2022年12月22日、Liberawareは、総合化学メーカーであるトクヤマのセメント製造設備に、産業用小型ドローン「IBIS」による点検サービスを導入したことを発表した。

 実際の現場で2回のテスト飛行を実施し、狭小空間や粉塵が舞っている環境下でも問題なく飛行できることを確認後、IBISによる点検サービスの導入を決定。2022年度からサイクロン内部の点検を中心に、Liberawareが点検を行っているという。

 Liberawareが開発した国産の産業用小型ドローンIBISは、直径20cm、重量185gと小型であるため、一般的なドローンでは困難な屋内・狭小空間でも飛行ができる。

セメント製造設備と、トクヤマ セメント製造部 設備保全課 松田弦也氏。
点検の様子。奥の内筒をドローンが飛行中。ドローンからの映像を見ながら操縦する。
産業用小型ドローン「IBIS」

 トクヤマでは設備管理業務のスマート化を進めており、その取り組みの一環として、屋外にある設備の外面は設備保全課の課員がドローンを操縦して点検していた。設備内部の点検については、狭く、粉塵が舞っている箇所もあるため、一般的なドローンが飛行するには機体の大きさや性能上の問題があり、墜落する危険性が高く実施できていなかったという。

 セメント製造で使用する装置「ロータリーキルン(回転窯)」は3系列で24時間連続稼働しており、設備点検を定期的に行っている。セメント製造ではまず、原料となる石灰石を粉砕して約1450°Cに熱したロータリーキルンの中で焼成し、クリンカーと呼ばれるものに加工する。このクリンカーを再び粉砕し、石膏を加えることでセメントができあがる。

 ロータリーキルンに投入する前に、セメント原料をニューサスペンションプレヒーター(予熱装置)で予熱する。この装置は複数のサイクロン(固気分離装置)で構成され、ロータリーキルンで発生した高温ガスにセメント原料を投入し加熱する。サイクロン内部ではガスとセメント原料が混ざった気体が移動するため、内部にある筒(内筒)が徐々に摩耗していく。

 サイクロンは1基のニューサスペンションプレヒーターに約10基近くあり、それがさらに3系列ある。サイクロンの内部はすり鉢状になっているため一般的な足場は設置できず、工期と費用が多く掛かる特殊な足場を設置する必要があり、課題になっていたという。さらにサイクロン内部はとても狭いうえに、粉塵が舞っている空間のため、人が点検作業をするには厳しく危険性が高い環境であった。

 IBISは狭小空間や粉塵が舞っている中でも飛行できることから、徳山製造所のセメント製造での設備点検に導入された。足場の設置が不要となることでコスト削減や工期短縮を実現し、人では危険な環境下でも点検を行うことができる。

 点検後は、IBISが撮影した動画データを提供するほか、画像処理を行い、三次元モデルやオルソ画像、点群化データへの加工を行う。これにより、これまでの目視点検ではできなかった精度でデータを可視化し、設備の状況を正確に従業員全員で把握することが可能になった。

IBISで撮影した映像から生成した、サイクロン内部にある内筒の三次元モデル。
サイクロン内部のオルソ画像。画像上で位置・面積・距離などを正確に計測できる。

 また、トクヤマではこれまで、目視点検の知見、過去の経験値に重きを置いて、サイクロンの保全周期を決めるTBM(時間基準保全)で保全を行ってきた。IBISにより高精度の点検データを取得・蓄積することで、設備の劣化や正確な部品の寿命など、設備の状態を正確に把握できるようになったことから、今後は点検データを蓄積しながら、設備の管理をTBMからCBM(状態基準保全)に移行し、より計画的な保全が行える。