ロシアによるウクライナ侵攻での利用を筆頭に、いま世界中の軍事シーンでドローンが大きな存在感を示している。軍事の領域において、ドローンはどのように発展してきたのか、そして日本の状況はどうなっているのか。元陸上自衛隊東部方面総監部情報部長として自衛隊のドローン活用を進め、現在は一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)参与としてドローンの普及・発展に努める嶋本学氏に話を伺いつつ、いまなぜ日本の防衛にドローンが必要なのかを考える。

戦いの形を変えたドローン

 ドローンは現代戦の形を変えた。ロシアによるウクライナ侵攻では、ロシア・ウクライナの双方が大量のドローンを利用。とりわけロシアとの大きな戦力差を抱えたウクライナにとって、安価で大量に用意できるドローンは極めて重要な役割を担っている。ウクライナでは、ロシアが侵攻を開始したそのわずか1週間後に、トルコ製の無人戦闘攻撃機の活躍をうたった愛国歌「バイラクタル」がつくられ、国民の間で人気を博した。

 ウクライナのデジタル変革(DX)省などは、ドローンの調達支援プロジェクト「Army of Drones(ドローン軍団)」を展開。世界中からドローンを調達するための寄付を募り、多数の無人航空機を調達している。ゼレンスキー大統領は10月、世界初となる「海上ドローン艦隊」の創設を表明するなど、さらなるドローンの活用に強い意欲を見せている。

 またウクライナのみならず、ロシア側もドローン活用を進めている。中国製やイスラエル製のドローンを大量に輸入し、自国での製造・開発も急ぐ。ロシア政府は今後、ドローンの専門家を100万人まで増やす計画を有していることが報じられている。

 戦地でドローンが果たす役割は、偵察や監視、攻撃まで実に幅広い。日本人にとって「ドローン」といえば、空を舞う機体をイメージする人が多いだろうが、ウクライナでは地雷を載せて陸上を走るものや、爆薬を積んで水上を走行するものもすでに実践に投入されている。

世界の軍事ドローンの歴史

 そもそもドローン自体、もともと軍事利用を目的として開発が始まったものだ。「ドローン(Drone)」とは「雄の蜂」を意味するが、これも一説によると、イギリスの無人飛行機「Queen Bee」に対抗して名付けられた名称だといわれている。

 ドローンの歴史を振り返ると、第二次世界大戦時にはすでに、米軍などが爆弾を搭載したドローンの開発を開始。技術的な課題や費用対効果などから実用には至らなかったが、その後もドローンの軍事開発は続いた。

 たとえば米軍では、当初は射撃訓練における標的機(ターゲット・ドローン)として用いられることが多かったものの、1970年代ごろからは偵察用途での開発が進み、1990年代には攻撃機が実戦に投入されている。2001年にはアルカイダの幹部に向け、「プレデター」から対戦車ミサイル「ヘルファイア」を発射。これが世界初のドローンによる攻撃だといわれている。

 ドローンの軍事利用の観点からも、世界中の軍事関係者が一斉に注目したのが2020年に起きたアゼルバイジャンとアルメニアによる「ナゴルノ・カラバフ紛争」だ。アゼルバイジャンはトルコ製の「バイラクタルTB2」やイスラエル製の徘徊型自爆ドローン「ハーピー」を用い、アルメニアの防空システムや戦車を次々と破壊。長らくアルメニアが実効支配していたナゴルノ・カラバフの大部分を奪還するうえで、ドローンは大きな助力となった。

 ナゴルノ・カラバフ紛争に注目が集まった理由は、「ドローンが戦地で使えると実証した」のみならず、「ドローンを誰でも使える時代が到来した」ことを示す事例となった点だ。これまでドローンは、米国や中国といった「大国が保有しているもの」といった認識が持たれていた。

 ところがアゼルバイジャンという、決して大国とは呼べない国がドローンを活用して戦果を挙げたことで、「貧者の武器」の側面が強調されることとなった。世界中の軍事組織がドローンを「手が届く、かつコストパフォーマンスが高い武器」として認識するようになり、急ピッチで導入が進んでいった。

ドローンが遅れている日本

 翻って日本の状況をみると、ナゴルノ・カラバフ紛争後も、その動きは極めて鈍かった。2022年時点で、無人機関連予算は「滞空型UAV(無人航空機)の試験的運用(47億円)」「水中無人機(UUV)用海洋状況把握モジュールの研究(60億円)」「戦闘支援無人機コンセプトの検討(101億円)」などにとどまり、実用からは程遠い状態にあった。

 陸上自衛隊に導入されたドローンとしては、2004年の「遠隔操縦観測システム(FFOS)」が最初だ。初めて配備されたのは西部方面特科隊第302観測中隊であり、そこからもわかる通り敵の射撃位置や火砲の弾着の確認がその主眼だった。その後2007年には、改良型である「無人偵察機システム(FFRS)」に移行。2011年には「UAV近距離用(JUXS-S1)」を配備している。

 2010年代には諸外国からの輸入も行うようになり、米国の「スキャンイーグル」やカナダの「スカイレンジャー」、フランスの「アナフィ」を導入。ただし、これらの用途はもっぱら偵察・情報収集であり、攻撃型ドローンはゼロという有様。2022年の国会において、複合型ドローンの取得の是非を問うた井坂信彦衆院議員の質問に対し、岸田文雄首相は「偵察とともに攻撃を実施できる無人化された装備品の取得について具体的な計画はない」と表明していた。

 また、導入台数も限定的なものだった。このような状況に、元陸上自衛官で現一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)参与の嶋本学氏は、「自衛隊のドローン活用は、世界と比べるとかなり遅れている状況にある」と話す。

 嶋本氏は自衛官時代からドローンの必要性を痛感していた数少ない人物だ。たとえば日米共同訓練の場においても、「ドローンを用いて情報収集を行う米軍の情報収集力の差は歴然たるものだった」と振り返る。

 なぜ自衛隊はドローン活用が遅かったのか。嶋本氏によると、「自衛官の中にも、ドローンの重要性に気付いている者はいました。ただ、当時はまだ『ドローンは他国の領域での攻撃などに使用するもの』という認識が強く、自国の領域を防衛する自衛隊が組織的に導入するまでの意思決定には至らなかったのです」という。

ドローンが必要なのは「日本を守るため」

 とはいえそんな自衛隊でも、ようやくドローンに対する認識が変わってきた。2022年12月に決定された安保3文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)では、これまでのドローン施策を大きく転換。ドローンをはじめとする「無人アセット」を「防衛力の抜本的強化策」の一つとうたったのだ。

 嶋本氏は、「これまでの戦略や計画では『無人アセット』という枠組み自体が存在していませんでした。きちんと枠組みを示し、抜本的強化策の一つとして位置づけたことの意義は極めて大きい」と高く評価する。

 自衛隊が考え方を変えた背景としては、やはりナゴルノ・カラバフ紛争やロシアによるウクライナ侵攻によるドローンの活躍を目の当たりにした点が挙げられる。市販の廉価なドローンでも十分に戦果を挙げたことも、その背中を後押しした。「『みんながドローンを持っていて、みんなが使える』という時代がやってきています。そんな中で、『自衛隊だけ持っていない』という選択肢を取ることは、もはやできません」と嶋本氏は話す。

 また、日本周辺の国々によるドローンの利用が目立つようになってきた点も、ドローンへの注目度を高めている要因だ。たとえば2023年4月には、中国のドローンが台湾を一周したことが報じられ、台湾に緊張感が走った。北朝鮮も2023年7月、新型ドローンとみられる映像を公開しており、韓国軍もそのような脅威に対応するため、9月に「ドローン作戦司令部」を創設している。

 もはや、日本も少なからずドローンの脅威にさらされる時代に突入した。そんな中で嶋本氏が強調したいのは、「ドローンが必要なのは、日本を守るため」ということだ。

「本質的なことを考えれば、一番重要なのは『どうしたら日本を守ることができるか』を考え、実行していくことです。ドローンが必要なのは、あくまでその目的を達成するため。その大前提を理解することがまずは重要です。ドローンは安く買えて、誰でもすぐに使えて、たくさんのメリットがある。まさに『安い、早い、うまい』の『装備の吉野家』ともいうべき存在です。

 作戦行動における費用対効果の面だけでなく、隊員がけがをするリスクも低くできますし、これまで人が担ってきた業務をドローンに任せることで、その業務に就いていた人員をほかの業務に回せるようにもなります。ドローンは日本国民、そして自衛隊員の命を守るために、なくてはならないものなのです」

嶋本 学

一般社団法人 日本UAS産業振興協議会(JUIDA)参与
1965年北海道生まれ。1989年防衛大学校国際関係論卒業。陸上自衛官として指揮(各級指揮官、駐屯地司令)、情報(情報部長等)、教育(教育課長、主任教官等)、訓練(運用訓練幹部等)、R&D(主任研究開発官等)、広報(報道室員)の各部門で勤務。この間、ドローン要員育成、ドローン利活用促進、民間ドローン団体との連携強化にも携わる。2007年から3年間、在エジプト日本国大使館員として勤務。2022年に退官(陸将補)。前さいたま市役所危機管理部参事。陸自CGS課程、国連Post-conflict Peacebuilding Seminar、米軍Pacific Army Management Seminarなどを修了。