ヤマハ発動機は、オーストラリアのノーフォーク島において、産業用無人ヘリコプター「FAZER R(自動航行機能付き)」による駆除剤散布を実施している。在来種のアリの捕食、住宅やホテルへの大量侵入など被害が広範囲におよぶ有害アリの駆除ソリューションとして活用されている。

ノーフォーク島を飛行する「FAZER R」。

 シドニーから飛行機で約3時間、太平洋に浮かぶ人口約2,200人のノーフォーク島では、アルゼンチンアリの繁殖により、絶滅が危惧される島固有の鳥類や植物の受粉を助ける在来種のアリの捕食、農作物に害を与えるアブラムシとの共存関係や、住宅・ホテルへの大量侵入など、広範囲に被害が発生している。こうした害虫駆除のソリューションとして、FAZER Rを活用して空中から駆除剤を散布している。

 以前は住民が噴霧器を背負い駆除していたが、その効果は限定的で、研究機関の推薦をきっかけに2018年から無人ヘリによる計画的な散布も行われるようになった。アルゼンチンアリは貨物に付着して外部から入ったとみられており、その後、アリが付着したガーデニング用品が島内で販売されたため、瞬く間に島の全域まで繁殖域が広がったという。

無人ヘリで散布した薬剤に群がる有害アリ。

 アルゼンチンアリは島内の約495ヘクタールに生息しており、これを16のゾーンに分けて4年前から駆除を開始。散布を終えたところは概ね根絶が確認された。今後も数年間をかけて残った繁殖ゾーンの散布を進め、根絶したゾーンに対しても再繁殖を防ぐためのモニタリングなどを続ける計画である。

 同じような課題を抱えるインドネシアに近いクリスマス島では、異なる種類の有害アリが島の顔ともいえるクリスマスアカガニを襲って食べる被害が広がり、本土のクイーンズランド州でも外来種のアリによる健康被害への懸念が高まっている。こうした地域でも、産業用無人ヘリによる駆除剤散布の検討が始まっているという。

 それぞれの地域に有害アリ駆除のためのメソッドはあるが、手作業による散布では繁殖に追いつかない。上空を高く飛ぶ有人ヘリでの散布は河川や住宅地に薬剤が飛散するリスクがある。無人ヘリは低い高度を飛び、ドローンよりも積載量と連続航行時間を有することから活用が期待されている。

 島の学校では、同社の現地法人ヤマハモーターオーストラリアのスタッフが講師となり、無人ヘリによる自然環境保護の課題解決の授業も実施している。

ノーフォーク島の学校で、自然環境保護の無人ヘリによる課題解決の授業を行うヤマハモーターオーストラリアのスタッフ。

 日本では主に水稲での農薬散布で活用される無人ヘリは、オーストラリアでは国立公園や海岸沿いでの除草剤散布等にも用いられており、自動航行機能を利用した送電線の点検作業等での活用検討も始まっている。