2023年6月29日、OKIは、水中音響通信装置の目標通信速度(海中2km間で20kbps)を約1.6倍上回る32kbpsの海中通信を実現する水中音響技術を開発し、実海面での実証試験に成功したことを発表した。

実証実験の概要図

 新技術は、AUV(自律型無人潜水機)などの水中IoT機器を使用したシーンでも干渉などの影響を受けにくく、取得データや制御信号の通信を安定した環境下で行うことができる。例えば、海洋資源調査など有人探索ができない場面においても、長距離通信ができる水中IoT機器同士をつなぐことで、より幅広い範囲の一斉探索が可能になる。

 近年、海洋における資源探索や水中構造物の点検などにおいて水中IoT機器への注目が高まり、特に複数機器の同時利用による広大な海洋オペレーションの効率化が期待されている。

 海中では電波が著しく減衰することから、機器間の主な通信手段として音波を利用する水中音響通信が用いられるが、従来の水中音響通信技術では利用できる周波数帯域が狭く、伝送できる情報量が限られる。また、海中の伝搬速度は非常に遅いため(一般的には1秒間に約1.5km)、水中IoT機器の移動に伴い発生するドップラー効果(※1)の影響を大きく受け、海面や海底の反射によるマルチパス(経路の異なる複数の波)の影響もあることから、通信のリアルタイム性や安定性に多くの課題があった。

 同社は、2020年11月に洋上母船とIoT機器間での映像伝送通信に成功しており、同実験では海面と海底方向の鉛直方向の通信を行った。これを、離れた場所にある機器を遠隔地から効率的にオペレーションするための水平方向通信に拡張すべく開発したのが今回の新技術となる。

 水平方向の通信への拡張にあたっては上述のマルチパスやドップラー効果の影響が大きくなるため、その対処を強化するとともに、水中音響通信装置における一般的な目標通信速度の1.6倍(距離2kmで速度20kbpsから速度32kbpsへ)の高速化をはかることで、送信できる情報量に限りがある点を改善した。

 また水中IoT機器への取り付けができるように、送受波器は長さ1mを下回る規模で、マルチパスやドップラ―効果への対策を行った。

 同技術を用いることで、遠隔地にいるオペレーターが数km離れた水中IoT機器を制御することが可能となる。

※1 ドップラー効果:音波や電磁波など波の発生源と観測者との相対的な速度によって、発生波の周波数とは異なる周波数が観測される現象。

新技術を用いた実証実験

 開発した水中音響通信技術を用いて、2023年3月に駿河湾海中の海域で実証実験を実施した。同試験では試験船2隻から通信用の送受波器を海面から約15mに吊り下げた状態で、2隻間の距離を約2km離してデータ送信を行い、通信速度32kbpsで安定した状態が確保できることを確認した。

【実証実験 概要】
実験環境:駿河湾内水深約1,000m海域における水平方向通信
波浪状況:波高1m程度
送受波器:OKIコムエコーズ製「OST2120」を海面から約15mに吊り下げ
伝送速度:約32kbps

 水中音響通信技術によって水中の無線通信ネットワークの構築が可能になれば、沖合養殖の設備管理や海洋資源調査など、海洋産業の効率化や新たなビジネスの創出が可能になるという。

 今後同社は、水中における1対Nでの複数通信や、無人機を中継ノードとしてさらなる遠距離通信を可能にする水中でのマルチホップ通信などの開発を進め、1つのシステムで複数の水中ドローンやロボットなどが広範囲で利用可能となるシステムの実用化を目指すとしている。

水中無線通信ネットワークの将来像図