大手物流事業者とドローン事業者の提携

 ドローン物流のオペレーションを行う企業とドローンメーカーや、物流事業者、航空貨物事業者といった企業間の提携や連携も進んでいる。2020年5月にはエアロネクストとANAホールディングスが物流ドローンの共同開発に向けて業務提携を締結。また、エアロネクスト社は2021年6月に、西濃運輸をグループに擁するセイノーホールディングス、ACSLと資本・業務提携を結んでいる。

日本郵便と日本郵政キャピタルは、ACSLと資本・業務提携を行った。
資料3 日本郵便、日本郵政キャピタルと自律制御システム研究所、資本・業務提携(出所:ACSLプレスリリースより)

 日本の大手航空会社の日本航空とANAも海外のドローンソリューション事業者と手を結んでいる。2020年9月には日本航空と検体や医薬品などの輸送事業を手掛ける米Matternet社がドローン医療物流事業に関して、またANAホールディングスは2021年4月にVTOL型ドローンを開発する独Wingcopter社とドローンの配送事業化に向けた業務提携を締結。さらに2021年6月には日本郵便と日本郵政キャピタルが、ACSLと国産ドローンの実用化で資本・業務提携を結ぶなど、2020年以降、物流事業者やドローンメーカーの結びつきが強まってきている。

2022年後半に解禁となるレベル4の飛行

 「小型無人機に係る環境整備に向けた官民協議会」が毎年6月前後に公表する「空の産業革命に向けたロードマップ」で、ドローン物流に関して実現する内容のイメージと時期が示されている。2019年版のロードマップで有人地帯における補助者なし目視外(レベル4)による飛行を2022年度に実現するとし、2022年度以降に「都市を含む地域における荷物配送の実現・展開」が掲げられた。この工程表に合わせて政府ではレベル4を実現するべく航空法の改正の準備を2020年3月から進めてきた。そして、2021年6月4日に航空法の改正案が国会で可決、同11日に公布されている。
 この改正航空法では、新たに機体認証と操縦ライセンスの制度を創設。さらに、ドローンの飛行リスクを3段階に分類し、レベル4は最もリスクの高いカテゴリーⅢとして、飛行には機体認証と操縦ライセンス、そして飛行についての審査を必須の条件としている。また、機体認証と操縦ライセンスは、飛行できるリスクレベルに応じて、機体認証については第一種と第二種、操縦ライセンスについては一等資格と二等資格に区分し、レベル4の飛行ではそれぞれ第一種認証、一等資格を必要としている。
 さらに、機体認証は国が指定する民間の認証機関が行うこととし、操縦ライセンスは国が指定する試験機関で試験を受けるか、国に登録した講習機関の講習を受ければ一部の試験が免除されるという、自動車の認証制度や運転免許証に似た制度を設けている。こうした新しい制度は2022年12月までに施行されることとなっており、公布から施行までの1年半の間に、国は制度の詳細を詰めていくことになる。

ドローン物流のフェーズ

資料4  ドローン物流のフェーズ(2021年7月時点)(出所:『ドローン物流の現状と将来展望2021』インプレス総合研究所より)

 2021年7月現在のドローン物流のフェーズは、そのほとんどが未だ実証実験の段階である。「山間・離島などへき地への輸送・配送」については、一部の実証実験が配送料金を利用者から徴収する形で行われているが、いずれも実施期間が1~3か月間程度で、継続的な事業を行っているのは長野県伊那市の支え合い買物サービス「ゆうあいマーケット」と、香川県高松市のかもめやが、2021年8月に香川県三豊市で離島への医療物資配送を目的とした定期物流航路を開設したなど、極めて限られている。また、UAVによる「都市部戸宅配送」については、ドローンが有人地帯を避けて通れないため、2022年後半のレベル4飛行の解禁を待って、実証実験が始まるという段階にある。

 こうした都市部を中心にしたドローンによる配送は、むしろ「公道を活用した配送」としてUGVの方が進み、2020年度からは公道上の実証実験が始まっており、2021年度末までにはUGVが公道走行するための法令が整備されることとなっている。また、UGVの「マンション・ビル等の屋内配送」も、これからさらに実証実験が進むと見込まれる。

 「災害時の物資輸送」は2019年10月の台風19号の被害で、道路崩落により孤立した集落に援助物資を届けるために、東京都がドローンを飛行させた事例にはじまり、その後、災害時の物資輸送の訓練も行われるなど検証段階にある。また、政府では2025年までに災害時に物資を輸送するための国産ドローンの開発を進めるとするなど、今後、技術とオペレーションの開発が加速すると見込まれる。

 「運搬」用途のドローンについては、利用シーンやニーズがニッチなマーケットではあるが、すでに林業用途で苗木を運搬するドローンが製品化されており、事業化フェーズの段階に入りつつある。また、空飛ぶクルマを開発するSkyDriveは、その技術を生かした超大型のカーゴドローンを2021年中にもデリバリーを開始するとしており、技術面での折り合いが付けば、この分野の市場の拡大はいち早く進むと見込まれる。

 ドローン物流はこれまでの5年間に全国各地で行われてきた実証実験等で、技術的な知見が蓄積されてきている。特に2022年後半のレベル4実現に向けた制度の整備に合わせる形で、2020年頃からドローン物流に関する取り組みは大きく加速。今後はドローン物流のニーズの掘り起こしや、ドローンが運ぶべきものの見極め、そして採算といった事業面での検証が求められている。

 国が支援するプロジェクトでもそのテーマは、実用化として事業を成り立たせる取り組みに重心が移りつつある。また、2020年度からは東京都も「ドローンを活用した物流サービス等のビジネスモデル構築に関するプロジェクト」を3年の期間で行っている。今後もこうした中で、ドローン物流の課題が掘り起こされていくことで、ドローン物流が広く社会の中に実装されていくことが見込まれる。

『ドローン物流の現状と将来展望2021』発売
急速に社会実装に向かうドローン物流の最新情報を集約!
大手物流事業者からドローン企業まで、物流業界の全体像から市場を調査分析!

【本書のポイント】
1. ドローン物流市場の現状と課題を整理し、将来の展望を分析
2. 企業、行政が進めるドローン物流の最新動向を網羅
3. 物流分野におけるドローンの役割や効果、プレイヤー、期待されるシーンを分析
4. 国が進めるプロジェクトの最新動向なども掲載
5. 先行している国内企業の動向を掲載

『ドローン物流の現状と将来展望2021』
執筆者:青山祐介、インプレス総合研究所(著)
発行所:株式会社インプレス
判型:A4
ページ数:206P
発行日:2021/8/17
価格:CD(PDF)+冊子版 104,500円(本体 95,000円+税10%)、CD(PDF)版 93,500円(本体 85,000円+税10%)、ダウンロード版 93,500円(本体 85,000円+税10%)
https://research.impress.co.jp/drone_logi2021