2024年12月3日、AstroXと宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA)は、気球に搭載した大型構造物の姿勢を高精度にコントロールする「気球用プラットフォーム懸垂型姿勢制御装置」の研究開発に関する共創活動を実施すると発表した。これにより、高空での気球の多様な用途への活用と運用性向上の実現を目指す。

 新たな発想の宇宙関連事業の創出を目指す「JAXA宇宙イノベーションパートナーシップ(以下、J-SPARC)」の枠組みのもと実施する。J-SPARCは、宇宙ビジネスを目指す民間事業者等とJAXAとの対話から始まり、事業化に向けた双方のコミットメントを得て、共同で事業コンセプト検討や出口志向の技術開発・実証等を行い、新しい事業を創出する。

AstroXとJAXAのロゴ、気球用プラットフォームとしての懸垂型姿勢制御装置の研究開発に関する共創活動を実施

 AstroXは、高空での気球を用いた事業の実現を目指し、気球用懸垂型の姿勢制御装置の開発に取り組み、試作機の構築・試験を実施している。一方、飛翔中の気球ダイナミクスや成層圏環境に関する専門的知見、制御装置の実フライトによる実証試験という課題があった。

 JAXA宇宙科学研究所(ISAS)では、気球を用いた天文観測等の研究を多数実施しており、搭載大型望遠鏡やセンサーの姿勢制御に関する技術・経験を蓄積している。AstroXはこの技術や経験を事業に活用する。JAXAは、高性能な姿勢制御装置を汎用システムとして構築することで、今後の気球実験実施にあたっての基盤技術として、次世代の天文観測実計画を含むさまざまな実験へ利用できるようになる。こうした期待から、両者は共創活動の合意に至った。

 AstroXは、姿勢制御装置の地上での評価試験、製品としての繰り返し利用に必要な高信頼化・高耐久化の技術開発、姿勢制御装置のパッケージ化開発を行う。JAXAは、気球本体に懸吊(けんちょう)し大型搭載物の姿勢を高精度で制御できる姿勢制御装置の開発と、開発した装置の実フライト試験環境での技術実証に向けた準備を実施する。

 2025年度に地上でのシステムレベルの評価試験を行い、2027年度の姿勢制御装置のパッケージ化を目指す。

共創活動の概要図

 AstroXは気球用プラットフォームとしての懸垂型姿勢制御装置の開発推進により、高空での気球を用いた事業の早期実現を目指すとともに、非宇宙分野製品(高高度プラットフォーム(HAPS)や地上用クレーン等)への適用といった事業の拡大を狙う。

 JAXAは今後の気球天文観測に、本開発で得た姿勢制御装置を活用し、気球実験における基盤技術の高度化を目指す。

AstroX代表取締役CEO 小田翔武氏のコメント

 AstroXは、「宇宙開発で”Japan as No.1”を取り戻す」をビジョンに掲げ、高頻度かつ低コストでの衛星打ち上げを実現するため、気球とロケットを組み合わせた『ロックーン』技術の実用化開発を行っています。これまで、高空での気球を用いた技術の開発に取り組んでまいりましたが、J-SPARCを通じたJAXAとの共創により、さらなる技術の確立と早期の実証が期待できることを大変嬉しく思います。

 本共創活動を通じて、宇宙ビジネスの新たな可能性を追求するとともに、HAPSや地上設備といった非宇宙分野にも応用できる技術の展開を目指します。 JAXAとの強力なパートナーシップを活かし、今後の研究開発を加速させ、『ロックーン』技術を極め、人類社会に新しい宇宙輸送技術をもたらし、世界文化に技術で貢献してまいりたいと思います。

※ロックーン(Rockoon):気球により、高空からロケットを打ち上げる方式

JAXA宇宙科学研究所 大気球実験グループグループ長 福家英之氏のコメント

 JAXA宇宙科学研究所(ISAS)では宇宙科学研究のための成層圏気球(大気球、だいききゅう)による飛翔機会を提供するとともに、関連する技術や設備の開発などを行っています。大気球実験は、人工衛星や観測ロケットといった他の飛翔体による研究に比べて、短い準備期間でも実施が可能であり、実験機器の大きさ・形状などの制約条件が相対的に厳しくないなどの利点があります。こうした特長を生かして、大気球実験は最先端の科学成果を生み出すとともに、新たに宇宙科学分野に参画しようとする多くの研究者の入口となってきました。

 天文観測用の望遠鏡など気球に搭載した構造物の姿勢を制御して行う大気球実験は、過去にも多数の実績があり、今後も多くのニーズが見込まれます。本共創活動を通じて姿勢制御装置の汎用化や高機能化を進めることで、理工学研究におけるこれらのニーズに応えるとともに、AstroXや非宇宙分野の事業で必要とされる技術にも貢献する所存です。