2023年9月26日、東急建設と東京都市大学理工学部 機械工学科の西部光一准教授らは、ドローンが上壁(橋桁や天井などの構造物)近傍での飛行時に制御不能となることを予防し、安定化させる新技術を開発したことを発表した。

 近年、ドローンは農業や物流、防災、建設業など、さまざまな分野で社会実装に向けた取り組みが進んでいる。しかし、上壁近傍を飛行する際に急激な推力上昇が生じて、ドローンが上壁に衝突、損傷・墜落するという問題があった。

 今回、新たに圧力回復孔を設けた回転翼(プロペラ)を開発し、天井効果(※1)による上壁近傍での推力上昇を、従来に比べ約20%抑制することができた。これにより上壁にドローンが衝突しづらくなり、上壁近傍においてより安定した飛行を実現する。

※1 天井効果:ドローンが上壁に近づくと、回転翼によって生成される旋回流が上壁と干渉し、ドローンと上壁間の気圧が下がって上昇する力(推力)が増大する効果。同効果が作用し、推力が急増すると飛行制御が難しくなり、上壁に衝突する問題が起きる。

ドローン利用の普及を妨げる問題

 国土交通省が推進する建設現場の生産性向上を目的としたプロジェクト「i-Construction」の検討項目である「ICTの全面的な活用」の1つとして、建設中のビルや建設後の橋梁の監視などにドローンを利用する検討がなされ、一部ではすでに実用化が始まっている。一方、ドローンが上壁近傍を飛行する際に、上壁に吸い寄せられるように機体が急に上昇する力(推力)が高まり、壁に衝突して損傷または墜落する問題が生じ、ドローン利用の普及を妨げる原因の1つとなっている。

研究概要

 機体上部の構造物(上壁)近傍を小型マルチコプター(ドローン)が飛行する際に生じる天井効果によって機体が上昇する力(推力)の増大を抑制する新しい回転翼(プロペラ)として、回転翼の軸(ハブ)部分を貫通する圧力回復孔付き回転翼を発明した。

 同研究では、まずドローンが上壁近傍飛行時に推力が急増するメカニズムの解明を試み、回転翼と上壁の間に生成される旋回流によって同間の気圧が減少すること、ドローン近傍の流れが反転することが推力を急増する一因であることを実験的に明らかにした。

 推力の上昇が回転翼と上壁の間に生成される旋回流によって生じる減圧に起因することに着目し、ハブ部分に設置した貫通孔を通じて減圧量を抑えることによって、上壁近傍飛行時の急激な推力上昇の抑制を試みた。

ドローンの例

 従来翼を搭載したドローンの回転翼と上壁の距離gが、回転翼直径Dの10分の1(g/D = 0.1)付近で推力が急増するのに対して、発明翼の場合はその上昇度が小さくなり、その推力上昇率(上壁最接近時と上壁から十分離れた場合の推力比)は、従来翼搭載の場合に対して約20%抑制可能であることが実験的に明らかとなった。これにより、上壁近傍における飛行制御性・安全性の向上が期待される。

上壁近傍飛行時のイメージ図
上壁までの距離と推力の関係例(4000rpm一定)

既存ドローンへの適用が容易、さまざまな大きさの機体への応用

 今回発明した回転翼は比較的単純な構造のため、制作性も高く、既存ドローンへの適用が容易なことから速やかな実用化が可能であり、屋内環境下や構造物に近接して行う点検や軽作業へのドローン活用促進に寄与すると考えられる。また、幅広い回転翼の大きさ・形状および運転条件に対応可能であることから、小型ドローンだけでなく、さまざまな大きさのドローンへの応用も期待される。

論文掲載誌:Journal of Fluids Engineering, Transactions of the ASME(DOI:https://doi.org/10.1115/1.4063331