回転翼機の長時間飛行を実現する手段として、かねてから水素燃料電池が注目されている。日本においても経済産業省がガイドラインを策定するなど、利活用に向けた動きが進展しており、エンジンを搭載したハイブリッドドローンよりも環境にやさしいといった特長は、サステナビリティや環境保全が意識される現代においては強い武器になる。海外では水素燃料電池を搭載したドローンの活用が始まっており、商社のコシダテックは韓国の斗山(Doosan)が開発した「DS30」の取り扱いを開始し、日本への導入を進めていく。

DS30の利活用には日本の運用整備がカギに

コシダテックのブースに展示されたDS30。サイズは1990(W)×1990(L)×750(H)mmと大型だ。

 DS30の開発を手掛ける韓国企業のDoosanは、建設機械などを製造する重工業の企業グループで、大型の水素燃料電池を取り扱っていたことから、2016年にDoosan Mobility Innovationを設立し、ドローンの開発を開始した。今回、コシダテックが展示したDS30は、米国で開催される家電製品の見本市であるCES2020のDoosanブースで出展され、見事にイノベーションアワードを獲得するなど、最先端かつ優れた技術が評価された。

上部に取り付けられたパワーパックDP30には、バッテリー2個と水素燃料用タンクが収納される。(写真はタンクが取り外された状態)

 JapanDrone2021に出展したコシダテックのブースでDS30の実機を初めて目にしたが、全長1990mmのオクトコプターとあって、サイズはかなり大きい。重量は21kg(10.8ℓタンク搭載)にもかかわらず、120分の長時間飛行で80kmの移動が可能だという。ドローンの構造は上部のパワーパック(水素燃料電池)と下部のフレーム本体(オクトコプター)が別々につくられており、ワンタッチでパワーパックの交換ができる。なお、水素燃料電池のパワーパック(DP30)をオクトコプターに取り付けた状態をDS30としている。

DS30に使用される水素燃料用の高圧タンク。タイプ4と呼ばれる新しいタンクを採用している。

 水素燃料電池は、供給した水素燃料が内部で酸素と化学反応を起こすことでバッテリーを充電する仕組みで、DP30には1.3kWのバッテリーを2個搭載している。そして、水素燃料電池の肝となるのが、水素を充填する高圧タンクだ。水素燃料の搭載容量を増やし、充填圧を高めることによって、飛行時間を増やせることが最大の魅力といえる。しかし、高圧充填のタンクを飛行させるため、日本での利活用においては慎重に検討している段階だ。なお、現在は高度3mまでの飛行が許可されており、それ以上の高度を飛行させるには経済産業省大臣の特別認可が必要となる。それに加え、高圧タンクは規格品を使用しなければならず、日本ではタイプ1からタイプ3と呼ばれるアルミ製のタンクが規格に従って製造されている。ところが、DS30に使用される高圧タンクは、内装材に樹脂を使用したタイプ4と呼ばれる高圧タンクで規格外のものを使っており、DS30を日本で飛行させるのは難しいという。

 DS30は5kgのペイロードを確保し、さまざまな用途を想定して開発された。韓国ではすでに80台、米国では10台が導入活用されている。韓国の例をあげれば、ソーラーパネル点検、プラント点検、送電線点検、パイプライン点検、消防、警察などで役立てられているという。DS30に搭載するフライトコントローラーはDJI A3と、オープンソースのpixhawkの2種類が用意され、それぞれ搭載可能なソリューションが異なる。DJI A3ではZenmuseシリーズのカメラが使用可能で、pixhawkではソニーのDSC-QX30やα7Rなどが使用できる。また、FLIRの赤外線カメラやYellowScanのライダー、MicaSenseのマルチスペクトルカメラは両方のフライトコントローラーに対応した。

 Doosanは水素燃料電池を搭載したVTOL機の発売を来年に予定しているなど、長時間飛行にフォーカスした製品開発を進め、次世代のドローンとして欧州にも展開していくという。