2022年11月21日、岡山県真庭市、西日本電信電話(以下、NTT西日本)岡山支店、地域創生Coデザイン研究所、住友林業は、持続可能な森林経営に向けて、真庭市の森林情報をデジタル化しCO2吸収量を「視える化」する共同実証を実施したことを発表した。森林の価値を適切に評価し、質の高いカーボンクレジットを創出することで森林価値向上を目指す。

ドローン撮影の様子

 日本の森林資源は本格的な利用期を迎えているため、適切に森林を管理し、伐って、使って、植えるという循環利用を促進する必要がある。森林は、伐採から加工・流通までの木材生産を継続しながら、エネルギー利用やカーボンクレジットの創出などで価値を高めていかなくてはならない。中山間地域における森林資源を基盤とした地域活性化の実現には、適切な森林の利用と管理が求められるが、森林所有者の意識低下や森林の管理、整備にコストがかかるため、利用されないままの森林が増加している。

 そこで4者は真庭市美甘地区において、森林の価値を高め将来にわたり持続可能な森林経営ができるよう、森林情報のデジタル化によるCO2吸収量の視える化などの共同実証を実施した。共同実証の場となった真庭市は美作ヒノキの生産に代表される古くからの林業地で、近年は「里山資本主義」構想のもと、バイオマス発電やCLT(直交集成板)の生産など森林資源を活用した先進的な取り組みを行っている。

 実証実験では、真庭市美甘地区のスギ・ヒノキ林(約13ha)に対して森林資源データを取得・解析し、森林経営にかかるコストシミュレーションモデル(条件を設定して森林経営にかかるコストを試算できる仕組み)の構築や森林のCO2吸収量を算定した。
 コストシミュレーションモデルについては、地域の現状や課題を把握するための森林事業者へのヒアリング、森林情報をデジタル化するためのドローン撮影およびデータ解析、そして解析精度向上のための現地でのプロット調査(調査地内の樹木の体積を把握するため、樹種・本数・直径・樹高を調べること)を実施することにより構築した。このモデルによって、各地の森林で課題となっている森林経営コストをあらかじめ把握することで、適切な森林管理や木材生産が可能となる。

 森林のCO2吸収量については、ドローンレーザで計測したデータをもとに航空写真のオルソ画像を作成し、スギ・ヒノキを判別したうえで樹高や本数、立木材積などの算出を行った。これらを森林情報と掛け合わせて算定することにより、調査地のスギ・ヒノキ林で1年間に約11t-CO2/haを吸収しているという結果を得た。

図1:CO2吸収量の視える化実証のフロー
図2:CO2吸収量のエリア分布(図1右図の拡大)。今回の検証については、スギ・ヒノキ林を対象としたCO2吸収量を表示し、その他広葉樹などについては対象外(非表示)とした。
各社の役割
真庭市・森林フィールドの提供
NTT西日本 岡山支店・実証全体調整
・ICTを用いた森林測量
・解析事業の構築
・事業性の検証
地域創生Coデザイン研究所・森林のCO2吸収量視える化の企画立案
・カーボンクレジット活用による持続可能な森づくりの検討
住友林業・森林資源・CO2吸収量解析
・ゾーニングなどの解析データの活用
・コストシミュレーションモデルの構築

 今後は、実証で得たCO2吸収量のデータをもとに、真庭市の森林において「J-クレジット」制度(※)を利用したカーボンクレジットの創出を目指す。クレジットの売却益は間伐や植林など森林整備費用に充てることで森林の循環利用を促し、真庭市の持続可能な森林経営を支援していく。

 また、今回構築したコストシミュレーションモデルを活用し、他の地域に水平展開することで各地の森林を取り巻く環境を踏まえた森林施業の効率化を推進する。さらに、継続的にコストシミュレーションモデルの改善を図ることで、森林のCO2吸収源としての機能向上や新たな収益源の創出につながる取り組みを進めるとしている。

※ 省エネ・再エネ設備の導入や森林管理などによる温室効果ガスの排出削減量や吸収量を「カーボンクレジット」として国が認証する制度。認証されたクレジットは売買が可能で企業や団体のカーボン・オフセットなどさまざまな用途に活用される。