関西電力の子会社で火力・原子力発電設備の建設・メンテナンス等の事業を行う関電プラントは、煙突内といった非GPS環境下でも操作可能な点検用ドローンなどを展示した。

非GPS環境下となる煙突内部の劣化を自律飛行で一気に点検

 日本の電気事業者の火力発電所数は約470カ所(参照:2021年度統計表「電気事業者の発電所数、出力」経済産業省 資源エネルギー庁)あり、火力発電所の定期点検は電気事業法に基づきボイラー設備は2年ごとと規定されている(関西電力では自主点検として年に1回実施)。煙突は3〜6年ごとにボイラーを停止した定期点検が実施され、それに合わせて煙突も点検しているそうだ。ボイラー内や煙突内部は、排出ガスの熱や酸腐食などによって劣化していくため点検作業は重要だ。現状は、ボイラー内では足場を仮設、煙突ではゴンドラを内部に設置し、それぞれ作業員が目視で点検を行っており、その期間は数週間以上かかるうえ、高所作業に伴う安全上のリスクがある。最近は発電量の確保、発電コスト削減の観点から点検業務の期間短縮を目指し、人的負担軽減の観点では、ドローンやロボットによる点検作業の開発が進められている。

 点検の自動化が進められる一方で、ドローンを自律飛行させるためにはGPSによる位置情報測位が必要となるが、屋内環境に近い煙突やボイラー内部ではGPS信号が行き届かない。そこで関西電力はGPS信号が届かない円筒形の空間内でも、ドローンの機体位置を推定する技術(特許出願中)を国内で初めて開発した。なお、ドローンはACSL製の産業ドローン「ACSL-PF2」をカスタマイズしたものだ。

関西電力が開発した垂直ドローン。機体はACSL製のACSL-PF2をカスタマイズしたもの。サイズは1177(L)×1223(W)×654(H)mm(アームとプロペラを伸ばした状態)。アームとボディを一体成型することで、強度や防塵性、防水性能を高めた。
機体上部に搭載されたLiDARセンサー。
機体後部に搭載された制御用カメラ。
国産ドローンであるACSL-PF2には、シナノケンシ製モーターといった細かな部品も国内製品が使用されている。

 非GPS環境下で安定した飛行を実現した特許出願中の技術は、カメラの画像を処理する技術「Visual SLAM」、光による距離計測技術である「LiDAR(Light Detection and Ranging)」、気圧センサーを組み合わせて水平・高度・方位角の制御を行うものだ。
 正面に設置されたカメラの映像により正面方向の自己位置を推定(Visual SLAM技術)し、上部に設置したLiDARセンサーを使用して暗所の中でも対象物の形状把握を行う。さらには、レーザーを水平方向に照射して、煙突内壁とドローンの距離を算出し、常にドローンが煙突の中心に位置するように制御する。この2つの技術によって、ドローンは煙突の中心位置で安定的に飛行することが可能となった。また、方位認識のためには、ドローン下部に搭載したカメラで煙突底面に設置したライトをとらえることにより、ドローン自身の方位変化を認識させている。これらの技術の組み合わせにより、非GPS環境下で100m以上の煙突内でも安定した飛行を実現した。

ドローンによる点検で、作業日数を最大90%削減、コストも50%以上カット

 垂直ドローンによる点検方法は、煙突底部から煙突内の円中央を保持し、一定の方位角を保ち、一定の範囲を撮影しながら自律飛行で上昇する。上部まで撮影が完了するとドローンは下降し、煙突底部に到達すると機体を回転させ、異なる範囲(方位角)の撮影を実施。これを繰り返して煙突内全周を撮影する。煙突の適用範囲は、筒径でφ4000〜20000mmで延長は200m(飛行1回あたりの最大延長)。

点検用の撮影カメラはソニーのα7R IV。
高輝度LEDライト。

 垂直ドローンには、6100万画素の一眼レフカメラと全天球カメラ、高輝度LEDライトを搭載しており、煙突内のような暗所でも、内壁や0.3mm幅の小さなクラックまで鮮明に撮影が可能だ。高さ200mほどの煙突にかかる撮影時間は1日程度だという。現状のゴンドラによる作業日程(ゴンドラの設置と撤去、写真撮影)では約10日間の日数がかかるというが、垂直ドローンならば1日で済み、作業日数が90%削減できる。また、作業員の人的コストでは、ゴンドラ設置と撤去に関わる作業人員が削減でき、約50%のコスト削減につながるという(関西電力調べ)。

同時に展示されていた小口径管内点検ロボット「M2クローラー」。関電プラントとシーエックスアールが2019年に共同開発した製品で、磁性体の鋼管に限定されるが、車体底部に取り付けられた磁石で配管内に吸着するため、底面や側面、天井面の走行が可能だ。

 今年4月、関西電力は各ドローンを使った発電所やダムの点検業務を事業とする子会社Dshiftを設立した。関電プラントが点検業務全般、Dshiftはドローンのオペレーション業務を担う。関西電力グループはドローンの運用とAIによる画像解析サービスを、自社だけでなく行政や企業向けサービスとして提供を始め、2025年度には年間で10件の受注、4億円の売り上げを目指すとしている。