2019年4月18日、NTTグループ※、ふくしま未来農業協同組合、エンルート、日本農薬は、準天頂衛星みちびきに対応したドローン(以下、みちびき対応ドローン)やNTTグループの先進的なAI技術を活用したデータドリブンなスマート営農ソリューションの実証実験を行うことを発表した。

 同実証実験は、福島県南相馬市原町区鶴谷地区にて、福島第一原発事故に伴う避難指示の解除後、初めての稲作を2018年に再開したアグリ鶴谷(つるがい)の農場で、福島県の水稲オリジナル品種「天のつぶ」を対象に実施する。なお、本実証実験の一部 注1は、農林水産省「スマート農業技術の開発・実証プロジェクト」における実証課題として2019年3月に採択された。

NTTグループ(五十音順):NTT空間情報、NTTデータ、NTTデータCCSNTTドコモ、クニエ、ハレックス、日本電信電話、東日本電信電話

実証実験内容

(1)概要
 同実証実験は、就農人口の減少と地球温暖化に伴う気候変動という、日本の農業における2つの主な課題に着目し、その有効性を検証する。とりわけ、年々進む地球温暖化は、熟練農業従事者が有する施肥タイミングなどの経験則が通用しないケースや従来その土地ではあまり目立たなかった病害虫の増加など、今までとは異なった課題を引き起こすことが想定される。

 これらの課題に対応しつつ収量最大30%増と品質向上を目標に、「A.スマート生育診断・追肥」、「B.スマート病害虫診断・対処」、「C.スマート病害虫予測・対処」について実証実験を行う。注2

 なお、実証実験において得られるデータを営農支援プラットフォーム「あい作™」注3に蓄積することで、農業従事者と農業共同組合の営農指導員などが離れた場所でもタイムリーに共有・相談できるようになる。

スマート営農ソリューションのイメージ

(2)検証内容
A.スマート生育診断・追肥
 稲の収量・品質向上のためには、生育ステージを診断した上で最も効果的なタイミングで追肥を行うことが有効と言われている。しかし、例えば、生育ステージの1つである幼穂(ようすい)分化開始時期 注5の診断に際して、稲の茎を切断して観察するなど、専門知識と人手を要することが課題となっている。また、地球温暖化の影響などにより、各生育ステージの推定を経験則だけで行うことが難しくなりつつある。
 同実証実験では、みちびき対応ドローンなどで撮影した稲の画像を用い、生育ステージをNTTグループのAI技術で正確に診断し、最も効果的な追肥タイミングを特定する。(本AI技術は、国際特許を出願済 注6)

B.スマート病害虫診断・対処
 従来、病害虫・雑草種類の診断や対処には、熟練した農業従事者や営農指導員の判断が必要となる場合があった。同実証実験では、みちびき対応ドローンなどで撮影した広範囲に及ぶ稲の画像をAIで分析し、同判断を可能とする技術の確立を目指す。なお、同AI技術は、NTTグループが日本農薬の協力を得て、スマートフォン撮影画像の分析で既に実績のある技術を応用する。

C.スマート病害虫予測・対処
 病害虫の被害を抑制するためには早期の対処が重要である。しかし、農薬散布準備に時間を要することや被害が急速に拡大する可能性もあることから、病害虫発生に関する予測技術の確立が強く望まれている。
 同実証実験では、NTT研究所のAI技術「corevo™」の「多次元複合データ分析技術 注7」や「時空間変数オンライン予測技術 注8」を活用し、みちびき対応ドローンなどで収集した画像・位置情報や水温・地温(サーモグラフィカメラ活用)などと、NTTグループが保有する気象データや地図データなどを組み合わせて分析することによる病害虫発生予測技術 注9を検証する。なお、稲作における病害虫発生予測技術が確立できれば日本初の取組みとなる。注10

(3)準天頂衛星みちびき活用の意義など
 ドローンの自動運行に一般的に用いられるGPS測位では、電波が山や建物などに反射・回折することで生じるマルチパスなどによる測位誤差が生じることがある。特に、日本の耕地面積の約4割を占める中山間地域の農場ではマルチパスなどの影響が発生しやすいと言われている。

 同実証実験においては、準天頂衛星みちびきのサブメータ級測位(水平誤差1メートル程度の高精度測位)を活用し、これらの影響の軽減を図る。これにより、撮影における位置情報の精度向上や的確な農薬散布による農薬使用量の削減を目指す。

 あわせて、ドローン運行管制システム「airpalette® UTM」注11を用い、複数機のみちびき対応ドローンの同時自動運行を行うことで、短時間での追肥や農薬散布を行う手法の確立にも取り組む、としている。

実施期間

 2019年4月~2021年3月

今後の展開

 同実証実験で検証するスマート営農ソリューションについては、「天のつぶ」以外の水稲品種や稲以外の農作物への活用も視野に入れ、「福島発」で日本全国に普及させていくことを目指す。更には、準天頂衛星みちびきの活用が可能な東南アジア地域など海外への展開も視野に入れる、としている。

福島県南相馬市 門馬和夫市長からのコメント

 南相馬市は、福島イノベーション・コースト構想における「福島ロボットテストフィールド」を核として、「新産業の創出と人材の育成」に取組んでいる。そのため、本市の農場において、福島県の水稲オリジナル品種「天のつぶ」を対象に、準天頂衛星みちびきに対応したドローンとNTTグループのAI技術を活用したスマート営農ソリューションの実証実験を実施することは、大きな意義があると捉えており、本市としても実証事業の実施に向け、可能な限りの協力をしていきたいと考えている。今後、本市発の本営農ソリューションが日本全国に展開されることを期待している、と述べた。

注1:「A.スマート生育診断・追肥」及び「B.スマート病害虫診断・対処」を対象に実施
注2:農業従事者の負担軽減などを実現する技術として、水位センサー及びイオン水生成装置も使用
注3:NTTデータが提供する営農向けプラットフォームサービス。農業従事者が従来紙面で実施していた農業生産における計画・実績管理などの所属組合への提出についてスマートフォンやタブレットへの簡単な入力により省力化する機能や、時間や場所を気にせずに農業従事者と農業協同組合の営農指導員などが連絡・相談ができる機能、生育診断・雑草・病害虫診断などのAIを使った農業従事者支援機能を提供
<参考>
営農支援プラットフォーム「あい作™」を提供開始
https://www.nttdata.com/jp/ja/news/release/2018/100900/
AIと画像解析技術を活用した「生育診断」および「病害虫・雑草診断」ソリューションの試行サービス開始
https://www.nttdata.com/jp/ja/news/release/2019/040901/
注4:農業従事者が、データを使って生産性の向上や経営の改善に取組むための、データ連携や提供機能を持つ農業データ連携基盤
注5:茎の中で生育する稲穂の元となるものの形成が開始された時期(穂が出る約1ヶ月前)
注6:茨城県における実証実験(定点カメラ画像を活用しコシヒカリ対象)の結果に基づき出願済(2018年8月)
注7:任意の事象に関連する多次元データを入力として、事象の発生条件の組み合せが類似する条件をクラスタリングする技術。多次元データのスパース性を考慮した効率的なアルゴリズムが特徴
注8:時間と空間に広がる人・モノ・情報に関するデータを対象に、過去における一定期間のデータから時間と空間による影響パターンを学習し、直近の事象の発生時期と場所を予測する技術
注9:着色粒による品質低下の主な要因であるカメムシの発生を対象に実施
注10:NTTグループ調べ
注11:NTTデータが提供するソフトウェアパッケージ。ドローンの安全運航を実現するためのドローンの運航管理及び空域交通管理を実現