2020年11月16日、北海道大学(以下、北大)、岩見沢市、日本電信電話(以下、NTT)、東日本電信電話(以下、NTT東日本)、NTTドコモは、最先端のロボット農業技術に第5世代移動通信方式(5G)や、NTTが推進するネットワーク構想IOWN(※1)を実現する技術の一つである複数ネットワーク最適活用技術や高精度な測位技術等を用いて、農機完全自動走行(※2)に向け通信や映像の途切れを防止する等、安定的で円滑な農機の広域自動走行と遠隔監視制御を実現したことを発表した。

岩見沢プロジェクト(技術説明動画)


※1 NTTが現在検討している光ベースのネットワークの構想 IOWN(アイオン)。NTT研究開発 IOWN https://www.rd.ntt/iown/

※2 無人状態での完全自動走行。使用者はモニター等により、ロボット農機の遠隔監視を行う

背景

 日本の農業は長期にわたる就農人口の減少や高齢化等による人手不足が続いている。また、昨今の新型コロナウイルス感染拡大の影響により、外国人技能実習生が減少する等、農業現場の労働力減少に拍車がかかっている。こうした状況において、日本の農業を維持、発展させるためには、農家当たりの耕作面積地拡大等につながる生産性向上が求められるが、農家自身の努力だけで実現するには限界がある。そのため、ロボット農機等を活用して農作業を可能な限り自動化することにより、直面する人手不足を解消することが期待されている。

取り組み概要

 北大、岩見沢市、NTT、NTT東日本、NTTドコモは、2019年6月28日に産官学連携協定を締結し、最先端の農業ロボット技術と情報通信技術の活用によるスマート農業およびサステイナブルなスマートアグリシティの実現に向けた研究、技術開発等を進めてきた。

 これまで、農機からの高精細映像や監視センタからの発進・停止等の制御信号の安定的な伝送をめざし、5G等の高速・大容量・低遅延のネットワークを活用して実証を進めてきた。しかし農機完全自動走行対応には圃場間での移動も含め、遠隔地からトラクタやコンバイン等の農機をモニター等で監視、制御することが必要となる。
 例えば、対象の農地が5Gのサービスエリア外であったり、その無線通信の特性上、遮蔽等の影響を受けて自動運転農機が必要な通信品質を得られなかった場合、遠隔地にある監視センタへ送信する監視映像が乱れたり途切れたりすることにより、遠隔監視の継続的・安定的な実施が難しい等の課題があり、その解決策として複数のネットワークを安定的に切り替える等の対策が有効である。

 今回の実証では、以下5つの技術を実現し、その有効性を確認した。

実証全体概要図

※3 広帯域移動無線アクセスシステム(Broadband Wireless Access)

(A)複数ネットワークの最適活用による円滑な広域自動走行

 協調型インフラ基盤技術(IOWNを実現する技術の一つ)を用いて、複数のネットワークをまたがって農機が自動走行する中で、通信品質の変動をAIが予測して通信品質が劣化する前に適切なネットワークに自動で切り替えることで、遠隔監視を中断させることのない、安定的な自動走行を実現。

岩見沢市の農道で実際に農機を自動走行させ、同技術を用いて通信を中断させず自動でのネットワーク切り替えに成功した実証結果。

(B)ネットワーク品質に応じたデバイス(農機)制御

 ネットワーク協調デバイス制御技術を用いて、ネットワークの品質変化に応じた農機の制御指示を実現し、監視映像が伝送できないレベルにネットワーク品質が劣化した際に自動でトラクタを安全に停止させる等、その有効性を確認。

(C)効率的で安全な遠隔監視

 監視拠点で映像をパケットレベルで低遅延に複製することでネットワーク負荷を低減しながら、遠隔監視と画像解析等の複数の用途でのリアルタイム映像の同時利用を可能とするデータストリームアシスト技術、また、深層学習では、サーバ収容率を高めるために、複数の映像ストリームを効率的に処理するストリームマージ機能やCPUやGPU等、様々なリソースを最適化する推論処理基盤技術により処理を効率化。これらの機能により監視者の負担軽減につながる効率的な遠隔監視を実現し、その有効性を確認。

(D)低コストで高精度な測位

 農機が自動走行するためには、高精度な測位が必要である。そのため、衛星信号を受信する固定局を農機の周辺環境に設置し、固定局から位置補正情報を配信することが求められる。従来は、農家が当該固定局を設置することから、費用面や運用面で農家の負担となる等の課題があった。
 そこで、農家による固定局の設置が不要となる「docomo IoT高精度GNSS位置情報サービス」を用いた農機自動走行の実証を行い、高精度の測位を実現し、有効性を確認した。これにより、低コストで高精度な測位情報の利用が可能となる。

(E)適切な衛星選択による高精度な測位、農機以外の機器での位置情報利用(PC等)

 クラウドGNSS測位技術(IOWNを実現する技術の一つ)を用いた農機の自動走行の実証。農機に搭載した受信機で受信されたGNSS信号と固定局からの位置補正情報を使用して、クラウド上で測位演算処理を行い、リアルタイムの測位結果を農機の自動走行の制御に使用することで、その有効性を確認。
 クラウド上で測位の演算処理を行うことで、農機だけでなくPCやタブレット等の機器でも同時に位置情報の利用が可能になる。また、樹木等の障害物が圃場周辺にある環境下で、利用にふさわしくない衛星信号を測位処理に利用して測位精度が劣化する課題に対しても、クラウド上の計算リソースを使い、適切な衛星信号を選択することで高精度な測位を実現することが可能となる。

参画企業等

北海道大学
・無人ロボットトラクター社会実装に向けた、機能性要件・安全性要件に係る知見の提供
・無人ロボットトラクター遠隔制御技術の研究開発・技術協力

岩見沢市
・農業者や住民のICTニーズに係る知見の提供
・地方創生に向けた社会サービスの企画・検討

NTT
・IOWN関連技術等の最先端技術の研究開発・技術協力
・NTTグループの技術の目利き、連携支援

NTT東日本
・自動運転農機を制御するための無線アクセス(ローカル5G等)を活用したネットワーク、通信デバイスおよびオペレーション等の企画・検討
・AI環境の提供およびデータサイエンティストによる技術協力

NTTドコモ
・自動運転農機実証実験における5G通信環境の提供
・最先端のロボティクス・自動運転技術を活用したスマート農業への5G実装にむけた技術協力
・高精度位置情報(GNSS位置補正情報)配信に関する技術協力

今後の展開

 今後は、農機自動走行の安全性をさらに高めるため、衛星信号を用いた測位可能なエリア圏外でも農機自動走行を可能にする路面画像認識による測位補完技術の実証も行う。

路面画像による位置推定概要(北大)

 また、ドローンや草刈・収穫ロボット等農機以外への遠隔監視制御対象の拡大や、5Gや現行光ネットワークよりもさらに高速・大容量・低遅延なIOWN関連技術の導入を通じた、より多数の農機の遠隔監視制御、より広域での農業の自動化を目指す。

 さらに、流通・販売・消費分野にまたがるフードバリューチェーンへと取り組みを拡大させ、そこで構築した通信インフラを防災や健康等他分野での活用に広げる等、スマート農業を軸とした生活に必要なさまざまなサービスのスマート化へとつながるスマートアグリシティの実現を目指す。

 加えて、産官学連携のメンバーが主体となり、新たに農機メーカのクボタや日立ソリューションズ、スマートリンク北海道等も加わったコンソーシアムを組成し、総務省の「地域課題解決型ローカル5G(※4)等の実現に向けた開発実証等」、農林水産省の「スマート農業実証プロジェクト(ローカル5G)」事業を進めることで、農業分野の課題解決、競争力強化に貢献していく、としている。

※4 地域の様々な主体が自らの建物や敷地内でスポット的に柔軟にネットワークを構築できる5Gシステム