IHIエアロスペースが開発を進めている「i-Gryphon」試作2号機。

 IHIグループのなかでも、ロケットや小型衛星の開発に取り組むIHIエアロスペースは、マルチコプターにおいて最大クラスの可搬重量を持ち、ハイブリッド構造によって長時間飛行を実現した「i-Gryphon」を開発した。今回が初めての公開となる。

重量物を搬送するために設けられた、ダクテッドファン。
出典:IHIエアロスペース

 i-Gryphonは4個のローターを備えたマルチコプター型であるが、ボディーの両サイドにダクテッドファンと呼ばれる大型のファンをレイアウトしている。大型の重量物を搬送する場合、大型ローターによる推力が必要とされるが、直径が大きくなるためプロペラガードの装着が難しく、人や物への接触時に危険が伴う。そこで、同じ推力を小さなローターで発生させるダクテッドファンを採用し、ダクト内に収めることで接触時の安全性を確保している。

 そして、ガソリン燃料をエネルギー源とするハイパワーのツインロータリーエンジンを、2基の大出力ダクテッドファン用の駆動源として採用し、電気モーターを併用することで、電動ドローンの課題であった重量物積載と長時間飛行を両立した。

 最大離陸重量149kg、機体重量102kgで、最大ペイロードは47kg(搭載燃料を含む)。36kgの荷物を運ぶ場合、11kgのガソリンを入れると約50分の飛行が可能になる。最大ペイロード47kg以上を実現する技術はそれほど難しいものではないが、最大離陸重量150kg以上は航空機製造事業法上の航空機となるため、最大離陸重量149kg、最大ペイロード47kgとしている。

 担当者は「搭載物重量を減らし、燃料の重量を増やせば、より長距離の飛行が可能になる。逆に、近距離であれば、燃料を減らすことにより重い荷物を運ぶことができる」という。例えば、40kg輸送時の燃料搭載量は7kgで30分の飛行が可能だ。

機体中央にツインロータリーエンジンを搭載。ガソリン燃料から生み出されたエンジン出力はギアボックスで左右反転した回転力を作り出し、ベルトによって左右のダクテッドファンへ伝えられる。ダクテッドファンにより生み出された噴流(ジェット)によって機体は浮かび上がる。
ガード付きの電動プロペラを搭載。エンジン出力はギアボックスを介して発電機を駆動し、生み出された電力が姿勢制御用のプロペラを駆動する。ガード付きの電動プロペラとダクテッドファンのファンブレード周囲にあるカバーにより、ヘリコプターに比べ回転部分への接触リスクが低減し安全性を確保する。

 機体は、誰でも簡単に操縦できるよう、自動航行・自動離着陸が可能で、オプションでプロポの使用もできる。また、4G LTE通信機器が標準搭載され、画像データ等をリアルタイムに伝送することができ、さらに遠距離での飛行が可能となる。

自動航行時経路監視用ジンバルカメラ(可視光カメラ、赤外線カメラ)。周囲監視カメラも2台、4G LTE通信機器を搭載。

 インテリジェントカメラは、HD画質・光学10倍ズームが可能な可視光カメラと赤外線カメラを搭載。ジンバル機能を備え、遠隔操作により任意の方向を見ることができる。画像認識により、機体制御系と連動して移動する目標を追尾することも可能。その他、高精度カメラやLIDAR、高機能センサーなど用途に応じて積載することができる(オプション対応)。長時間飛行を可能とし、可搬性能に長けていることで物資搬送のほか、測量や点検、警備監視といったさまざまな用途への利用が期待される。

 加えて、運用性にも優れ、雨天での飛行を可能にする防滴仕様(IPX4)およびプロペラアーム折り畳み構造を採用し収納性・可搬性を向上させている。プロペラアーム折り畳み時の寸法は、全長1300mm、全幅2400mm、全高1800mm。担当者は、「特殊な工具を使用すればプロペラ部分も取り外しが可能で、トラックなどにも積載することができる」と話す。

プロペラのアーム部分は折り畳みが可能で、展示では機体の後方にある2本のアームが折り畳まれていた。

 用途としては、物資輸送のほか、送電線の点検や災害時の救助者発見、離島への医薬品・医療機器輸送など、多目的ドローンとして提案をしているが、本展示が試作機の初めての公開となるため、同展示会の来場者からニーズを聞き出し、検討していきたいという。試作機は、福島ロボットテストフィールドで飛行試験が行われており、自動運行および長距離通信機能を検証するため飛行試験を実施するなど、今後の正式発売に向けて開発が進められている。

YouTubeで公開している試作機の飛行試験の様子。