日本シノプシス合同会社が主催したSNUG Japan 2019の基調講演に、NFT社をシリコンバレーで起業したカプリンスキー真紀氏が登壇し、車のように走行し、垂直に離着陸し、飛行機のように空を飛ぶeVTOL機ASKA(飛鳥)について語った。

陸空両用の空飛ぶクルマASKAへの挑戦

 カプリンスキー真紀氏は、愛知県名古屋市の出身で、イギリスの大学を経てイスラエルの大学院を卒業し、2001年にイスラエルで起業した。基調講演の冒頭で、真紀氏は4つのゼロを示す。空飛ぶ車の会社を含めた過去3度の起業において「実績」「信頼」「知名度」「ネットワーク」のすべてで、真紀氏はゼロからスタートしたという。最初にイスラエルで起業したWBOというオフセット業務を請け負う会社では、国や防衛関連の組織や企業との関係構築に苦労し、4つのゼロを克服して10年に渡り事業を成長させてきた。続く2012年には、東京でIQP社を創業した。同社では、IoTやエンタープライズアプリをコーディング不要で開発できるアプリケーションを製品化し、2016年に米シリコンバレーに進出すると、翌年にはGE Digital社にエグジットした。この4年間でも、ITという新しい事業分野で、4つのゼロと戦ってきたという。そして、2018年に新たにNFT社をシリコンバレーで起業した。NFT社は、車のように走行し、垂直に離着陸し、飛行機のように空を飛ぶeVTOL機ASKA(飛鳥)の開発と、UAM(Urban Air Mobility)自律飛行のためのAI技術の開発に取り組んでいる。

 空飛ぶ車を開発しようと考えた原点について、真紀氏は「混雑した都会の暮らし」から働く人たちを開放したい、という想いを訴える。日本でIQP社を経営していた真紀氏は、都市の混雑を経験し、多くの人たちが狭い住居や混雑した交通機関に疲弊している状況を見てきた。その経験から「ドアツードアでのアーバンエアモビリティの先駆者になる」ことで都市の課題を解決できると考え、そこに起業の意義を見出した。一例として、ASKAで箱根から東京まで約80kmの距離を30分で移動できるようになれば、暮らしの質が向上し、自由な時間が増え、生活コストも削減できる、と真紀氏は訴える。

NFT社 Cofounder & CEO カプリンスキー真紀氏

母と子どもの3人で240kmを飛行できるeVTOLを目指す

 NFT社の開発するASKAは、過去に開発されてきた乗用型eVTOLとは異なる。車のように4つのタイヤで自走し、折りたたんだ翼を開くとダクトファンで浮上して飛行機のように飛ぶ。ハイブリッド推進システムを採用し、充電式バッテリーで動作する。独自の衝突回避システムも開発している。飛行中に障害物を検出し、AIを活用した完全な自律飛行を目指している。

 NFT社では、ASKAのコンセプトをCGで表現した動画をyoutubeに公開している。

ステージで紹介されたASKAのイメージCG

 動画によれば、ASKAでは自動車のボンネットとトランクに該当するスペースに、多くのダクトファンを備えている。ボンネット側のファンは、主に離着陸用の浮力を生み出し、トランク側のファンは、2つが稼働式になっていて、離陸後の推進力になる設計。また、折りたたみ式の翼の両端にも推進用のファンが取り付けられている。航続距離は、3人で240kmの飛行を目標にしている。飛行高度は、300mから3,000mの範囲になる。将来的には、完全な電動化を目指しているが、当初のモデルはハイブリッド方式になる。先行するエアーモビリティと比べて、ASKAは自走式でドアツードアの利便性を追求する。そのため、大規模な離発着場やステーションを必要としない。ASKAは、通常は車として移動できるので、路上やガレージで保管して、家庭や充電ステーションで充電できる。離着陸には、20m×20mのスペースがあれば、翼を開いて飛び立てる。

 NFT社では、2040年までに空飛ぶ車の市場が、1.5兆ドルに成長すると予測している。真紀氏は「アーバンエアーモビリティは、100年に1度の大変革」だと指摘する。ASKAの製品化は2025年を目指し、通常の販売モデルの他に、利用した分だけ支払うサブスクリプションサービスも計画している。

日本経済の閉塞感を問題提起とイノベーション開発で突き破る

 半導体設計からソフトウェア開発に至る領域(Silicon to Software™)をカバーするソリューションを提供しているシノプシス社が、なぜ日本のエンジニアに向けてカプリンスキー真紀氏による空飛ぶ車の基調講演を開催したのか。その理由について、同社の社長で職務執行者の藤井公雄氏は、「当社の各種ソリューションは、車載システムやAIなどの様々なアプリケーションの開発者が活用しています。自動車だけではなく、未来のモビリティがどのように進化していくのか。その将来性と日本の経済に漂う閉塞感を突き破ってもらうようなお話をしていただきたくて、真紀氏に講演をお願いしました」と話す。

 こうした期待に対して、真紀氏は「日本経済にたちこめている閉塞感を打ち破るためには、日本の女性がもっている大きな潜在力を最大限に活用できるような環境やマインドセットがカギになります」と語り、自身が経験してきた3つの「力」について説明する。

1. YES AND 何事も肯定的にポジティブに捉えて、前に進み改善していく力。
2. 光を見る力 長いトンネルであっても必ずその先にある光を見通して突き進む力。
3. ピボット力 柔軟に変化して成功へと至る力。

「失敗を恐れ行動に移さないこと自体が、長期的には最大の失敗になります。日本人女性起業家として、リスクや批判にひるまず、常に新しい領域で挑戦し続けます」と真紀氏は話し、最後に「悔いのないよういつも全力で頑張りたい」と締めくくった。

シノプシスについて

 Synopsys, Inc.(Nasdaq上場コード:SNPS)は、我々が日々使用しているエレクトロニクス機器やソフトウェア製品を開発する先進企業のパートナーとして、半導体設計からソフトウェア開発に至る領域(Silicon to Software™)をカバーするソリューションを提供している。電子設計自動化(EDA)ソリューションならびに半導体設計資産(IP)のグローバル・リーディング・カンパニーとして長年にわたる実績を持ち、ソフトウェア品質/セキュリティ・ソリューションの分野でも業界をリードしており、世界第15位のソフトウェア・カンパニーとなっている。シノプシスは、最先端の半導体を開発しているSoC(system-on-chip)設計者、最高レベルの品質とセキュリティが要求されるアプリケーション・ソフトウェアの開発者に、高品質で信頼性の高い革新的製品の開発に欠かせないソリューションを提供している。