2021年1月14日、電源専業メーカーのVicor Corporation(本社:米国マサチューセッツ州、以下Vicor)は、ドローンを開発する斗山モビリティ・イノベーション (Doosan Mobility Innovation、本社:韓国・京畿道、以下DMI)と協業したことを発表した。

DMIのドローンがヴァージン諸島に緊急医療物資を輸送。水素燃料電池パワーパックを搭載することで2時間以上の飛行が可能になった。この飛行時間は、バッテリー駆動ドローンの4倍である。

 DMIは、高エネルギー密度の水素燃料電池をドローンに搭載し、遠隔地で人道支援を行っている。2時間の飛行が可能で、これまでにマスクや緊急物資をアメリカ本土からヴァージン諸島へ、韓国本土から済州島へ輸送し、韓国で最も高い漢拏山(6,388フィート)へ昇り医療用AEDを届けた。この技術により、距離と積載量をさらに伸ばした輸送ロボットの開発が見込まれる。DMIのドローンの航続距離が伸びたことで実現した例に、ソラシド(海南)にある韓国最大の太陽光発電所の監視作業がある。バッテリー駆動のドローンで同じ作業をする場合、6回以上のバッテリ―交換が必要であった。

ソーラーパネルの検査では、通常のカメラとサーモグラフィカメラを搭載した水素燃料電池ドローンを用いて、20MWほどある発電所の画像を、2回の自動グリッド飛行で撮影した。バッテリー駆動のドローンで同じ作業を行うと6回以上のバッテリー交換が必要となる。

高い電力密度でパワーパックの性能を最大限に発揮

 移動する機器に用いる水素燃料電池の開発では、材料科学からシステムレベルの最適化まで、全般にわたる技術革新が必要である。移動距離を伸ばすためには小型化、高効率化、システムの軽量化が鍵となる。さらに、長く安定して飛行するためには、高いエネルギー出力と耐久性を備えていなくてはならない。そのためには、燃料電池スタックの軽量化や、高い電力密度を可能にするパワートレインを構成し、周辺部品を含めたパワーパック全体をシンプルにして、最適なシステム構成にする必要がある。

 設計の中核となるのは、システムの電力供給ネットワーク(PDN)の構成と実装である。DP30パワーパックには、主電源のパワートレインが2つあり、片方はドローンのローターに、もう片方は2つの燃料電池スタックのコントローラに給電する。DP30の出力電圧は40Vから74Vと広い範囲で変動するため、パワートレインで正確な電圧調整を行い、ローターのモーターに48V、12Aを、燃料電池スタック制御ボードとファンには12V、8Aを確実に出力するように設計されている。

エネルギー密度の比較:水素燃料電池とリチウムイオン電池

 高効率と高エネルギー密度の電力供給ネットワーク(PDN)を実現するため、DMIはVicorのPRM昇降圧レギュレータとZVS降圧レギュレータを採用した。PRMは水素燃料電池スタックの最大74Vまでの開回路電圧(OCV)を入力することができ、48Vへ調整し安定化する。

水素燃料電池パワーパックの構造

 ローターへ給電する方のPDNは、2つ並列接続されたPRM昇降圧レギュレータで構成され、ローターに必要な12Aを供給する。燃料電池スタック内のデジタル制御ボードのPDNには、低電力のPRMと直列に、48Vから12Vに変換するZVS降圧レギュレータを使用している。

電力容量の異なる製品ラインナップ

 DMIは、現在生産している2.6kWのDP30パワーパック以外にも、電力容量の異なる製品ラインナップを増やすとしており、来年発売の1.5kWの水素燃料電池パワーパックに始まり10kWまで様々な電力容量の製品を展開し、それらのパワーパックに対応したドローンを発売する予定だという。

 電源モジュールでPDNを構成するVicorのアプローチによれば、PDNに拡張性ができるため多様な製品ラインナップに対応できる。これによりDMIの技術者は、燃料電池スタック構造の変更、パワートレインや周辺部品、放熱方法といった、電力容量の拡大に伴い発生する技術的課題に集中することができるという。

▼世界初、UAV向け水素燃料電池パワーパックを製品化(Vicor)
http://www.vicorpower.com/ja-jp/resource-library/case-studies/doosan