「産業用ドローンのソリューションは5つの要素が統合されて初めて成立します。ドローンの機体、そこに搭載するセンサー、ソフトウエア、サービス(保守・点検・保険)、そして教育です。これまでドローンのメーカーが提供してきたのは先の4つですが、さらにドローンの利活用を進めるためには、教育の提供が不可欠であり、それがDJIのUTCです」。

 こう語るのはドローンで世界のトップシェアを誇るDJI JAPANの呉 韜(ご とう)代表取締役。DJIがグローバル規模で展開する「UTC(Unmanned Aerial System Training Center)」は、ドローンの基礎からさまざまな産業分野におけるドローンの利活用を、DJIというドローンメーカーの立場で教育するプログラムだ。そんなメーカー主導の体系的な教育プログラムという新しい取り組みについて、呉氏に聞いた。

「DJIのドローンを一番よく知るメーカーだからこそ教えられること」

 DJIによると産業用ドローンの市場が拡大する中、調査した企業の半数近くが現在はドローンを利用していないが、今後その採用を検討していたり、具体的な計画を立てているという。しかし、その一方でドローンを導入するにあたって、ドローンに関して適切な教育を受けた人材の不足という課題を抱えており、これがドローン導入のハードルとなっていることを指摘する。DJIとしては教育こそが今後、企業がドローンを活用していくにあたって不可欠なことであると考えている。

ドローン導入に関する企業の意識をDJIが米国で調査したところ、回答した企業や部門の46%が検討中、または未導入ながら明確な導入計画があると答えている。
ドローン導入の課題に関する企業の意識をDJIが米国で調査したところ、「教育を受けた人材の不足」が約半数を占めた。

 こうしたドローンに関する教育の課題を解決する取り組みとして生まれたのが「UTC」だ。日本では2016年からDJI JAPANが「DJI CAMP」として操縦技能認定プログラムを展開。現在ではインストラクター250名、スペシャリスト3,000名という技能認定者を輩出するに至っている。そしてほぼ同時期にこうしたドローンの教育システムへのニーズが海外でも高まり、DJIの世界的な教育プログラムとしてUTCが2016年にスタート。日本でも2018年9月からUTCのサービスが始まった。

 ドローンの教育プログラムは、UTCのほかにもさまざまな団体や企業が展開しているが、UTCはDJIというドローンのメーカー自らが提供する教育プログラムである。「DJIはドローンのグローバルリーダーであり、日本でもドローンユーザーのほとんどがDJIの製品を利用しています。こうしたユーザーに対して、DJIのドローンについて一番よく知っているメーカーだからこそ教えられることがあります」とその意義について説明する呉社長。UTCのトレーニングの中に含まれるDJIのアプリケーションの使い方や機体の設定や点検方法といった内容は、メーカー主導の教育プログラムならではのものだといえる。

 「ドローンを飛ばすための基本操作もお教えしますが、DJIのドローンの操作は簡単で、ただ飛行させるだけであれば誰にでも扱うことができます。しかし業務となるとそうはいきません。例えば測量であれば『DJI GS PRO』というアプリを使いますが、このアプリの使い方から取得したデータを3次元データにするところまでをUTCの教育プログラムでは教えています。このようにUTCで学んだ人が、実際に現場業務が遂行できるようにするのがUTCなのです」(呉社長)。

グローバル規模で標準化された高い水準の教育プログラム

 グローバルでは発足から3年目を迎えるUTC。アジア、ヨーロッパを中心に200を超えるキャンパスと1000人を超える教官を擁し、すでに4万人を超える卒業生を輩出している。アジアでは中国、台湾、香港、日本のほかにマレーシアに拠点があり、今年3月には北米でもスタートしている。

2016年6月に中国で発足したUTCの取り組みは、全世界に広がり始めている。

 UTCはドローンの教育プログラムの開発やそれを実施する教育施設を提供することにとどまらず、グローバル規模のドローン教育の標準化や認証システムの構築を実現。さらにはドローンを使った雇用機会の創出や、産業用ドローンを利用するオペレーターのコミュニティといった、ドローンを産業分野で活用するためのエコシステムの構築を目指しているという。

UTCのビジョンはカリキュラムや施設といった教育プログラムそのものに加えて、標準化や認証システムの構築、さらには雇用機会やコミュニティの提供といったエコシステムとなっている。

 カリキュラムでは最新技術を持ったDJIのドローンを使いこなしたり、各産業分野でDJIのドローンのパフォーマンスを存分に発揮するという、ドローンメーカーならではのアプリケーションを提供。それをUTCのどの施設でも同じクオリティで受けられる標準化を進めている。また、受講の認証システムもやはりグローバルレベルで標準化するという。さらに、こうした世界規模の連携を生かしたエコシステムの構築も、グローバルで大きなシェアを持つDJIというメーカーならではの取り組みだといえる。

 UTCの教育プログラムは単にドローンを飛行させる、ということにとどまらない。各産業分野でドローンを活用するための具体的な作業を学ぶためのプログラムを用意するほか、機体の設定や点検方法といった、メーカーだからこそできる教育プログラムの提供も含まれる。そのためには一般的な座学講習や実技講習だけでなく、フライトシミュレーターやオンラインでの講習といった幅広い講習スタイルを提供していく予定だ。

「各産業の現場でドローンを正しく安全に使いこなせるようにする」

 UTCはグローバルな取り組みでありながら、日本のマーケットにあわせた教育プログラムも提供している。
 産業向けには「UAV写真測量 初級編」、「写真測量システムTSトラッキングUASトレーニング」、「Phantom4 RTK写真測量講習プログラム」といった、測量分野に特化した産業向けのドローン活用プログラムを実施。それぞれコマツ、トプコン、国際航業という測量分野の専門企業とパートナーシップを組み、ユーザーがドローンを使って実際の現場で業務に取り組めるプログラムを提供している。

各産業の代表的な日本企業と連携し、業務の現場で正しく使いこなせるようにするための教育プログラムが用意されている。(左)コマツと連携した「UAV写真測量 初級編」、(右)国際航業と連携した「Phantom4 RTK写真測量講習プログラム」の授業風景

 今後は農業や点検用途向けのプログラムの提供も視野に入れており、「農業分野にはヘリコプターやドローンによる農薬の空中散布や農薬取締法といったルールがあります。こうしたルールがあればメーカーとしてもドローンを普及させる努力ができます」と呉社長。点検分野のプログラム拡充にも意欲を示していて、外壁タイルやコンクリートの点検といったプログラムが考えられるという。

 一方、UTCのプログラムには、もっぱらコンシューマーおよび空撮ユーザー向けとして、10時間の飛行経験を積んだユーザーに向けたおもに空撮のための飛行技術を教える「DJI CAMP」を用意。また、飛行経験が10時間に満たない初心者向けとして、「DJIの教科書 ゼロからはじめる ドローントレーニング」という新メニューを6月に開設した。サブスクリプションでカリキュラムを提供するという新しいビジネスモデルを展開し、全国の講習団体がDJIの教科書を導入することでカリキュラムの標準化を目指している。

DJIが監修した初心者向けカリキュラム。ドローンの操縦未経験者から、操縦経験があるものの更なるスキルアップを目指したい人など幅広い層を対象にしたカリキュラムとなっている。

 これからますます産業でドローンの活用が進む中、「ドローンは単にハードウエアとしてだけでなくソリューションとして進化していく」と話す呉社長。これまでのドローンに関する教育といえばドローンそのものを安全に飛行させることが目的であったが、これからはこうしたドローンのソリューションを教育するプログラムの必要性がますます高まるという。

 「現在、日本には多くのドローン講習団体がありますが、ドローンを業務に導入したい企業にとってどのスクールを受ければいいのかわからないという人が多いようです。DJIはそんなドローンの講習団体をメーカーの立場で支援し、UTCを通じて日本のドローンパイロットがプロとして活躍できる場を創出していきたいと考えています」。

各教育プログラムの内容
プログラム内容
DJIの教科書 ゼロからはじめる ドローントレーニング世界で最も現場活用されているDJIのノウハウをもとに作成されたドローン初心者向けカリキュラム。全国の講習団体、企業内ドローン教育向けに開発されている。本カリキュラムを採用することにより、カリキュラム開発に時間を割く必要はなくなり、教官のスキルアップやスクールのサービス向上に注力することができる。
DJI CAMPスペシャリスト認定講座l10時間以上の飛行経験を持つドローン操縦者向けのDJI JAPAN による技能認定制度で、3,000人以上の技能認定実績がある。(国土交通省航空局HP掲載の技能認証制度)
UAV写真測量 初級編コマツが現場で培った写真測量の知見と、DJIのドローンに関するノウハウを統合した教育プログラム。写真測量やドローンに関する基礎的な知識の習得から、現場を想定した実習を行う。(国土交通省航空局HP掲載の技能認証制度)
写真測量システムTSトラッキングUASトレーニングトプコンのTSトラッキングUAS(DJIのMatrice 600 Pro対応)は、直接カメラ位置を計測することにより、標定点の設置をなくし、安定した計測精度を得ることができる。この教育プログラムでは、その測量手法の習得および、写真測量に関する基礎的な概念の理解や使用する機器・ソフトウェアの使い方を体系的に習得できる。(国土交通省航空局HP掲載の技能認証制度)
Phantom 4 RTK写真測量講習プログラム3次元計測用の高精度ドローンであるPhantom 4 RTKを活用した正しい測量手法を学ぶことができるDJI公式トレーニングプログラム。国際航業で長年培われた写真測量の知見を、Phantom 4 RTKの機体特性に最適な形で反映させている。