ドローンのカスタマイズや人材育成を手掛けるJDRONEは、神奈川県秦野市からの要請で、ドローンを活用した森林調査を行い、「ナラ枯れ」の被害エリアと枯損木の本数を特定した。ドローン導入の背景と成果に迫る。

全国で急増する「ナラ枯れ」とは

毎年6月頃からカシナガの活動は活発になり、7月から8月頃にナラ枯れが起きる。紅葉の時期でもないのに葉の色が変わっていたら要注意だ。ブナ科(ブナ属を除く)の多くの種で被害が確認されている。

 「ナラ枯れ」とは、カシノナガキクイムシ(カシナガ)と呼ばれる森林病害虫が、病原菌であるナラ菌を増殖させることで、樹木が水分を吸い上げる機能を阻害してしまい、枯死させるという「樹木の伝染病」だ。カシナガのメスの背中には、菌のうと呼ばれる貯蔵器官があって、ここにナラ菌を入れた状態で被害木から健全木へと移り、被害をどんどん拡大させるのだ。自然に収束することはないといわれており、コナラ属、クリ属、シイ属など、ブナ科の幅広い種(ブナ属を除く)において被害が確認されている。被害が広がるサイクルはこうだ。6~7月頃、カシナガのオスが健全木に穿入して、フェロモンを発散する。7~8月頃、それに誘引された多数のカシナガが集中的に穿入して、樹木を枯らしていく。秋以降はそのまま樹木で大増殖し、卵からかえった幼虫は樹木の孔道内で生育して越冬し、翌年の6月頃に新成虫が飛び出して新たな樹木に移っていくのだ。カシナガの体長は4.5~5mm程度。森林の中で見つけて駆除することは不可能に近い。ナラ枯れの被害を食い止めるには、秋から春にかけての羽化脱出前に、薬剤による殺虫処分(くん蒸)を行うなど、樹木への対策を講じるほかないが、それにはナラ枯れの枯損木がどこにどれくらいあるのかの正確な現況把握が不可欠だ。

今回、JDRONEは神奈川県秦野市からの要請を受けて、ドローンを活用した森林調査を行って被害エリアと枯損木の本数を特定した。

神奈川県秦野市のドローン活用背景

 しかし、実はこの「ドローン森林調査」、もともとは「ナラ枯れ」を目的として始まったものではない。最初の困りごとは、「山林内が暗くなった」ことだったという。秦野市にある弘法山公園には、吾妻山を経由して鶴巻温泉へと下り、温泉でのんびり一汗流せるという人気のハイキングコースがあるが、近年は部分的に林内が暗くなったため、怖がって歩く人が減ってきてしまったのだ。人が歩かなくなれば、林道が踏まれなくなる。雑草が生い茂ったり、虫が繁殖したり、という悪循環に陥ってしまうという懸念がある。それを防ぐためには、まずは林内を明るくする必要があるのだが、どのように対応していくべきかを検討する中で、“いま流行り”のドローンに白羽の矢が立ったのだった。

 弘法山の調査や対策検討をさらに進めていく中で、多数の「ナラ枯れ」が発生していることが判明した。「ナラ枯れを起こした枯損木を間伐するだけでも、林内が明るくなる。また、枯れた木がなくなれば、見栄えも良くなり、枝が落ちてくる危険も減るだろう。ナラ枯れ対策にドローンが有効かもしれない」。このような流れで、ドローンを使ったナラ枯れの調査がJDRONEに依頼された。

 JDRONEは、ドローンのカスタマイズで培った高い技術力を持つ企業だ。さらに、測量士や測量士補といった専門資格を有した上でドローン操縦にも精通する人材を多数抱えている。今回の調査では、DJI社製「P4 Multispectral」とDJI社製「Phantom 4 RTK」という2種類のドローンを活用して、森林調査を行った。

ドローンを活用するメリットは数多い

ドローンを活用することで、危険エリアも含めて広範囲を短時間で調査できるため、作業効率がアップする。さらに、対象樹木の正確な位置情報データを取得できるため、報告書の正確性も向上して対策も講じやすくなる。

 ナラ枯れにドローンを使うメリットは数多い。従来の調査方法は、人が林内を歩き回るというものが一般的だが、遠目に状況を確認せざるを得ないケースも多く、また枯損木らしい樹木を見つけても正確な位置座標を残せないため、大変な労力をかけて調査を行ったとしても、結果が曖昧になるという課題があった。また、道がないところや危ない場所には、そもそも人は入っていけないため、調査できないエリアが残ってしまうというのが実情だ。ドローンを活用すれば、短時間で対象となる樹木がどこにどれくらいあるかを確認できて、非常に効率がよい。人が容易に近づけないような場所も含めて、上空からしっかりと現況を把握することができる。また、ドローンで取得したデジタルデータにはGPS位置情報が含まれており、報告書の正確性が格段にアップする。一方、航空写真も山全体を俯瞰して捉えられるが、1本1本の樹木の状態までは解析できない。

 JDRONEのドローンによる「ナラ枯れ」調査は、非常に効率よく実施された。例えば、約10ヘクタールの重点調査エリアで「P4 Multispectral」を飛行させ、マルチスペクトル画像を取得するのに2時間かからなかった。調査前は「50本くらい」と推定していた枯損木の本数は、データを解析した結果「150本もある」ことが明らかになり、推定よりも被害が拡大していることが分かった。

JDRONEの技術力が“光った”ドローン森林調査

 「50本かと思いきや、150本も枯れていた」。ドローン森林調査によって、発注前にこうした情報を入手することは、業務効率化のみならず、自治体と委託業者との健全な取引にも役立つ。今回の調査でJDRONEは、弘法山にある重点調査エリア約10ヘクタールにおいて、最初に「P4 Multispectral」を高度約80mで飛行させ、約2時間弱で全域のマルチスペクトル画像取得を完了した。

DJI Phantom 4 RTKで撮影した可視光画像。
DJI P4 Multispectralで撮影したマルチスぺクトル画像。

 植物の緑葉(葉緑体)は、赤色などの可視光を吸収し近赤外領域の波長の光を反射するという特性を持つが、マルチスペクトル画像はこれを利用し、光の反射率から正規化植生指数(NDVI)を測定して、葉の量や有無、枝や地面などを、赤や緑などの色で表現する。解析結果を見れば枯損木の現況は一目瞭然だ。ただし一見、「それがどこか」は特定できない。そこで同エリアにおいて、「Phantom 4 RTK」も飛行させた。可視光画像を取得し、sfmソフトを使ってオルソ画像を作成して、地理情報システム(GIS)と照合することで、対象樹木の位置を正確に把握できる。

4Kの高画質で撮影した可視光画像をオルソ化してデータを拡大表示したところ、ナラ枯れを起こして紅葉した部分が一目瞭然(黄色い線で囲んだところ)だ。

 JDRONEは最終成果物として秦野市に、取得データおよび解析結果と、フライト設定値や安全対策などの実績も提出したという。なぜJDRONEは、こうした現場のニーズに即したドローン活用をできるのだろうか。理由は大きく3つある。1つ目は、例えば1回の撮影で可視光画像とマルチスペクトル画像の両方を撮影できるようにするなど、機体カスタマイズの実績が豊富で、ドローンの構造や性能を熟知しているため。2つ目は、JUIDAやDJI CAMPなど、各認定資格団体の講師資格を保有し人材育成も担える、高い操縦技能を誇る人材を多数抱えているためだ。3つ目は、ドローンの知識に加えて測量士や測量士補などの専門資格を保有する人材も多く、現場と同じ目線で課題を把握し解決策を提案できる。この3つの“技術力”が合わさることで、「解析に即した計画立案、飛行・撮影を実行し、報告書を作成できる」のだ。

撮影当日は現場で、可視光画像データをオルソ画像に変換し、秦野市職員らがその場で確認した。これを現場で見た職員が、これまで未確認だった土砂崩れを発見。撮影終了後、当該場所の位置座標をもとに地上から現場を確かめようと訪れたが、死角となって見つけられなかったという。

 ナラ枯れの令和2年度の全国被害量は、前年度比318%の約19万m3だった。昔は日本海側だけの現象だったが、昨今は太平洋側まで広まっており、令和3年度も速報値で約15万m3と収まる気配はない。ドローン森林調査で早期に現況を把握できれば、秋から春にかけてしっかり対策を講じ、被害拡大を最小限にとどめられるだろう。また、マルチスペクトルカメラを搭載したドローンは、ナラ枯れのみならず樹種判別や森林の材積量調査にも活用できる。今後もJDRONEは、さまざまな森林組合や地域の企業、市町村などの自治体と、講習を提供するなど協力関係を構築して、社会課題の解決に向けて尽力するという。

自治体向けに使い方を伝授!JDRONEの「ドローン森林調査講習」

 JDRONEは、2020年度と2021年度に2年連続、神奈川県内の林業事業体に向けたドローン講習を実施した。講習内容は、JDRONEが自社実績をもとに独自開発し、ドローンを使った森林の調査に特化。座学では、ドローン飛行に関する法規制、データを取得するための自動航行、取得データを活用した成果物作成について学び、それらの実技講習までを1日で行った。ドローン初心者も対象とした大人数向け、実務デビューを目的とした少人数精鋭向け、また官公庁などでも実績は豊富で、講習内容の提案も可能だという。地域に根ざしたスマート林業の第一歩にドローンを活用するならJDRONEに相談するのがおすすめだ。

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