レベル3.5飛行は、補助者の代替えとして機上カメラや地上に設置されたモニターなどを活用し、飛行経路下への人の立ち入りを管理することで目視外飛行が可能となる。2023年12月から運用が始まっており、日本各地で実績が増えつつあるなか、レベル3.5飛行によって物資を定期輸送する実証実験が、愛知県で10月7日から開始された。平日の日中に限り、11月5日まで行われる。定期輸送をレベル3.5飛行で実施するケースは日本初となる。

三河湾でレベル3.5飛行の定期輸送に挑戦

 今回の実証実験では、三河湾に面した西尾市の一色漁港から、三河湾に浮かぶ佐久島の市有空地までの約10kmを、レベル3.5飛行で結ぶ。計画上の所要時間は15分程度。使用される機体は愛知県に本社を構えるメーカー・PRODRONEの「PD6B-Type3」。これは、第三者上空での運用を目指し、第一種型式認証を申請した機体となる。運航は名古屋鉄道が主体となって行い、PRODRONEは機体や運航管理技術を提供する。

 配送物は、佐久島から一色漁港間では佐久島で水揚げされた魚介類などの特産品などが想定され、一色漁港から佐久島間では医薬品や食料品、日用品といった現在船便により運搬されているものが想定されている。定期輸送は1日2往復行われる予定。また、要望に応じてオンデマンド(即時)輸送を実施する可能性もあるという。

 トヨタ自動車に代表されるように自動車が基幹産業であり、航空部品製造などの航空産業も盛んな愛知県ではモビリティ分野の産業振興に力を入れており、「あいちモビリティイノベーションプロジェクト『空と道がつながる愛知モデル2030』」(そらみちプロジェクト)を展開している。今回の実証実験はこのプロジェクトの「ドローンを活用した本土と離島間の多頻度配送事業」として採択されている。今回の実証実験を検証の上、2026年の社会実装を目指している。

 10月7日、実証実験のキックオフセレモニーが一色漁港で行われた。登壇した大村秀章愛知県知事は「1か月にわたりレベル3.5飛行を行うことは実用化への第一歩。技術面や現実に即した運用コストの算出といった事業面を検証し、ビジネスモデルを作っていきます」と意気込みを語った。

 佐久島の人口は196人(2020年4月1日時点)であり、過疎化が進んでいる。西尾市の中村健市長は「渡船が1日7便運航されていますが、物理的な制約があります。ドローンによる物資輸送を実装し利便性を向上することで物理的な制約を打破し、住環境としての魅力を向上して人口減に歯止めをかけることを目指します」と今回の実証実験と今後の社会実装に期待を寄せた。

 機体開発を手掛けるPRODRONEの戸谷俊介社長は「PD6B-Type3はAIを活用した衝突回避や360度をモニタリングしながら飛行する機能があり、安全性の高い機体です。また、レベル3.5飛行では安全にドローンを飛行させるため、地上でドローンの管制を行う『GCS(グラウンドコントロールステーション)』が重要です。弊社は離着陸、自動航行といったドローンの動作をPCやタブレットで容易に管理できるシステムを独自開発しました。PD6BとGCSを組み合わせてドローン物流の開発を進めます」と自社製品の性能の高さをアピールした。

レベル3.5飛行で省人化、ドローン物流のコストが課題に

写真:荷物を載せて飛行するドローン
離陸するPD6B。安定して上昇する。

 キックオフセレモニーでは佐久島から一色漁港間、および一色漁港から佐久島間の順で飛行する模様が取材できた。佐久島から一色漁港間の飛行では大村知事の発声に合わせてドローンが佐久島を離陸。約11分後に大きなアサリを積んだPD6Bが無事に到着した。また、一色漁港から佐久島間では当地名産のえびせんべいや西尾茶を積み離陸。向かい風の影響を受けたものの問題なく飛行し、約15分後に佐久島の市有空地に到着する様子が機上カメラの映像で確認できた。今回のペイロード(搭載物)の重さはいずれも3.5kg程度とのこと。

写真:ランディングパッドに着陸するドローン
佐久島から約10km飛行し、一色漁港に到着したPD6B。
写真:PD6Bの外観
PD6Bの大きさは2,181mm×2,398mm。折りたたむとハイエースに積載可能。
写真:PD6Bの前方のカメラ部分
PD6Bの前方の撮影に使用されるカメラ。

 今回の飛行で注意して確認したのが、従来であれば補助者の配置が必要な箇所が飛行経路上にどの程度あるのかという点だ。今回の飛行経路では一色漁港内の道路と、漁港に併設された歩道の2か所が該当する。この日は念の為の補助者が設置されていたが、担当者によれば、今後は段階的に補助者を減らし、操縦者だけで運航する体制にしていくという。なお、そのほかの経路は海上や佐久島内の山といった人がいない場所を飛行することとしている。

写真:ランディングパッド
離着陸場に敷かれたパッド。
写真:気象センサーや小型カメラ類
離着陸場に設置された気象センサー。小型カメラも併設し離着陸場周辺の環境確認に使用される。
写真:道路の様子
一色漁港の離着陸場の周囲にある道路。駐車場の出入りに使用される。車両の立ち入りは機上カメラで監視する。

 GCSではPRODRONEのスタッフ2名が機体から送られてくる緯度や経度、風速といったテレメトリー情報をPCで常に監視していた。風向きなどを考慮し、高度70~100m程度で飛行する航路が設定された。今回の実証実験では、専門スタッフではなく、漁港で働くような一般の人が、飛行計画や航路の作成を簡単にできるようにし、ドローンを使えるようにしていくにはどうすればよいか探ることもテーマとなりそうだ。

写真:運航管理を行う様子
この日、GCSでは2名体制で運航管理を行っていた。

 運用コストについて戸谷社長に尋ねると、「今まさにコスト算出をしていますが、例えば大アサリの輸送でコストが合うかというと、なかなか合わない状況です。おそらく、現在の約3分の1以下にしないと社会実装のレベルに至らないと考えています。最初は医薬品など、高付加価値のものから社会実装できるのではないでしょうか」と今後の見通しを述べた。

写真:PD6Bと、スピーチを行う戸谷社長
機体やシステムをアピールする戸谷社長。
写真:大アサリを手に持つ大村知事
佐久島から送られてきた大アサリを見せる大村知事。

 なお、12月には愛知県新城市で、河川上空を航路として1飛行で複数目的地へ物資を輸送する実証実験を行う予定だ。愛知県では2023年度に豊川上空を利用した物資輸送の実証実験を実施済み。12月の実証実験では、2023年度の成果を踏まえて、より高度な飛行に関する検証が行われる見込みとなっている。

写真:PD6Bを前に整列する関係者。大村知事は大アサリの入った箱を持っている
キックオフミーティングにはそらみちプロジェクトのアドバイザーを務める名古屋大学未来社会創造機構モビリティ社会研究所の森川高行特任教授(左端)や、配送物を用意する各社の代表者らが出席した。