されるマレーシア法人のAerodyne Groupの日本支社代表取締役社長、日本のスタートアップで初めてNASDAQ上場を果たしたA.L.I. Technologiesの執行役員などを歴任。2023年7月よりベイシスコンサルティングに参画し、ドローンに代表されるデジタル等新技術を活用したインフラDXによるインフラ高度化を実現し、社会基盤からサステイナブルな日本を作る活動に従事している。